第6話 魔王、人里を探す2

哄笑は3分半程続けられた。昨日が3分くらいだったからこれは魔王としての成長といえなくもない。何より『魔王の聖杯』のおかげで水の確保が出来たからであろう。

音速を優に超える速度でとりあえず一直線に上空を進んでゆく。森を一瞬で抜け、山岳、大河をフラッシュのように過ぎ飛ばし、海上を延々飛び続ける。極地なのだろうか氷漬けの山野を通り抜け、また海を越え、砂漠を越え、平野を越え・・・・・・

嫌な予感がしてきたがそれでも飛び続け、太陽が天頂に差し掛かる頃その嫌な予感が的中した事が分かった。


眼前に見えるのは滝と泉を持つ谷、つまり地球を一周してしまったのだ。


少なくともこの一周する間には何一つ人工物を見付けられなかった。念の為に降りて確認したが倒れた大木といい、聖杯の安置場所といい間違いなく元の場所だ・・・

音速を相当超えたスピードで飛び続けた訳だから見逃しということもあるかもしれないが、最悪の場合既に人類が滅んでいるという可能性も捨てきれなくなってきた。まぁ魔王としては人類ごとき滅んでいても別段構わないとはいえるけれども。

巨大生物の類はたまに見かけたのだが、高度な知性を持つとも思えず放置していた。

「あれぐらいのサイズならどうやら逃げ出さないようだから今度は話しかけてみるか」

コミュニケーションが取れるかといえば望み薄だろうが。

とにかく飛行速度を遅くしてじっくり探索するほかないだろう。

そう考え探索に復帰した。


『魔族の比翼』による超音速飛行ではなく「浮遊」の魔法に切り替えての探索はなかなか実を結ばなかった。泉を起点として渦を巻くように辺りを探っていく地道な作業を繰り返し、見つかるものと言えば獣道か巣穴ばかりだ。

夕方まで探索し続け、もう今日は諦めるかと森の端にまでたどり着いた時、ついにそれは見つかった。

建物というより丘を削り出したような構造の建築物だ。学校の校舎くらいのサイズだろうか。おそらく元から地形に馴染みやすいデザインにしているのだろう。上空からでは丘の一つにしか見えない。しかもどれだけの長い時間放置されたのか、全体を低木や蔦が包んでいる。

建てられた当時はそれなりに洒落た建物だったのではないかと感じられたが、今は人の痕跡は何もない。

エントランスは探すまでもなくすぐ見つかったので足を踏み入れた。


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