龍と鑑定士

ふっしー

プロローグ

芸術の都と鑑定士

 ――芸術大陸『アレクアテナ』。

 芸術の神アテナの名を冠するこの地は、芸術の都として知らぬ者はいないほど有名な大陸である。

 アレクアテナ大陸の住民達は、地位や身分、老若男女、種族問わず、創作活動に取り組み、作品を生み出し続けている。

 世界的に著名な芸術家は、もれなくアレクアテナ大陸出身だと言われているほどだ。


 またアレクアテナ大陸には『神器デバイス』という、魔法を操って様々な能力を発揮する一風変わった芸術品がある。

 神器は、誰もが少なからず持っている魔力を糧として、時に火を起こしたり、時に水を凍らせたりと、その能力は多種多様だ。

 神器の人智を超えた能力は、扱いを間違えば危険な代物になりえるが、高い利便性から人々の生活に深く浸透している。


 アレクアテナ大陸は、レベルの高い芸術と最先端の魔法科学によって、豊かな経済が成り立っていた。


 しかし人々が芸術や魔法に熱中していくにつれて、とある大きな問題が浮上してくる。


 ――それは『贋作フェイク』の大量流通だ。


 大量に出回った贋作は、芸術によって支えられてきたアレクアテナ大陸の経済に多大な影響を与えた。

 芸術品売買において、贋作を掴まされるのではないかと疑心暗鬼に陥り、購買意欲が薄れたのが原因だ。

 贋作が流通する限り、経済の回復は見込めず、芸術の都としての地位は落ちる一方であった。


 そんな事態を解決したのは 、『鑑定士アプレイザー』という職業の活躍であった。


 アレクアテナ大陸に住まう優秀な鑑定士を一同に集め、『プロ鑑定士協会』という組織を設立し、贋作の破棄と市場の管理を任せることにしたのだ。

 プロ鑑定士協会の設立後、鑑定士達によって贋作は次々と見破られ、市場に出回る贋作の大半は姿を消し、景気も上向いた。


 こうしてアレクアテナ大陸は、再び芸術の都としての地位と繁栄を取り戻したのである。


 その功績により『プロ鑑定士協会』は、アレクアテナ大陸にある全ての都市からの信頼を集め、いまやこの大陸にとって無くてはならない大きな存在となった。


 鑑定士が贋作を見破ることで、経済は守られる。

 鑑定士がいる限り、アレクアテナ大陸では二度と経済崩壊は起こらないと、人々は信じていた。

 そう、信じきっていたのだ。


 ――目の前の贋作を、本物だと信じ込むように――。




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