未来の書店

 タイムマシンに乗って未来の書店を冷やかしに来た。

 店内に入ると自動販売機と検索機をくっつけたような機械が店中に並んでいる。

「さては、KindleやiPadみたいな端末にデータを入れて料金を払うんだな」

 紙媒体の好きな俺は少し興ざめした。機械を覗いていじくってみよう。

『いらっしゃいませ』

 機械が入った。

「いらっしゃいましたさ」

 私は答える。

『今日はいい天気ですね。ところで何をお求めですか? 音声認識します。書名か著者名を言ってください』

 ほう、そうきたか。

「有象無蔵の『道楽』をくれ」

 私は言った。

『古いご本ですね。でも大丈夫です。本機械は新国立国会図書館に収蔵されている全ての書籍をお求めいただきます。『道楽』ございました。2010年の発行。出版社は門松書店です』

「おお、あったか。あれは、わずか半年で絶版になったからな。マニア垂涎の本だ」

『さようでございます。当チェーンでも初めての販売でございます』

「チェッ、売れていないってことじゃないか」

 私、有象無蔵は舌打ちした。

『お客様、データでの販売ですか? 紙ベースをご希望ですか?』

 なんと、紙の本は生きているのか。俺はちょっと嬉しくなった。

「紙で頼む」

『かしこまりました。お客様、サイズは四六判になさいますか? それとも文庫サイズになさいますか?』

「へえ、選べるのか。じゃあ文庫版を」

『カバーはお掛けしますか』

「せっかくだからつけてもらおう」

『料金は800ゴールドでございます』

「ゴールド? 円は使えないのか」

『円は2200年に使用中止になっております』

「じゃあ、買えない。キャンセルだ」

『お金もないのに、ご来店ありがとうございました。今度はゴールドを持って買いに来てくださいね』

「ああ、じゃあな」

 私は店を出た。その時、ちょっと後ろを見てみた。販売機が四十五度こちらに動いて、あっかんべーをしていた。きっと中に人間が入っているんだと私は思った。

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