第二章 魔王 眷属を得る 第1話 魔王、階を重ねる1

大体今までの俺は驕り高ぶるにも程があった。

俺の魔力は確かに魔王と呼ばれるにふさわしいだけのそれではあるが、文字通り昨日今日なったばかりの魔王なのだ。

ピカピカの魔王一年生である。

そう考えれば自ずと今必要なことも分かりそうなものだ。

千里の道も一歩からという。

まずは一段一段と魔王レベルを磨いてゆくことが肝要だろう。


ちなみに魔王レベルとは俺が考えた造語だが、魔王としてありうべき行動、言動のスキル上昇を表すレベルのことである。

具体的に言えば、圧倒的な力を隠しながら弱者に仮初の希望を与えて弄ぶとか、絶望の悲鳴を肴に血のワインを燻らせるとか、死力を尽くして勝利した英雄にお前が倒したのは影武者にすぎんと嘲笑うとか・・・

そういった行為は最高位レベルというもので今の俺には到底出来ないことだ。それを素直に認めねばなるまい。人間・・・いや魔王にも謙虚さが大切なのだ。


魔王1レベル、それに相当する行為とすれば魔術的な儀式や魔力増強の為にグロテスクな食事に舌鼓を打つというような行為ではなかろうか。

そして今俺の目の前にはそんな魔王レベルの上昇経験値を積むのに似つかわしい者達が不気味な重低音を出して強い警戒心を露わにしていた。


蜂の巣である。


「食えるよな・・・ハチノコって聞いたことあるし・・・蜂蜜も取れる筈」


『魔王の威厳』の効果は昆虫までには及ばないので、逃げ出すことはない。最も触れた端から『穢れたる肌』の効果で腐り死ぬだけなので、危険もないのだが。

ちなみにこの世界に転生して虫刺されは一回もない。これだけは割と便利である。


「自らの国を守ろうとするその気概、下等生物にしては中々のものだ。どうだ?我が軍門に降るつもりはないかね?」


・・・当然ながら反応はない。ひたすら警戒音を発するだけだ。

蜂を配下に加える魔王も見たことはないが、正直結構デカい虫に、しかも刺すやつに直に触るのが少し怖い。

いや大丈夫なのは分かってるんだが。


おっかなびっくり巣の周辺を飛び交う働き蜂を払い飛ばし、巣に纏わりつく蜂たちを本体の蜂の巣を腐らせないよう注意して落としていく。

そうやって働き蜂達を排除すると、ようやく無数の六角形の穴が開いた板状の連なり、蜂の巣本体が全貌が露わになった。

巣穴を覗いて見ると、蛹ともじもじと動く幼虫が見える。


「これごとかぁ・・・」


蜂蜜は美味そうに思えるんだが。

長野県の名物だっけ。長野県民は生まれつき魔王レベル1を獲得しているのだろうか?


いっその事確認しないで一気に齧り付いた方が良かったな。迷いが増えるだけだ。

一旦辺りを一周しながら、やっぱり魔王レベルの低レベルクリアは出来ないものか、低レベルクリア動画を動画サイトにアップして再生数をあげられないか、さらには人気生主として女子中学生と出会えないか。

現実逃避に正に人類の敵とでもいうべき邪悪な妄想を弄び尽くした後、ようやっと覚悟を決める。


板状になった蜂の巣に端から噛り付く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る