第13話

 インターネットの海を漂うのも好きだが、テレビを観るのも結構好きだ。

 我が家にはまあそこそこの録画容量を持ったレコーダーがあるため、普段からあれこれ録っておき、夜にヒルナンデスを見たり土日に平日の番組を再生したりできる。

 そんなわけで好きな番組だけダラダラ見ているのだが、メインはやはりグルメとお笑いの二枚看板であろう。

 グルメは基本的にそれ単体の番組というのは多くなく(パッと思い付くのは酒場放浪記とか大食いチャンピオン系とか)、バラエティの中で一つのコーナーとしてグルメが紹介されることがほとんどだ。私はその場面だけをつまみ食いする感じで視聴している。

 自分でも行けそうな近場の店のレポートを見るのが一番楽しいが、東京やら北海道やらのまず行くことがないであろう店を見るのも嫌いではない。ほへー、と遠い異国の地に想いを馳せるがごとくだ。

 だいたいどんなグルメ番組も好きだが、下手に高尚なのはあまり面白くない。こちとら貧乏寄りのド庶民なので、高級フランス料理店でフォアグラを食べる映像を見ても「ふんだ! こっちは鶏レバーだって贅沢なんだから!」などと嫉妬してしまう。芸人レポーターなどが番組の雰囲気を面白くしているならまだ良いのだが、大御所的な人がただ食べるだけだとイマイチ見る気がしない。色んな意味でタージンは素晴らしいと思う。

(※タージン……関西で知らない人はいない有名グルメレポーター)


 個人的にこのところアツいグルメ番組といえば、これはもう『マツコの知らない世界』で決まりだ。

 ご存じない方に説明すると、ホスト役のマツコ・デラックスが、番組にやってくる様々なジャンルのマニアからその世界の手ほどきを受ける、という単純な番組である。

 しかしこれがなかなかどうして、マツコのキャラとマニアのキャラが絶妙に噛み合い、あるいは噛み合わず、やり取りだけでも実に面白く視聴できる。この辺りは台本というより、マツコの「相手のキャラ引き出し力」が優れているためだろう。

 この番組はグルメ専門ではなく、幅広いジャンルのマニアが登場するわけだが、どれ見ても大体面白いのはさすがだ。たまにある、ちょっとおかしなジャンルのマニア(マトリョーシカ愛好家とか)だと、マツコも露骨に「変人が来た」みたいな対応をするので見ていて楽しい。

 そして私的に真骨頂だと思うのはやはり、グルメ系マニアの回である。

 意外にも、と言ったら失礼だが、他ジャンルに比べて真面目っぽい方が多い気がする。そんな人々が「マツコさんどうですかこれ……どうですか!」と急に目の色を変えてぐいぐい行くのだが、その様子は時に見る者に一種の恐怖を覚えさせるほどだ。それに対するマツコの反応もまた抜群で、ドン引きするか、ドン引きだわーと言うか、ドン引きしたことで相手を責めるか、とどれを取っても笑えてしまう。

 もちろん紹介されるグルメはマニアお勧めだけあって実に美味しそうなものばかり。お店を紹介する場合はほとんど東京近郊なのだが、それでも興味を持って見ていられるのはそこに愛があるからだろう。

「いや本当にいいんですよこれ!」

 目を(ヤバいぐらい)輝かせて力説するマニア、そこには嘘がない。

 そしてそのマニアに対し、

「あなたおかしいですよね?」

 と半笑いで応対するマツコ。そこにも嘘がない。

 スタジオに登場したお勧めグルメを食べて「うわっ何これー! すごい!」と言うマツコも、食べて「これあんまり好きじゃないわ」と言うマツコも、やはり嘘がない。

 人の悪意もなければ駆け引きもない、ゆるゆるな番組だからこその味があると私は思う。

 おそらく私以外にもたくさんの視聴者が同じ感想を抱き、だからこそ番組で紹介された様々な物・店・場所が人気になるのだろう。

 そりゃもちろん、自分で判断する必要はある――何かを評価する際に、誰かが良いと言ったから、というのは理由にはならない。それでも、自分が評価すべき対象を教えてもらう、というきっかけには充分なる。

 のんびり見られて、笑えて、そして興味が出て来るかもしれない物まで紹介してもらえるのだ。こういう番組、私は結構好きなんだなあ。

 他にも色々好きな番組はあるが、有名な『孤独のグルメ』のドラマ版もよかった。

 あくまでドラマではあるのだが、ていうかおじさんがただご飯を食べてるだけなのだが、一人の人間が何を考えて食事をするのか、という点にグッとフォーカスしているのは実に好印象だ(上から目線)。主に独白形式なのも他のドラマと一線を画した要因だろう。

 物語の登場人物とはいえ、主人公に嘘がないという点がやっぱり私の心を安らかにしてくれるのだ。

 願わくは私も、素直に心情をはき出せるような人間でありたいと思う――特にグルメに関しては!

 美味いものは美味い! マズいものはマズい! 

 私は自分の味覚に嘘をつかないことをお約束しましょう。

 来たれグルメレポーターの仕事。今ならギャラはお安くしときますぜ、へっへ。

 ただし味を表現する語彙力が弱い可能性がありますので予めご了承下さい。ダメだろそれ。


 ところでマツコ・デラックス氏を初めて見たとき(あれは確か『マツコの部屋』だったか)、子供だった私は「世の中にはおっきいおばさんがいるなあ」と思った。

 当時すでにIKKO・KABAちゃん・はるな愛といったオネエキャラが活躍していて、たぶん誰が見てもマツコを女だと思うことはなかっただろうが、私は思ってしまった。

 理由は定かではないが、原因の一つはあの声ではないかと思う。

 決して中性的というわけでもない、しかし男声でも女声でもない、あの独特な声色。私にはきっと、おばさんっぽい声として聞こえたのかもしれない。

 テレビというものは映像と音しか伝えられないが、映像メインとはいえ音があるとないとでは大違いだ。

 ハンバーグが鉄板で「ジュ~」と焼ける音は、やはり美味そうに耳をくすぐるのである。ハンバ~~~~~グ!(CV ハンバーグ師匠)

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