タカラヒメ

 我が家が住んでいる山は、別荘地になっている。八十軒くらい建っているうち、在住しているのは十数軒。他は週末に来るところや、平日だけ来るところ、年に数回しか来ないところがある。 


 そんな別荘地に馬を飼っている人がいた。家は山を下りた町の方にあり、馬小屋だけこの山の上にあるのだ。


 馬はサラブレッドではなく、道産子。名前はタカラヒメ。

 隣町で毎年行われるお祭りの流鏑馬やぶさめに出場しているらしい。


 引っ越してきた当初、私はそのことを知らなかった。


「おかーさーん。今、お馬が走っていったよ~」


 子どもたちが庭で言っても、半信半疑だった。


 だって、馬がそこら辺を走っているなんて普通は思わないでしょう?


 でもここには本当にいたのだ。


 その後、時々散歩させているのに出会うようになった。うちのすぐ上の角を曲がった先で飼っているとのこと。

 子どもたちはそれからちょこちょこタカラヒメを見に遊びに行くようになった。


 散歩のときはよくうちに寄ってくれるようになり、隣の空き地でクローバーを食べている間に背中にも乗せてもらえたりして、はしゃぐ子どもたち。 


 馬小屋の場所を覚えてからは、勝手に行って眺めたりなでたりしていたようだ。



「お母さん! 坂の下から乗せてもらった! 走ったらすごい速かった!」


 次女は散歩に行くタカラヒメに一緒に乗せてもらったと、興奮して話してくれた。



 この時からちょくちょく子どもたちは乗せてもらっていたらしい。というのは後から聞いた話。そんなに何回も乗せてもらっていたなんて、知らなかった。


 馬場で乗ろうと思ったらお金がかかるのに、君たちは知らない間にいっぱい乗せてもらっていたんだね。よかったね。でも、報告はしてほしいなぁ。知らなかったから、お礼も言ってなかったわ。




 そのタカラヒメも数年前に死んでしまった。


 三男はタカラヒメのことをおぼろげに覚えている程度。四男は全く知らない。それがちょっと残念。


 みんなが大きくなるまで元気でいてほしかったなぁ。

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