2章¦この始まりの街にお祭りを

第4話

「と、とりあえず、今どんなスキルを取っているのか聞いていいかな?」


 討伐クエストを終えギルドに報告をした後、私たちは酒場のテーブルで話をしていた。


「うむ、《物理耐性》と《魔法耐性》、それと各種《状態異常耐性》を取っているぞ。あとは囮スキルのデコイぐらいだな」

「さっきも聞いたけど《両手剣》とか覚えて命中率を上げたりする気はないの?」

「無い。こう言っては何だが私には体力と筋力がある。攻撃が当たるようになれば無傷で敵を倒せるようになるだろう。だからと言って手加減をしてわざと攻撃を受けるのは違うのだ。もっとこう……必死に剣を振るうが当てらず、力及ばず圧倒されてしまうのが……あぁ……想像するだけで……」

「わ、わかったよ!もう話さなくていいから。早く帰ってきてぇ!」


 赤い顔でとんでもないことを口走り始めたダクネスを肩を揺すって現実に引き戻す。周りを見るとサッと顔を背ける人、チラチラとこちらを見てくる人と反応は様々だ。視線がつらい。


「え、えっとあたしは《敵感知》に《潜伏》、《窃盗》それから《罠発見》に《罠解除》あとは《バインド》かな?……!?」


 突然ダクネスが私の両肩に手をかける。その表情はいつにもまして真剣で私の肩にかなりの力がかかる。


「バ、バインド!?あのロープなどに魔力を込めて投げることで対象を拘束するあのバインドのことか!?」

「いたたたたたたた。い、一回落ち着いて。潰れちゃう!潰れちゃうからっ!?」

「……!?す、すまない」


 ようやく我に返ったダクネスが慌てて手を放す。危ない、危ない、危うく私の肩がグシャってなるところでした。


「だ、大丈夫だったか、クリス?バインドという言葉につい……」

「い、いいよ、いいよ。そ、それよりご飯食べようよ……すみませーん、春キャベツの野菜炒めくださーい」

 

 このまま続けていると何が起こるか分からない。私は話を切り上げると近くを通りかかったウェイトレスさんに注文をする。ダクネスもまだ何か言いたそうにしていたがメニューを見て料理を注文する。

しばらく待っていると注文した料理が運ばれてくる。


「おいしそうだよね。早く食べよう?」

「そうだな」


 その日は二人で料理を食べて解散しました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いやーすっかり暑くなったね。………ダクネス?熱くないの」

 

 ダクネスとパーティーを組むようになってから二週間がたった。季節も夏になり日差しの暑さと暖められた地面の熱で立っているだけでも汗がにじみそうだ。そんな季節にダクネスは冬に着るような生地の厚いもこもことした服を着ている。


「クリス、この街では毎年夏になると我慢大会が開かれるのだが私は…そのぉ…この大会の前年優勝者なんだ」

「え!?そうなの」


 この街でそんな大会が開かれているなんて知らなかった。でも確かに優勝者なら今年も優勝を狙って練習をしてもおかしくない。


「でもすごいよね。この大会ってダクネスよりレベルが高い人も参加するんだよね?それなのに優勝しちゃうなんて」

「耐え忍ぶのは私の得意分野だからな」

「そ、そうなんだ」


 真顔でそう答えるダクネスに思わず苦笑してしまう。それでも優勝出来てしまうのだから彼女の耐久力が並外れていることがよく分かる。


「いつもなら実家で練習するんだが今は理由わけあって帰りたくないんだ」

「そうなんだ、よーし、ダクネスが優勝出来るようにあたしも協力するよ!」

「ありがとう、この二週間で私もレベルが上がったが大会までにもう少しあげておきたい。今日は討伐系のクエストを受けよう」


 私たちはクエストを受けるため冒険者ギルドに向かった。



「ギギッ!?キー、キー」

「ダクネス!敵を集めて」

「わかった、『デコイ』!」


 私たちはギルドにあったゴブリン討伐のクエストを受け、さっそく行動を開始した。

 今回はダクネスが引き付けて私が倒すという方法ではなくダクネスのレベル上げを優先する。囮スキルで寄って来たゴブリンに商店街で買ったロープを投げつけ、スキルを発動する。


「『バインド』ッ!」


 私の投げたロープが生き物のようにゴブリンに巻き付き、その動きを拘束する。必死にロープを外そうとするが魔力を込めたロープはゴブリンにそれを許さない。


「ギギー、ギッ、ギッ」

「はあ!やあ!くらえ!」


 ダクネスの剣が一体のゴブリンを斜めに切り裂く。次のゴブリンは胴を切られ、真っ二つに。最後の一体は………


「ギ?」

「………………」

「……ダクネス、せめて動いてない敵には当てようよ」


 ………見事に空振っていた。いくら武器スキルで命中率を上げていなくても動かない敵への攻撃を外すのは不器用だからとかでは片付けられない気がする。攻撃が当たらなかったゴブリンも首をかしげている。


「ク、クリス、つ、次だ!次が来たぞ!」

「わかったよ、『バインド』!」

「今度こそ、はああああああ!」


 仲間の声に呼ばれたのか、こちらに向かって走ってくるゴブリンをもう一度バインドで拘束する。ダクネスはさっきよりも気合を込めて剣を振るう。


「「……ギギ?」」

「だから、なんで外すのさ!?」

「そ、そんなこと言ったって。……ううぅ」


 ほんとになんで当たらないんでしょう?



「ねえ、やっぱり『両手剣』スキル取らない?」

「し、しつこいぞ。取らないと言ったら取らない」

「………スカネス」

「っ!?」


 クエストを終わらせ、私たちはギルドに戻って来ていた。今回のクエストでダクネスのレベルが1つ上がったみたいだ。今までのクエストだとほとんど敵を倒していなかったので、今後はこっちの戦い方にしてもいいかもしれない。一番の問題はバインドの消費魔力の高さだ。今の私だと五回が限界なので一度で多くの敵を拘束出来るよう工夫する必要がある。それともう一つ………


「まあ、おかげでレベルが上がった。この調子なら本番までにあと2,3上がりそうだ。それだけ上がれば耐性なども上がって優勝間違いなしだな」

「ダクネス、あたしの魔力だとバインドは五回が限界なんだ。だから、絶対割り込んできたりしないでね」


 毎回バインドを使うたびに、ダクネスが私の投げたロープを目で追っていることだ。いままでも敵の群れの中に嬉々として飛び込んで行っていた。そのうえバインドの話が出た時の目がヤバすぎる。


「な、なにを言っているんだ。そ、そんなこと…か、考えているはずないだろう!」

「もじもじしながら言われても説得力がないよ!」


 だめだこの子。絶対やらかす。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「これより第23回アクセル我慢大会を開催します」

「いよいよだね、ダクネス」

「ああ、優勝してくる」


 あれから一週間、ついに我慢大会が始まった。

 この一週間出来そうな討伐クエストをこなしてダクネスのレベル上げをした。おかげでレベルが3つ上がり準備は万端ばんたん

 ルールは簡単、選手は毛布を被り用意された会場でひたすら暑さに耐える。会場内は熱気に満ちており、入り口から漏れる熱のせいで外にいる私たちまで暑い。


「『ファイヤーボール』」

「『クリエイト・ウォーター』」


 我慢大会が始まってから十分、ウィザードの人が会場内の積まれた石に火球を打ち込み熱し、その石に水をかけ蒸気を発生させる。ただでさえ熱い会場の温度と湿度がさらに上がる。ちなみに会場内の様子は壁の所々がガラスになっていて観客はそこから様子を見ている。


「あ、暑い。もう無理だ」

「水、水をくれー」


 さらに十分、蒸気の追加が行われ脱落者が出始めた。ダクネスは額に汗を浮かべているがその表情は普段と変わらない。

 十分ごとに蒸気が追加され参加者がどんどん減っていく。 


「さあ一時間が経過しました。すでにほとんどの選手が脱落。残るは三人です」


 ダクネスはまだ大丈夫、残りの二人もまだ耐えれそうな様子だ。人数が減ったことで観客の視線が残る三人に集中する。


「さらに三十分が経過しました。ダクネス選手には大会連覇がかかっています。さあ優勝するのは誰だー」

「な、なんかあいつ目がヤバいぞ。大丈夫か?」

「なんでこんな熱気の中笑みを浮かべられるんだ」


 選手の二人がダクネスのほうを見て顔が引きつっているように見えるのは私の気のせいだと思いたい。


「ああ………。観客が私を見ている。汗に濡れる私を見てる……!や、止めろぉ!そ、そんな目で私を見るなあああああっ!」

「あ、あいつなんかくねくねしてるがほんとに大丈夫か」

「この暑さで頭おかしくなったのか?」


 恍惚こうこつとした表情を浮かべているダクネスに選手二人が完全に引いている。外にいるため声は聞こえないが絶対とんでもないことを口走っているんだと思う。


 それからさらに三十分後、残りの選手二人もリタイヤして我慢大会はダクネスの優勝で幕を閉じた。


「クリス。やったぞ、今回も優勝だ」

「よ、よかったね。ダクネス」

「どうかしたかクリス?」

「な、何でもないよ!優勝おめでとう。今日はギルドでお祝いだね」


 一緒にクエストをした時から薄々感じていたけどこの子はやっぱりヤバい。暴走しないように私がしっかり見ていないと!そんなことを思いながら私はダクネスとギルドに向かった。


「それじゃあ、ダクネス。我慢大会優勝おめでとう!かんぱーい」

「ありがとう、乾杯」


 ギルドについた私たちは流石に昼間からお酒もあれなのでシャワシャワを頼んで乾杯する。シャワシャワを飲んでいるダクネスはとてもうれしそうだ。


「ダクネス、そんなに優勝出来たのがうれしいの?」

「ああ、うれしいさ。これで今年の祭りも楽しく過ごせそうだ」

「?……まだ何かイベントがあるの?」

「ええっ!?」

 

 どんな祭りか聞いてみると、ダクネスは信じられないといったような顔をしている。私は何か変なことを聞いただろうか?


「クリス、宗派はなんだ?アクシズ教か?」

「い、いやあー、流石にアクシズ教徒ではないよ。しいて言うなら、うーんエリス教かな?」


 魔王軍も恐れるアクシズ教は犯罪じゃなければ何をしてもいいと真顔で言うようななかなかすごいところだ。私の先輩である女神アクアを崇めているからか自由な人が多い。


「ならなおさらだ。本当に知らないのか?」

「そ、そんなこと言ったって。何かあったかなあ?」

「女神エリス感謝祭、来週は私たちエリス教徒のお祭りだろう?」

「あああああ!?そうだった」


 地上に降りるようになってからいろいろあり過ぎてすっかり忘れていた。せっかく信者たちがお祝いしてくれる日なのに忘れていたとは女神として恥ずかしい。


「よかった、知っていたか」

「す、すっかり忘れてたよ」

「クリス、我慢大会の時は協力してくれてありがとう。次はエリス教徒として感謝祭成功のため頑張ろう!」


 そう言ってくるダクネスを見て自分の祭りのために頑張るのも変な感じだけど成功させよう。私は心の中で決意を固めた。



——————————————————————————————————————


     お待たせしてすみません。

     この作品を見てくれてありがとうございます。

     これからもよろしくです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る