第12話 因果応報

 私たちがいる場所は見晴らしの良い草原。

 そこで身を隠せる場所と言えば、ポツポツと建っている建物の陰くらいしかない。

 まあ、建物って言ってもボロボロの廃墟だけど。

 途中襲ってくるスズメさんとかコウモリさんとかをヤマトがやっつけて、隠れるのに丁度良い建物の陰まで来るとヤマトが話しかけてきた。


「そういえば、言い忘れていたな。ヒナミ、ここは五番塔三業の一階層。階層名を狂鳥の餌場という」


「キョウチョウの餌場?」

「そうだ。ここにいる試練の魔物は鳥の形をしているモノが大半だ。だから、その名がついた」

「そうなんだー」

 よくわからないけど、この場所には鳥さんが多いってことかな?


「……ヒナミ。俺の話を理解しているか?」

 私が生返事をすると、ヤマトが疑わしそうに見てくる。なかなか鋭い。いっその事、わからないことは聞いてみよう。


「うーん、実はよくわかんない。えーと、そもそもカイソウってなに?」

「……うむ。改めて聞かれると、答えずらいな。……まあ、便宜的に俺たちのいる場所がわかりやすいように塔の位置を区別して呼んでいるだけだからな。進むたびに、一階層、二階層、三階層と上がっていく」

「ビルみたいに、階段を上がるたびに1階、2階、3階って上がっていくような感じ?」

「ヒナミが言っているビルと言うのがよく分からんが、概ね間違っていないと思うぞ。……ただし、試練の塔にあっては階段で階層を区別している訳ではない」

「うん? じゃあ何で、階ソウを区別しているの?」


「ここは試練の塔。当然、試練の門で区別している」

 ヤマトは空を見上げ、何処かを睨みつける様にして言った。


「試練の門?」

「そうだ。門を突破しないと次の階層へはいけん。……基本的にはな」

 基本的……何か含むような言い方だなあ。


「基本的って言うには、裏ワザみたいのがあるの?」

「ああ。塔と塔を渡している、渡り橋を使うと別の階層へ行ける。……が、これはバクチみたいなものだ。それにいずれにしよ、何処かの門を突破しないと先には進めん」

「ふーん」

 なんとなく、分かったような、分からないような。でも、取りあえずは。

「とにかく、先に進んで、試練の門があれば突破していけば、そのうちお月様に着くってこと?」

「その通りだ」

 単純な話みたいだけどなー。でも、その試練の門を突破していくのが難しいのかな?


「ねーねー、ヤマトはどこまで進んでるの? 塔の攻略」

「…………中腹以上には進んでいる筈だが。……どうしても、突破できぬ門がある」 

「ふーん、裏ワザ使っても?」

「そうだ。その門だけは、避けて通れん。……だから、ヒナミ。お前には期待しているのだ」


 ヤマトがじっとこちらを見つめてくる。

「え?」

「そもそも塔の攻略は、一人ではなく、集団で行うもの。しかし、俺はこの呪いのせいで、女とは行動を共にできぬし、……俺は、男からも嫌われている」

 ヤマトは額の目を指差しながら説明してくれる。

 でもでも、いきなりの嫌われ者宣言!? これは面白い! 変態さんだから嫌われてるのかな? ぜひ、ヤマトをからかってあげなくては!


「プププッ。どーして男の人からも嫌われてるのヤマトー。変態さんだから? ねーねー変態さんだから?」

 私はヤマトの周りをグルグル回りながら、ヤマトをからかう。

 三周くらい回ったところで、私を転がそうとしたのだろう、ヤマトの足が伸びてきた。

 でも私はそれくらい予想していた。

 ぴょん、とジャンプをしてヤマトの足を躱す!


「グエッ」

 あ、……ジャンプしたところでヤマトに着物の襟を掴まれた。そのまま吊り上げられる、首が締まって苦しい。

「こらあ。おろせー」

 私は両手を振ってヤマトに抗議する。


「誰が下すか」

 でも、ヤマトは私を掴んで離してくれない。なんだか今の私って、親猫に首を噛まれてプラプラさせられてる子猫みたいになってないかな? 屈辱だ。


「おろせー。おーろーせー!」

「ち。大声を出しおって。魔物が集まって来たではないか」

 そういうとヤマトは吊り上げていた私を放り投げるようにして地面に落とす。

「へ? ……っいたあ! ……ちょっとお。もう少し優しく下ろしてよー」


 __パタパタパタパタ


 私が抗議していると空からコウモリさんが沢山、地面に落ちてきた。


 このコウモリさん達はたぶん女の子で、変態ヤマトの目にやられたんだろう。可哀想に、みなさんピクピクと痙攣してる。ああ、ご愁傷さまです。やっぱり女の子は変態に近づいてはいけないんだなあ。確かお母さんもそんなこと言ってた気がする。


 地面に落ちて、ぴくぴくしているコウモリさんを見る。

 えーと、ヤマトはなんて言ってたかな、このコウモリさん達を。……そうだ、確か暗闇コウモリとか呼んでたような。私には普通のコウモリさんにしか見えないけど、集団行動して、血を吸ったり、風の術とかを使ってくるらしい。


 コウモリさんはまだ空に沢山いるけど、数は減ってる。

 ヤマトが……切っているところは見えないけど、刀を振ってコウモリさんをどんどん倒しているから。


 __キイキイキイイイイ キイキイ

「ふむ。術を使ってくるか……都合がいいな」

 私が邪魔にならない場所でボーとしていたら、ヤマトがまた私の襟首を掴んで吊り上げる。


「ちょっとお。何するのー!」

 そのまま、私はヤマトの前に移動させられる……盾みたいに。

「しばらくじっとしていろ」


 __キイキイキイイイイ キイキイ

 __キイキイキイイイイ キイキイ

 __キイキイキイイイイ キイキイ


「なんかコウモリさん達が、きいきい言ってる!? ちょっと! 危なくないの、ヤマト! ねえってばあ!」  

「あの程度なら万が一でも大丈夫だ、死にはしない」

「死にはしない!?」


 空を飛んでいるコウモリさんたちのところから、ふわっと風が吹いた。

 これって、私がカマイタチさんの術を使う時と似ている!

 このままだと、私、スパッと切られちゃうのでは。


「こらあ! おーろーせー!」    

 ヤマトは暴れる私を無視して、さらに私の着物の後ろ帯と襟首をガッチリと掴んで固定する。ううう、全然抜け出せそうにない。

「死んだら化けて出てやるー!」


 私は目を閉じた。

 コウモリさん達の場所から、なんか来た。風がブワッて、なってる中、鋭い刃物みたいなのが来た気がする。たぶん、いや絶対私に当たった。

 私は、自分で風術を使ったとき、的がどうなったかを思い出す。……私もスパッと切れて、二つに分かれちゃうのか。


 ……でも何ともない。私は恐る恐る目を開けた。


「くくくくく。やはり、ヒナミには術が効かんか」

「へ? ……大丈夫なの、私? 切れてない?」

「切れていない」

 ヤマトが私を地面に下ろす。一応、私は体中を触って怪我してないか確認したけど、……大丈夫みたい。よかったああ。


「ふむ、術も効かぬとわかって逃げ出したか」

 空を見上げるとコウモリさん達は、かなり遠ざかっていた。逃げて行ったみたい。


 ほっと安心したら、腹が立ってきた。またヤマトは私を実験台にした。……私は怒っている。女の恨みが恐ろしいことを、ヤマトに教えてあげなくては。

 ヤマトはのんびりとした様子で空を見上げている。

 チャンスだ。


 私は少しヤマトから離れて、着物の袖からカマイタチさんが入っている術印書を1枚取り出す。

 フフフフ。

 こういうのは確か、因果オウホウ? とか言うらしい。ヤマトも自分で術を食らってみればいいのだ。


 __カマイタチさん。カマイタチさん。お願い、ヤマトを切って。あ、でもでもあんまり、ズパッとはダメだよ? ちょっと切るくらいでオケーだからね?

「ん? ヒナミ何を……」


 ヤマトが気づいたけど、もう遅いのです。

 カマイタチさんがヤマトに飛んで行った。よおし、頑張れー。この距離なら避けれないだろう、くらえヤマト。インガオウホウー!




 ……相変わらず、ヤマトがモノを切るところは見えない。でも、刀を持っている腕を動かす度に、何かを切っているんだろう。


 ヤマトはサッと腕を振った。

 私のカマイタチさんはいなくなった。……持っていた術印書が燃えた。


 ヤマトが私をじっと睨んでくる。


 ………………あれ、もしかして私、ピンチかも?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る