帝国への海図 Ⅰ ~レックダイビング~

高栖匡躬

プロローグ

バージニアビーチ沖

 広大な北アメリカ大陸の東方、まだ夜が明けきらぬ冬の海には、一つの黒い塊が浮かんでいいた。


 それはクジラのような形状をしてはいるものの、遥かに巨大であり、長さは優に100mを越えた。


 丈の低い波がその黒い塊の表面を洗い、海水に濡れたその表面は、薄暗い日差しをぬらぬらと反射していた。


 突如その塊の上に、オレンジの炎が揺れたかと思うと、一瞬にして灰色の煙がそれを包み隠した。

 そしてその煙の中からは、円錐状の物体が付き出して上昇を始めた。


 はじめはゆっくりと……


 しかしそれは急速に速度を上げながら、垂直方向に駆け上がり、やがてそれは西方に進路をとった。


 向かう先には、アメリカ合衆国があった。


 円錐が、垂れ込める雲の中に隠れた頃、海面に浮いていた黒い塊は、既に姿を消していた。


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