■小さな私とあしながおじさん



「家出して来ちゃった……」


「また?!もう家は無理だよ泊められないよ。この前だって母さんが」


「……わかった。ごめん」



 家出常習犯の私に

 友人は大袈裟に

 母さんがさぁ!と

 さも当然とばかり。


 あー


 行くとこない。



 捨て犬にでも

 なった気分。


 黙って座ってたら

 誰かがかまってくれるだけ


 捨て犬のほうが

 マシかも。



 私はぼんやりと

 橋の欄干に腕をついて


 沈む夕日と

 キラキラ光る川を見ていた。



 ゆっくり


 あるいはあっという間に

 お日様が沈んでいくの。



 私も

 連れてってくれないかな。



 このまま

 夜にひとりぼっちなんて

 嫌だな。



 そんなふうに思っても


 太陽さんには

 私を

 どうすることも出来なくて


 わかってるよ、


 私のお願い事は


 いつだって

 無理なことばかり。





「何やってんだお前、こんな所で」



 ぶっきらぼうな

 男のひとの声がした。


 聞いたことのある声に

 ちょっと振り返る。



 こっちに歩いてくる

 二十代後半の男、


 いつもはスーツなのに

 今日はラフな格好だから

 一瞬誰かと思っちゃった。



「先生こそ。こんな所でどうしたの」


「俺は弁当屋に晩飯買いに行く途中だよ、俺のことはいいんだよ」



 ため息混じりに

 そう言った。


 私の学校の先生。


 加勢 大樹。



「毎日お弁当屋さんのご飯食べてるの?かわいそ」


「うるせえ。お前はどうなんだよ」


「……彼氏はいないよ」


「そんなこた聞いてねえ」





「こんなとこでボサッと何してんの。帰らないのか」



 家出中です、とは

 さすがに言えなくて


 私が黙ったままいると


 また溜め息をついた。



「一番。誰かと待ち合わせ。二番。腹が減って動けない。三番。……あと何だ」


「どんな三択……お腹すいてたら食べさせてくれるの?」


「一食くらいまでならな」



 ふざけてるわけでもなく

 真面目な顔で言われると

 逆にこっちが戸惑う。



「じゃあ二番」


「じゃあって何だ。ほんとは何番だ」


「三番」





「……三番か……」



 先生は

 考え込んでしまった。


 私は

 家出がバレて

 責められる気がして


 目をそらす。



 空が

 さっきより赤くて


 闇が広がっていた。



「ぜんぜん浮かばんわ」



 私は

 目を丸くして

 再び先生を見る。



「とりあえず飯が先だ。腹が減ってはなんとやら」



 私に背を向けて

 先生は歩き出す。



「……え」


「ついてこないなら弁当買ってやらんぞ」



 肩越しに振り返り

 私を急かす、


 行ってもいいのかな。



 心は躊躇した、でも

 足が自然と前に出る。


 先生を追いかけて。





 先生が

 いつも買いに行くという

 お弁当屋さんは


 ずいぶん混んでいて

 注文まで

 長いこと並んでいた。



「何食う?」


「えっ…と、からあげ弁当?」



 学校の先生に

 ご飯おごってもらうとか

 本当にいいのかな。


 学校にバレたら

 先生まで

 怒られるんじゃあ……?



 誰か

 知り合いに見つからないか

 そわそわとした。





「ね、これどこで食べるの……?」


「どこってお前。帰って食うに決まってるだろ」



 お弁当だけ渡されて

 家に帰れよ、と


 そういう意味では

 ないのだろうか。



 でも

 先生のお弁当と

 私のお弁当は

 一つの袋に入っていた。


 だとすれば

 まさか先生の家に?


 私も行くってこと?





「せ、先生?」


「何だ」


「生徒の私が先生の家に行くのはヤバくないですか?」



 目が泳ぐ。


 家出は私一人の問題で

 先生を巻き込むのは

 いけない気がする。



「そうか?」


「そうかって――」



 のんびりとした

 緊張感のない声。


 呆れて

 こっちが絶句する。



 もう、知らない。



 先生にまで

 迷惑がかかっても。


 先生が

 無責任な判断を

 自分でしたからだよ。





 先生は

 小さなボロアパートで

 一人暮らしを

 してるみたいだった。


 何だか

 古い建物って怖い。



 玄関のドアは傷だらけ、


 先生の家の隣の部屋は

 小さな窓に

 ヒビも入ってるし


 どんなひとが住人なんだろ。



 チラシが

 あちこちに落ちてる。


 あと

 ゴミもチラホラ。






 鍵をあけて

 先生が中へ入る。


 部屋の中は

 散らかってる様子がない。


 少し安心して

 私も後に続く。



「お邪魔します……」



 思わず小声で

 ひそひそと忍び足になる。


 おっかなびっくり。



「おう。飯の前に親に電話しろよ」


「えっ」


「え、じゃねえだろ。心配させんな」



 軽く頭をコツンと殴られ

 私は言葉をなくす。



『心配させんな』



 ――どうかな、


 家出はもう

 何度目か

 わかんないし


 心配なんて

 特には

 してないかもしれない。





 だいたい

 家出しておいて

 親に電話するとか


 おかしいじゃん。


 それって別に

 家出じゃないじゃん。



 立ち尽くして

 沈黙してる私に


 先生は

 何を気にするでもなく


 折り畳み式の

 ミニテーブルを出して


 ソファーに座ると

 テレビまでつけた。



 完全に

 くつろぎモード全開だし。



「早くしねえと先に食うぞ。弁当冷めるだろ」


「でも……私」


「自分で電話も出来ねえのか?」



 事情も知らないくせに

 ひとを子供扱いして……!





 ムカムカした腹いせに


 私は携帯を鞄から掴み出し

 家に電話をかけた。


 コールは三回鳴って

 誰かが出たけど


 向こうが喋るより先に

 言ってやった。



「私、今日は家出だから!帰らないんだから!」



 それっきり

 応答も聞かず

 通話を終了した。



 ほかほかと

 まだほのかに湯気をたてる

 カレー弁当を前に


 頬杖をついた先生が

 私を見ていた。



「で、電話したわよ」


「…………」



 バラエティ番組の

 くだらない笑い声が

 テレビから響いて


 また先生が溜め息をついた。





「家出ってお前さぁ……」



 私は

 口元に力が入って

 ついへの字口になる。



「ガキだなぁ」



 笑われた。


 呆れた上に笑われた。



「せ、先生に私の気持ちなんかわかんない」


「あー、ぜんぜんわかりません」



 お弁当についてた

 プラスチックの

 白いスプーンで


 カレーなんて食べてる

 先生に言われたくない。



 私はテーブルの横に座り


 自分の分の

 唐揚げ弁当を

 袋から取り出した。



「いただきます!」



 電話はしたんだから

 文句はないはず。


 イヤミを込めて

 強めに言った。





 私が

 開き直った態度で

 お弁当を食べていたら


 先生は

 テレビのボリュームを下げて

 私を見た。



「親と喧嘩でもしたのか」


「……先生、お茶ないの?あと口拭きたい。ティッシュは?」


「そんな大層なもんここにはねえ。嫌なら家へ帰れ」



 意地悪な言い方に

 私はさらにムッとする。



「それまでの暮らしを捨てて家を出るってことは、不自由や苦労を背負い込む覚悟もないまましていいことじゃねえよ。わかったか?ガキ」


「ティッシュくらいあるでしょう?先生だって風邪ひけば鼻水くらいでるでしょ」


「風邪なんざ何年もひいてませんー」



 口では勝てそうにない。


 また

 口がへの字になる。





「……先生は覚悟をして家を出た?」



 私が

 しおらしくうつ向いて

 トーンダウンしたからか


 先生は

 ちょっと動きを止めて

 ガシガシと後ろ頭を

 自分で掻いた。



「俺の話じゃなくお前の話を聞いてるんだがな」


「……喧嘩はしてないよ」



 親と喧嘩なんて

 したことない。


 優しくて

 いつだって

 私を気遣ってくれる。



「それじゃあ何でまた家出なんかするんだよ」


「ダメ。次は先生が答えて」



 一つ話したら

 一つ聞く。


 対等な関係でしょ。



「あー?なんで俺が」



 めんどくせえとか

 呟きながら

 カレーを完食してしまう。



「俺の場合元々親と住んでたわけじゃないし。一人ででかい家に住んでても仕方ないと思って家を変えただけ」


「一人で住んでたの?いつから?」


「ブブー。次はお前の答える番」






 仕方なく

 私は自分のことを

 答えようとして


 やっぱり口をつぐんだ。



 喧嘩をしてないなら

 何故家出をした――


 それに答える

 明確な答は

 自分でもわからない。



「なんで……家出しちゃうんだろう私」


「おいおい」


「何か……何か最近駄目なの。よくわかんないけど自分の居場所がないの」



 嘘はついてない。


 家にいると

 苦しくなる。



「居場所。……居場所ねぇ」


「自分の部屋がないとか椅子がないとか、そういうのじゃないよ」



 答えになってないよな

 私の答えを

 一応聞いたからか、


 先生は自分のことも話す。



「お前ぐらいの歳の頃に両親が事故で死んでから、兄貴と暮らしてた。けど兄貴はいい稼ぎの仕事をするって言って都会に行ったきり、だな」



 次、お前と

 暗に目が語っていた。



「今のお母さん、後妻で。弟は今幼稚園。弟にはお父さんもお母さんも本当のお父さんお母さんだけど。私だけ家族にいらないような……そんな気がする」



 一度も誰にも

 話したことのない

 私の気持ちは


 それが本当なのか


 自分でもよくわからない。



「……あぁ。それで心配をしてほしいんだ」


「!?」



 心配をしてほしい?





 びっくりして

 ぽかんとしていたら


 先生が

 私の唐揚げを

 一つ盗った。



「だってそうだろ。じゃなきゃろくに不満もない家から出ないだろ」


「……唐揚げかえして」


「もう食った」



 私は

 お弁当を

 先生から少し遠ざける。



「居場所がないっていうのも、実はけっこう気持ちの問題じゃねえの?」



 先生を無視して

 無言で食べる。



「居場所は自分で作るものだから。用意されるのを待ってたらそりゃ居辛くなる」



 口の中には

 いっぱいのご飯。


 私は

 目だけ先生に向けた。



「要は遠慮しすぎなんだよ。甘えていいんじゃねーの?せっかくいる親なんだから」





 遠慮。


 それは

 ある意味


 当たっているかもしれない。



 宿題がわからなくて


 何か

 お母さんに

 聞こうとしたとき


 弟のお世話で

 忙しそうだったから

 諦めてしまう。



 前は

 色んなことを

 いっぱいしてくれた


 優しいお母さん。



 でも

 今は弟が

 ギャングエイジだとかで


 ものすごく手がかかる。


 私だって

 いつまでも

 お母さんに頼ってちゃ


 いけないんだ。



 本当の娘でもないのに。





「あー、もしもし。夜分すいません。実はお宅のお嬢さんがブラブラしていたので、……いえ僕は教師です。今はご飯食べさせてます」


「ちょっ……!」



 先生は

 いつの間にか

 私の携帯で


 誰かに電話してた。


 誰かって多分

 家に!



「先生!何勝手に私の携帯!」


「少し話を聞いてから連れて帰りますので。はい、……ええ、ご心配なく」



 携帯を取り返そうとする

 私の頭を片手で押さえて

 遠ざける、


 余裕の態度に

 腹がたつ。



「はーい。じゃ失礼しまーす」


「先生!」



 電話を切ってから

 携帯を投げて返すから

 慌てちゃった。



「ピーピーうるせえよ。電話中は静かにしろよな」


「他人の物を勝手に使うひとに言われたくないぃ!」





「だいたい私、帰るなんて一言も」


「泊めてやるなんて一言も言ってねえよ」



 確かに

 今晩泊まる場所の

 目星なんかない。


 うぐ、と私が押し黙る。



「話ならいくらでもきいてやるから夜はちゃんと家に帰って寝ろ。変なやつらに目ぇつけられるぞ」


「へんなやつら?」


「そーそー。お前はそこまで堕ちてないだろ」



 頭を乱暴に撫でられ

 髪を直す。



「……でも……もう来ないよ」


「何だ。それも遠慮か」



 もう

 残りのお弁当を

 口に運ぶ気力も尽きた。



「俺はこの通りだし、いつ来たってかまわんぞ」





「私ね、ずっとずっと好きなひとがいるんだけど、それは好きになっちゃ駄目な相手で。他のひとを好きになろうとするんだけど、やっぱり好きになっちゃ駄目なひとばっかり好きになっちゃって」



 先生の顔を見ないで

 俯いて話す。


 どんどん頬が熱くなる。



「先生もね、先生だから。好きになったら困るでしょ」



 だから

 甘えちゃいけないと

 思うんだ。





 あんまり長いこと

 うんともすんとも言わず

 先生が沈黙するから


 私はやっと

 顔を上げた。



 頬杖をついて

 眉間にシワを寄せた顔で

 目を閉じたまま

 先生は動かない。


 テレビの番組は

 いつの間にか

 別の番組に変わっていた。



「ね、寝てるの?」


「かんがえちゅう!」



 不機嫌な顔で

 こっち見ないで。



「好きになったら駄目なやつって何」



 それは

 本命を聞き出すつもりか


 何なのか


 質問の意図が

 よくわからない。





「いいんじゃね?」


「なにが!?」



 驚愕のあまり

 大きな声が出た。


 ちょっと恥ずかしい。



「好きになったら駄目とか、お前の主観だろ」


「えええ?主観て何?教師と生徒が恋愛関係にあるのは駄目なことですよね???」



 ますます混乱して

 声が高くなるけど


 動揺を止められない。



 先生はでも

 落ち着いた様子のまま


 私の最後の唐揚げを食べた。


 だったらもう

 ご飯も全部食べて。



「片想いなんなら、誰を好きになったって全然自由じゃねえか」


「……かた、おもい……?」


「そ。お前がずっと好きだっていうやつを、無理に揉み消そうとしなくてもいいんじゃねえの?」





 私はまた俯く。


 ドキドキしてる。



「片想いは苦しいよ。片想いは寂しいよ」


「そうかー?好きってだけで元気をもらったりしねえ?」


「いっぱい好きって言いたいよ!」



 思わず叫んだら

 ちょっと目を丸めて


 先生が

 一瞬びっくりしてた。



「ははは、」


「何で笑うの!」


「俺が聞いてやるよ」



 今度は私がびっくり。



「お前超素直で元気がありあまってるから、我慢してるとか性に合わないだろ」



 誰にも

 言えるわけなかった。


 好きになっちゃ

 駄目だって

 ずっと思ってた。


 私は

 悪い子だな、って。



 でも先生は

 別にいいよっていう。


 私は

 悪くなんかない、って。





 声をあげて泣いた。


 まるで弟みたいに。


 人前で

 大きな声で

 わんわん泣いちゃって。



 自分でも

 わけがわからないくらい

 大泣きしちゃった。



 先生の部屋には

 ティッシュもなくて


 先生が

 トイレットペーパーを

 貸してくれたけど


 鼻をかんだら

 涙でとけて

 顔のあちこちに

 貼り付いて大変だった。



「すっきりしたか?」


「誰にも言わないでよね!」


「わかったわかった。次までにティッシュも買っといてやるから怒るな」





「べべべっ別にまた来るなんて」


「家出したくなったらとりあえず来ればいいだろ。飯は弁当屋だけどな」



 私は

 毎日お弁当屋さん通いの


 先生の

 食生活が心配になった。



「カレーライスくらいなら私だって作れるんですけど」


「よし。家出したくなったらカレーを持って来い」



 どこまで本気か

 よくわからない。


 でも

 たくさん話して

 たくさん泣いたから


 なんだか

 スッキリしちゃった。





 私がずっと

 自分を

 悪い子だって思って


 後ろめたかった気持ちと

 バイバイ出来たら。



 何だか

 勇気が湧いてきた。



「よし……私、告白してみる」


「ちょっと待て。お前俺の話を聞いていたのか?俺がいいって言ったのは片想い限定だからな」



 先生は

 恐ろしい物でもみるように

 顔をしかめていた。



「勝手に浮き沈みするのはお前らお年頃の十八番(オハコ)だから勝手にすればいいけどな。俺は責任取れねえからな」



 告白して玉砕しても

 両想いの禁断愛になっても

 俺は知らねえぞ、と


 釘をさされた。





「ずっと片想いしてたらそれこそ問題じゃん。恋愛出来ないじゃん」


「だから。お前らにはまだ早いの」



「先生みたいな孤独な独り身生活にはなりたくない」



 今日初めて

 先生に口で勝った気がした。



 近頃のこどもは

 こわいこわい、とか


 がっくり肩を落として

 先生がぼやいていた。



「まぁ先生いい人だから、そのうち恋人くらい出来るよ」


「うるせぇよ」





 帰り道


 くだらないことを

 たくさん話した。


 学校で何が流行ってるとか

 芸人は誰が好きとか。



 自分が家出したなんて

 すっかり忘れちゃうくらい

 なんか楽しかった。



 家の前まで来て

 思い出した私は

 急に足が重たくなって


 立ち止まってしまう。



「ヤバい……何て言おう」


「普通はただいまじゃねえ?」


「いや、そういうことじゃなくてさ」



 私が

 踏ん切りつかない

 様子でいたからか


 先生は

 私の手を掴んで

 引っ張って歩いた。



「うわ」


「怒られるのが恐いんなら俺も一緒にいてやるから。ちゃんと怒られてこい」



 男のひととなんて

 滅多に手を繋がない。


 怒られるとか

 どうとかよりも


 先生、手!





「おかえりなさーい」



 家出という言葉からは

 まるでかけはなれた

 明るい空気。


 お母さんが

 笑顔で出迎えてくれた。



「先生、すいませんご迷惑かけちゃって」



 星マークとか

 テヘペロ、とか


 語尾についても

 不思議がないくらい

 あか抜けたお母さんに


 先生は

 度肝を抜かれていた。



「なるほど……お前の母さん若いな。あと美人だ。ちょっと歳上の人妻とか悪くな あぃたっ!」



 思いきり

 足を踏んでやった。



「先生はずっと独り身でいてくださいね」





 その後


 学校で見かけた先生は

 いつもどおりで


 スーツが似合う

 真面目な先生。



 勉強が嫌いだった私も

 先生の授業は

 ちょっと真剣に

 聞くようになった。



 片想いは

 元気をくれるんだって。


 じゃあ

 先生への気持ちも

 片想いでいいんだろうか。



 勝手に元気をもらっている


 アイドルや

 二次元のキャラに

 想いを寄せるみたいに。



「そういえばまだ色々聞いてないことがあるな」


「!……私は別に、ないよ」



 これ以上踏み込んだら


 片想いでいられる

 自信がないんだけど。





 あれだけ

 子供扱いをされたり

 子供みたいに

 泣いたりしてしまったせいか


 今さら


 家出をしたい気分にも

 もうならない私がいて。



 弟に

 嫉妬することもなくなって


 当たり前の

 家族のポジションに


 気がついたら戻っていた。



 先生が

 どうしてもというなら


 カレーを

 作ってあげようか――



 最近の悩み事は

 目下そんなところで。



 家でひそかに

 美味しいカレーになる

 練習をしていた。




           ―――― Growing up.




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