第21話 ミャンマー マンダレー シャン料理屋

「ハロウ」


「ナイストゥーミーチュー」


ミャンマー人女性、ジョジョさんの爽やかな微笑みに僕らはすっかり気圧されていた。


なんとか会話できるくらいの英語力を持つカワセさんに全てを任せ、僕はすこぶる甘いコーヒーを飲むことに徹した。時おり向けられる微笑みに対して、ぎこちなく返すのが僕の精一杯だった。


「なるほどね。色々とここを案内してもらう様に言われてきたわけね。それなら大歓迎だわ。私に全部任せてちょうだい」


僕らホッと胸を撫で下ろした。しかし同時に、何故見知らぬ外国人に彼女がここまで親切なのかも疑問だった。


「カワセさん。なんでこの人こんな親切なんですか?良い人なのは滲み出る雰囲気で解るんですが、僕少し怖いと言うか‥‥」


「おお!いいですね。その臆病さが大事なんですよ旅は。でも確かにそうですね。聞いてみますか」


というとカワセさんはいきなり彼女に質問をした。英語だから詳しくは解らないがそこまで遠回しに言っている感じではなかった。


すると彼女の方は微笑みを崩さないまま、なにやらペラペラと長めに説明をしていた。カワセさんはそれに頷いたり首を傾げたりしていた。


「なるほど。そういうことか」


「分かりました?」


全て理解できたわけではないんですが、と断ってカワセさんは僕に説明してくれた。


「彼女、子供の頃に旧日本軍に会っているそうです。そこで大変親切にしてもらったそうで、以来日本人が訪ねて来るとその時の恩返しをしてるそうですよ」


驚愕の内容だった。まさかそんなことで他人に親切にする人がいるなんて。にわかには信じられない話だった。


「ホントですかね。なんか後からお金請求されたりしないですか?」


さすが僕のこの発言にはカワセさんも苦笑いをした。


「まあ他の国ならまだしも、ここは大丈夫でしょう。ミャンマーはそういう国だと聞いています。それにこんな素敵な笑顔の人が他人を騙すとは考えたくない」


なんというかのんびりした意見だったが、仕方なしに僕も彼女を信用することにした。


「で?あなたたちは何処へ行きたいの?」


彼女がそう言うとカワセさんは僕にも解る英語でこう言った。


「お腹が空いてます」


「オッケー!」


彼女は今までで一番素敵な笑顔で親指を立てた。




彼女に案内されるまま、僕らは近くにあったあまり綺麗ではない食堂に入った。


高そうなところではなかったが、日本人の僕らは衛生的に大丈夫か心配だった。


「いいな!こういう店いいな!」


厳密に言うと僕らではなく僕だけだった。


彼女が紹介してくれたのはシャン料理の店だった。シャン料理というにはミャンマーの少数民族、シャン族の料理で僕の印象は酸味のないタイ料理。もしくは野菜と鶏肉中心の中華料理みたいな印象だった。


店はバイキング形式で、テーブルにある好きな料理を平皿に盛られたライスの上に好きなだけかけて食べていいという斬新なシステムだった。


料理の付近にはハエが飛んでいたが、何もこの店に限った話ではないので流石に僕も慣れ始めていた。とは言えどんな料理かまるで未知なので、僕はおそるおそる見覚えのある外見のものを選んだ。僕がチョイスしたのはガパオライスの上の肉みたいなのと中華丼のあんみたいな野菜料理だった。隣を見るとカワセさんがよく解らない料理をてんこ盛りにして食べていた。


「美味い!美味い!いやほれふまい!」


この人はホントに凄い人だとつくづく尊敬した。


しかし案外シャン料理というのは食べ易いもので、外国の料理に慣れていない僕でもなるほど美味しいと感じれるくらい親しみのある味だった。ガパオはややスパイシーだったがそれが美味かったし、中華丼のあんはまさにライスとの相性がぴったりだった。僕もカワセさんに負けじとかっ込んだ。


お腹が一杯になってひと安心している僕らだったが、気がつくとジョジョさんがお会計を済ませているではないか。


驚いた僕らはすぐに彼女に自分で払うと申し出たが、彼女は頑なに自分が出すと言ってきかない。


「これくらいは良いじゃない。ここは凄く安いんだから気にしないで」


そんな感じのことを言われて、結局僕らはご馳走になってしまったのだ。


初めて食べたシャン料理は目玉が飛び出る程ではないにしても、親しみ易くて好きになれる味だった。



続く

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