21 悪魔の正体

 九月某日、重い雲が青空を覆い隠す休日の朝。僕は特に何かをするわけでもなく、部屋の明かりも点けずに、ベッドに腰を掛けてぼんやりとしていた。静かすぎる沈黙が無意味な時間を生成し、見えない膜のようになって全身に纏わりつく。時計の針が何かを急かしているが、何を急かしているのかちっとも分からない。

 聖子が居なくなり、目標も目的も何も無い日々が過ぎていく。

 大淀王国は刻一刻と成長を遂げていたが、今の僕にとっては他人事のようだった。僕一人が立ち向かったところでどうにかなるわけでは無く、どうにかなったところで嬉しい訳でも悲しい訳でも無い。日本が大淀王国に支配される日が来ても、正直どうでもいい。“貝川の奴が気に入らない”という感情を正義感にすり替えたところで、自分が惨めに思えるだけだ。

 僕が気になっている事はたった二つ。

 聖子は一体どこへ消えたんだ?

 そして、左右あてらはどこで何をしているんだろう?

 この二点以外に僕が休日のベッドから起き上がる理由は無く、だからこそ僕は立ち上がらなければならなかった。低気圧の微かな頭痛に顔をしかめながら、顔を洗い、学生服を着こみ、家を出る。一連の自動的な作業はいつもより困難な気がした。

 聖子がどこに消えたにしても、王国の監視網からいつまでも逃げられるはずはない。彼女が見つかるのは時間の問題だ。逃げ切るには島からの脱出が必要不可欠だが、淡風と本州を繋ぐフェリー発着場にこそ厳重な警備が敷かれており、異能者と思わしき人間(つまり、十代の人間)が島から出るにはそれ相応の理由と身分証明、そして許可証が必要だ。

 それでも聖子は島内のどの監視カメラに写っておらず、奴が島を出たという話も聞かない。

 考えるまでも無い。

 全ては王国による隠ぺいで、彼女は教育機関に連れ去られたのだ。

 僕は怖気づいて行動を移せずにいた。もし聖子の事を誰かに尋ねて王国への忠誠心を疑われてしまっては、僕まで“教育”を受ける羽目になる。

 連中に聖子の事を訊くべきか、訊くまいか。悩めば悩むほど、僕の考えは逃げ場を失っていく。

 行くしかないだろう。彼女を救えるのは僕だけで、左右ならきっと悩むまでも無くそうしていた。

 ――いっつも遅いのよ、あんたって人間は。

 全くその通りだ、と僕は思った。時計の針はその事を急かしていた。


 王国の本部“王国庁”は、駅前の七階建てのビルにあった。元々証券ビルだったが、数年前に空き物件となっていたところを貝川達が乗っ取った。島中の人間がそうなのだから、当然、不動産屋もビルオーナーも大淀信者で、貝川の味方だ。さっきまで僕が揺られていたバスの運転手だって、病院だって、警察だって、老人だって幼稚園児だって全部が全部貝川の味方で、あいつに対峙する事はそれら全ての島民と対峙する事だ。

 絶対無敵の巨大な邪悪に向かって歩く。一歩一歩と進める足が、徐々に重く感じられる。僕の目的は、聖子が居るか居ないかを訊くんじゃない。そんなヌルい行動を取っても、奴らは『いない』と答え、僕は連中に怪しまれるだけ。僕が今取るべき行動は、貝川を倒し、聖子を連れ去る事。それだけだ。そしてこの島を出よう。左右のところへ二人で行って、僕達三人が進むべき未来を考えるのだ。同じ道か、別々の道か。王国への挑戦か、日常生活への隠遁か。引き裂かれるのではなく、自分達の意思で選びたい。この島にいる限り、自分の意思なんてものは存在しないのだから。

 王国庁は厳重だ。用心棒代わりの異能者が居るのは間違いないし、それも一人や二人じゃ無いかもしれない。考えなしに突っ込むのは絶望的だが、僕の能力に左右や聖子のような器用さも無い。

 ただし、僕には誰にも負けない強さがある。僕はいつも遅い。でも、いざ何かをやろうと決意すれば、誰も僕の“Bダッシュ”の速さにはついて来れないはずだ。僕は自分自身を鼓舞するようにそう言い聞かせた。根拠に乏しい自己洗脳だって、足が前に動けばどっちでも良い。やるかやらないか。やると決めたからには、やらない訳にはいかない。時計の針が急かしている……。

 王国庁の自動ドアが開かれると、受付の女性がこちらを訝し気な顔で見た。が、相手が僕だと分かり、直ぐさま慇懃な態度に変わった。彼女の他に人の姿は無い。

「これはこれは、同志・乖田かいだ。何か御用でしょうか?」

「貝川と話がしたいんだけど」

「申し訳ございません。貝川はお休みです」

「え!? 何で?」

「日曜日ですので」

 迂闊だった。貝川は平日の何日かを学校、残りを王国庁出勤日に充てている。あいつだって人間だ。日曜日ぐらい骨休めが必要だし、それが普通だろう。あらゆる意味であいつは普通じゃない、と僕は思い込んでいた。

 もちろん、居留守を使っている可能性もある。でも、受付の制止を振り切ってビルを登るのは、リスクリターンに見合わなすぎる――この判断が、僕が遅い一番の理由だ。

「……そっか。じゃ、また来る。貝川が次にここに来るのはいつ?」

「それは……」

 と、受付嬢が喋ろうとした途端、内線電話の着信音がロビーに響いた。

「……あ……はい……畏まりました。はい。同志・乖田にはこのままお待ち頂きます。はい。失礼します」

 がちゃり、と受話器を置く受付嬢。彼女は僕の方に向き直り、「少々お待ちください」と一言告げた。

 僕は待った。ロビーの内観はきららのポスターで埋め尽くされており、無数の彼女が一斉にこちらを見ている。どうしてこの視線に幸福を感じてしまうんだろう。能力のせいとは言え、人間がいかに単純で愚かな生き物か、きららを前にすると僕はつくづくそう思う。抗えないものは抗えない。生きる上で出くわす刺激と生理反応。僕たちは実に狭い選択肢の中で生きている。そして、その狭い選択肢の中で同じ衝突を繰り返し続けている事が、尚のこと愚かだ。もちろん、いま一番の愚か者は僕だろう。王国という巨大な傘から一人抜け出し、自ら雨に打たれようとしているのだから。

……だったら、傘に入っていれば濡れないのか? そんな訳はない。僕はいつも傘の外側いっぱいにいて、自分が傘の中にいるのか外にいるのかよく分からない事がままある。体半分が雨に濡れているのに、傘に入ってるフリをして笑顔を作る。もっと他人を押し退ける図々しさがあれば楽が出来るのだろうけど、それは僕の望むところじゃない。身勝手な自己保身が、結局自分自身を苦しめる。

じゃあ、僕はどうすればいいんだ? そこに答えはないけれど、そんな状況から脱出する瞬間……僕はとてつもない充実感を感じるのだった。耐え難きを耐え続けたのは、この脱出の快楽を求めるためじゃないか? とすら思える程に。

イノーに入会したのだって、この島に来たのだってそうだ。僕は社会や家族から逃げ出してここに来た。そして、今度は王国から逃げ出そうとしている。

……いや、違う。これは戦いだ。僕は挑戦しようとしている。やるからにはやる。前進するべきだ、身も心も。

 一階のエレベーターが開き、一人の男が姿を現した。十代とは思えないほど精悍な(老けたとも言う)顔つきの青年。肌は浅黒く焼け、清潔感のある短い髪は片方を刈り上げていた。

タイガー・シックスティーンだ。彼は大淀スバラシ会きっての卓越した能力者らしく、警備や公安、外的脅威への対策の統括を任されていた。争い事を好まない性格だが、逆に言えば“絶対に誰にも傷つけられたくない”タイプで、傷つけられない為なら他者を攻撃する事に何の躊躇も無い。だから、危険を前にして奴が尻込みする事は無い。彼は目についた危険を片っ端から捻り潰す――例えば今の僕とか。

「お待たせ、乖田っち。貝川に用があるって?」

 口調こそくだけているものの、タイガーの目は少しも笑っていない。

 彼が顎を一度しゃくると、受付嬢は深くお辞儀をし、その場を立ち去った。

「用って程でも無いけど、ちょっと相談があって」

「良ければ俺が聞いておくよ。貝川はあれで気まぐれだから、いつここに来るか分からんし」

「どうしても本人じゃなきゃ駄目なんだ」

 タイガーは口元に手を当て、ふーむ、と何かを考える。僕は彼の返答を待った。

「じゃ、直接電話かければ?」

「僕から電話しても無駄だ。お前から取り次いでくれ」

「俺も無理だよ」

「嘘つけ」

 タイガーは失笑した。

「本当さ。元・スバラシ会の面々はお前が思うほど貝川に信用されてない。ザナドゥだなんだと、自分からスバラシ会を裏切る真似をして、逆恨みも良いところだ。そう思わないか?」

「いいのか、そんな発言」

「貝川には内緒にしてくれ」

 タイガーは言った。でも、この島で内緒事なんて出来やしない。

「マコリンが愛想を尽かして離れていったのも、当然の事だ。あいつには同情するし、ミカリンの事も仕方なかったと思う。全ては貝川の策略で、乖田、お前だって気に病む必要は無い」

「わざわざそんな話をぶり返してんのはお前だろ」

 ミカリンの事は、僕がこの世で一番嫌いな話題だ。

「怒るなよ。俺は実際のところを聞きたいんだ。あの貝川サイコパスに人生を掻きまわされてる同じ被害者として……俺はリビジョンや古典派のように純粋になれない。紫電や鷹取のように現実逃避する事も出来ない。ずっと納得の出来ない気持ちが俺の中で渦巻いていて……乖田、お前にだけは分かってもらえるんじゃないかと思っているんだ」

「分からないな、少しも」

 よく分かる、と僕は思った。

「腹を割ってくれよ。俺だって、何の根拠も無くこんな話をしてるんじゃない。佐渡とお前の会話を盗聴した上で、こうして話を持ちかけて……おっと、怒るなって!」

「日常会話まで盗聴してたのかよ! お前ら!」

「この島で会話を盗聴されていない人間なんていない! ただ、それを管理するのは俺の仕事だ。乖田と佐渡に関しての報告は貝川に上げてない。だからこうしてお前が無事でいるんじゃないか」

 いつでも捕まえられる魚を泳がせていただけだ、と僕は思った。

「……あいつは何処に行ったんだ?」

「佐渡の事か?」

「そうさ。“教育機関”なんだろ? あいつ、古典派に睨まれていたから。遅かれ早かれこうなるとは思ってた」

 タイガーは呆れるように、小さく笑った。

「……本当の事を言うのはお前だ乖田。俺もお前らの計画に混ぜてくれよ」

「計画?」

「お前が逃がしたんだろ? 佐渡を」

「はあ!?」

 ぎこちなくすれ違う会話が、徐々にお互いの腹の内を浮き彫りにする。

 こいつは本当に佐渡の行き先を知らないらしく、その上で僕が逃がしたと思っている。

「……僕達の会話を盗聴してたんだろ? お前が聞いた通りだよ。そんな話はどこにも無い」

「左右は? 奴とは連絡を取っていないのか?」

「だから、盗聴されてるのに電話なんて掛けられない。当たり前だろ!? 彼女に迷惑をかけるだけだ」

「ふぅん……」

 タイガーは自分の肩を揉み、首をこきこきと鳴らす。

「……佐渡の事は本当に知らないんだな、乖田夕。じゃあ、お前は見捨てられたってワケだ。“お前の同志”に」

「そうかもな」

 五本の指をゆっくり握り、タイガーは戦闘態勢を取る。

 やはりこうなるんだな。僕は唾を飲み込み、奴の攻撃に備えた。

 僕は奴の能力について何も知らない。もしあいつが“消しゴムツール”のような一撃必殺の能力を持っていたら……僕は何も出来ずにこの場でやられるに違いない。ならば、こちらから仕掛けるという手もある。でも相手が罠を張っていたら? 能力の貴重な一回を無駄にしてしまったら? あるいは罠で死んでしまったら?

「……なあ、乖田っち。今お前は、タイガー・シックスティーンがどんな能力かって考えてるんだろ?」

 そうだ、と僕は言った。

「実はな、俺は今日が誕生日なんだ。今日からタイガー・セブンティーンだ。来年はエイティーンになる。どうでもいいけどな」

 本当にどうでもいいな!

と、思った瞬間、数メートル離れていたはずの奴が一瞬の内に僕の目の前に迫っていた。拳が顔面にめり込み、顎の骨が嫌な音を立てて砕ける。

 地面に転がり、砕けた顎のあまりの激痛に、僕はじたばたと虫けらのようにもがいた。まるで顔面の下半分に火をつけられたようだった。

「んぐぐぐ! んぐー!」

 僕より速い奴は居ない、と僕は思っていた。

 が、彼の能力は十分速かった。僕は速すぎるだけだ。そのせいで小回りが利かず、スタミナを浪費し、持続力が無い――そしてようやく気がついた。僕の能力は、“先手必勝”以外にあり得ない事に。

「俺の能力は虎だ。お前ら人よりも速く強く正確に獲物を仕留める。分かりやすい能力だろ? これで悩まずに済むか?」

 自然治癒で顎の骨を治療し、僕はようやく正気を取り戻した。

「……仕留めれてねーぞアホ!」

「ダメな異能者は“教育機関”でリサイクルしなきゃならんからな……そう簡単に仕留められん。最も、あんまり舐めた口を利くなら、うっかり手元を狂わせてしまう事もあるだろうけれど」

「やってみろっ!」

 と、次の瞬間、タイガーは天井を使った三角飛び(!)をし、予想外の角度から攻撃を仕掛ける。僕は彼の浴びせ蹴りをまともに受け、鎖骨の辺りに酷い痛みを感じた。痛みは判断能力を奪い、条件反射的に自然治癒を発動させてしまう。能力の残使用数が削り取られていく。

「……はぁ……う、うう……」

 天井でぐらぐら揺れる蛍光灯が、ぼんやりと滲んで朧になった。奴の攻撃は涙が出るほど痛かった。

「俺は勝負が得意だ。一度見切った相手には絶対に手を抜かないし、絶対に負けない。もうちょっと歯ごたえがあればなぁ、なんて言葉は吐かない。それは三下のセリフだ。確実かつ安全にダメージを与えてお前を失神させ、お前を“教育機関”にぶち込む。お前はどうだ? 何か作戦は?」

「なめんなよ、虎野郎!」

 と、次の瞬間。タイガーは壁面を走り、こちらの背後に回り込むが……僕は慌てて後ろに飛んで、間一髪奴の攻撃を回避した。が、彼はもう一度地面を蹴ると、体勢を崩した僕の足を軽々と踏み砕き、こちらの自由を奪った。

「あぎゃあ!」

 情けない悲鳴が口から洩れ、変な方向に曲がった足を抱え、蹲る。

 奴は攻撃の手を緩めない。僕の頭上を飛び越え、こちらが動かないのを見て取ると、すぐさま壁を土台に飛び掛かり、僕の顔面を蹴り飛ばした。

 鼻の骨が折れ、血が噴き出す。血液不足が予想以上の体力の消耗に繋がり、僕は足も鼻も治療出来なくなった!

 ……という設定で演技する事にした。狙うはあいつの油断。絶対に手を抜かない奴は、絶対に手を抜くべきじゃない相手に『絶対に手を抜かない』なんて言わない。間違いなくあいつは慢心している。そして……実戦経験は僕の方が上のはず。僕は冷静だ。あいつが隙を見せる瞬間が、きっとある。

 痛みに耐えながら、瀕死の体で地面を這いずり、何とかビルから逃げ出そうとする様に僕は見せかけた。と言っても痛みは本物で、ずるずる引きずった足が千切れてしまうんじゃないかとさえ思える。正気でいられるのが幸運な程に。

「おいおい、怪我が回復できてないぞ。もう体力切れなのか? だらしない奴め……でも、ミカリンを倒した相手だから油断は出来ないな」

「ぐぐぐ……み、ミカリンの話はするな!」

 油断しろよ! クソが! 僕は追い詰められている事を演出する為に、捨て台詞を喚き散らす。

「……お前は情けないクソだ、タイガー! 馬鹿みたいに尻尾振って、一生あのクソメガネのオママゴトに付き合ってろ……! 貝川の忠犬め!」

「俺は“ネコ科”だ馬鹿野郎!」

 と、僕の下手くそな煽り文句に、タイガーはあっさり激昂する。

「……俺はさっきお前にカマをかけたが……半分は本当の事だ! 貝川は俺を信用していないし、俺はあいつを信用していない。と言っても、お前と手を組むには、お前もやはり信用出来ない。てか、なあ、乖田っち。この島に信用出来る人間なんていると思うか?」

「……うぐぐぐ……」

 お前の人生に信用出来る人間がいないだけだ、と僕は言おうとしたが、言葉はうめき声にしかならなかった。

「何が『うぐぐぐ』だ。人の質問にはちゃんと答えるべきだ……まあ、お前と会話したいワケじゃ無いし、構わんが。そろそろ終わりにしよう」

「……うう……」

 足と鼻の痛みが全身を支配し、意識が痺れ、朦朧とする。

 次の瞬間、タイガーはまた天井に飛び上がり、両足で天井を踏みつけると、今度は僕の右肩に襲い掛かった。

「うあぎゃあっ!」

 またもダメージが僕の体に蓄積する。痛みに体が震え、自然治癒を行う欲求に駆られる。

ビルのエントランス付近に立ち、じっとこちらを見ているタイガー。

「……いくらなんでも、まだ能力が底をついた訳じゃあるまい。反撃の為に取っておいているんだろうが、さっさと回復しないと、そのまま気を失って終わっちまうんじゃあないか? ……最も、回復したとて結果は同じなんだが。言っただろ? 俺は『油断しない』って」

 脂汗が額から顎に伝い、地面に落ちる。

 ……確かに奴は油断しない。でも、僕が痛みに耐え続けている理由はもう一つある。

 危機的状況下のみで発動する“脳神経加速”。これは正真正銘、僕の最後の切札だ。これの存在を奴は知らないはず……知らないだろ? 多分。

 例の圧縮された時間の中なら、奴の超人的なスピードも見切る事が出来るはずだ。奴が僕の命を奪いに来ない事が、たまたまこちらの脳神経加速の発動トリガーを引けず、奴に有利な展開になってしまっているが……この全身を伝う痛みに僕の肉体も精神も危機感も増している。

 次の攻撃。次の攻撃はきっと、耐えられない。次の攻撃の刹那、僕の最後の能力は発動するはず……発動するだろ? 多分。発動すれば、回復と同時に攻撃。それで残弾はゼロだ。それでダメなら僕の負けだ。

「左右あてなや佐渡聖子が居なければ、お前なんて結局こんなもんだな。一人じゃ何にも出来やしない」

 その通りだ。でも、そこを何とか覆したい。僕だって。

「何にも出来ない奴が、『出来ないのはやらないだけ』なんて心の中で思うよな。本当は『出来ないからやらないだけ』の癖に。お前は更にその一つ上のバカだ、同志・乖田。『出来ないのにやってしまった』んだよ。な、乖田っちよ。お前の骨を拾う奴はこの島に一人も……うおっ!?」

 と、その時。

 タイガーは突然の自動ドアの開閉音に、慌てて入り口のドアを振り返った。

「ちわすー。お届け物ですー。サインか印鑑下さい」

 宅配便だった。四十代ぐらいで、頭から胸元までびしょ濡れの中年の配達員が、小さな小包をタイガーに手渡した。

「……」

 タイガーは小包を訝しげな顔で見ながらも、とにかくさっさと帰って欲しい一心でサインをする。

「……はい、確かに。そっちの人は? 血まみれでどうしたんです?」

 配達員は僕の方を指差しながら、至って平静にそう訊ねた。

「ここがどこか知っているだろ。王国庁だ。そして、反乱分子に教育的指導を行っている最中だ。だから、さっさと消えろ。警察も救急車も要らない」

「あ、はい。ま、知ってるんですがね。失礼しやす」

 面倒には関わりたくないといった様子で、配達員は言われるがままにさっさと消えてしまった。

「知ってるなら聞くな、馬鹿が……」

 タイガーは小声でそうぼやいた。

 反乱分子には冷たい島民達だ……しかし、それより何より、さっきの配達員だ。あれは誰だ? 会ったことも見た事もない男なのに、妙に懐かしい感じがした。そう、聞き覚えのある声なのだ。友達じゃない。ギリギリ知り合いで、仲良くなんて無く、忘れても人生に取り立てて差支えの無い誰か……。

「ったく、間の悪い。誰からの荷物だ。福寿荘? 旅館か何かか? ……『知ってる』ってどういう意味だ?」

 福寿荘。フクジュソウ。

 そうだ、今の声は……間違い無い。見た目は違っていたが、一度思い出してみれば憶測に確信が湧き上がる。この島に来て僕が最初に戦った、あの世にも恐ろしい“呪詛”の異能者。あの粘着質でムカつく声は、彼以外に有り得ない。なんであいつが、いまここに? 僕を助けに来たのか?

……少なくとも分かるのは、彼がわざわざこの島に配達員のアルバイトをしに戻って来た訳じゃないという事だ。フクジュがタイガーに渡した荷物は、当然彼の丹精込められた呪詛アイテムだろう、という事。そして、これから何が起こるのか。フクジュが建物から離れて行き、タイガーの手にする呪詛アイテムが禍々しい能力を発揮し始め、そして……。

 突然、何の前触れも無く天井から蛍光灯が外れる。蛍光灯は運悪くタイガーの頭上に落下し、粉々に砕け散った。ダメージこそ少ないけれど、彼を怯ませるには十分だった。

 慌てて僕は自分の足を治癒し、タイガー目掛けて体当たりをカマす。彼は自動ドアをぶち破りながら派手に転がり、その衝撃で例の荷物を自重で押し潰した。勢いそのままに慌てて立ち上がり、苦悶の表情でこちらを睨みつける。まだまだ闘志は十分らしい。

 が、彼は気づいていない。さっきの宅配便の荷物の中身が破裂し、自分の全身が着色料まみれになっている事に。派手なオレンジの蛍光色は、彼がいよいよ逃れる事の出来ない不幸に塗れている様をありありと示していた。

 これで決着だ。僕はそう確信した。

「くっそ……ついてねえ! 蛍光灯が落ちてくるなんて……天井を踏み台にし過ぎたせいか? こんなボロい建物にいつまで居るつもりだ、貝川の奴……おい、乖田。どこに行くつもりだ? まだ戦いは終わっちゃいないぞ! ちょっとガラスを浴びたぐらいだ。ヘナチョコの体当たりを食らっただけだ! こんなもん、怪我でも何でも……うおわっ!」

 どかん、と物音がした。見ていないが、きっと看板か何かが彼の頭上に落ちたのだろう。次はトラックでも突っ込んでくる? 欠陥工事で道路が割れる? あるいは隕石が降ってくるかも。

 とにかく、戦いは終わった。死ぬことは無いらしいから心配するな、と声をかけてやるべきだったかも知れないが、聞き伝えの曖昧な情報でぬか喜びさせるのも忍びない。

 ……でも、もし“死なない”というのが本当だったら、フクジュの呪詛はあるいは“絶対安全圏”とも言える。どれだけお金を払っても、真の安全なんて普通は買えやしない。肉を切らせても骨は断たれない不幸。それは不幸では無く幸運なんじゃないか? 死ぬぐらいなら死ぬほど我慢する、それが現代の価値観だ。タイガー、お前はどう思う?

 また大きな物音が一つ。彼の幸運ふうんは始まったばかりだった。


 僕は俄に勇気づいた。フクジュの存在は、その後ろに居るはずの味方の存在を如実に予感させる。彼の顔が見た事も無い四十代のおっさんだったのは? 当然、左右あてなの“変身”能力だろう。左右もすぐ近くまで来ているのだ。二人だけでこの島に? そうかもしれないし、そうじゃないかも。あるいはこうは考えられないだろうか。王国に対するレジスタンスのような組織が存在し、僕を味方しているのかも知れない、と。

 王国の監視網をくぐり抜け、この絶妙なタイミングで(しかも、敵地のど真ん中で)僕を助けられたのは、きっと僕や他の王国民の動向を、緻密に監視していたと考えるのが妥当だろう。監視カメラの傍受か、独自の監視網か、あるいは内通者か。方法は知らないが……とにかく、それだけの手段を取るだけの技術や能力がある組織。ひょっとすると、国が組織した対大淀王国の特殊チームかも知れない。異能者を用いたチームの設立は十分に考えられる。目には目を、異能者には異能者をだ。

もしそうなら、僕が王国に対する忠誠心を疑われるように、左右もまた、僕を庇う事によって自身の組織で肩身の狭い思いをしているかもしれない。どっぷり淡風に浸かって、もはや信用なんて出来るはずも無い僕(だから連中にも監視されている)を助けるなんて、今の彼女の仲間に対する立派な反逆行為だ。特殊チームの存在は当然極秘裏だろうし、チームを危険に晒す行為は仲間の不信感を煽るに違いない。

……いや、推測は推測だ。何も真実が明確になっている訳じゃない。明確になったのは、僕には味方がいるという事、そして左右はまだ僕を信じてくれているという事。それで十分だ。レジスタンスだろうが特殊チームだろうが、僕には何の関係も無い。左右が助けてくれた。そして今ここを生き延びた。その事実が僕には何よりも大事な事だった。


エレベーターを使って、僕はビルの最上階である七階に到着した。相変わらず大淀一色の内装に塗れ、その中で自我を保つのは極端に神経をすり減らす行為だ。大淀は神だ。神のための僕、僕のための神。貝川に対する反抗は、神に対する反抗でもある。それは人間に……いや、信者に耐え得る行為じゃない。でも、僕が欲しいのは銀貨三十枚なんかじゃない。聖子を返して欲しいだけだ。聖子を連れて島を出る。今の僕にはそれしか無い。

七階のエレベーターが開くと、王国庁長官室と書かれたプレートが視界に入った。貝川はきっとこの部屋に居る。居なければ……本当にお休みだったらどうしよう? タイガーをボコってしまった手前、僕に退路は無い。いや、何をしようが彼は僕を捕まえようとしていたし、僕の行く末は時間の問題だったんだろう。僕の行動は遅い。でもまだ“遅すぎ”てはいない。

少し気になるのは……どうして奴は『佐渡は何処に行ったか?』なんて質問をしたんだ? 僕に対するブラフ? タイガーが貝川に聖子の現状を知らされて無かっただけ? それとも……聖子は本当に居ないのか?

考えても無駄だ。結論が右手を急かし、僕はドアに手をかける。鍵もかかっておらず、ほんの少しも軋む事なく、ドアは実にスムーズに開いた。視界に飛び込む『娘であり、母であり、妻であり、姫である』という文句と、きららの肖像画。二つの窓を纏めて覆う巨大ブラインド一面にデカデカと印刷されており、その凄まじいインパクトに僕はつい半歩ほどよろめいた。

そして、やはり彼女は居た。大層な椅子を一八〇度回転させ、貝川は腕組みをしながらゆっくりこっちを見た。

「おつであります」

 彼女は不遜な態度でそう言った。彼女の顔は青く覇気が無く、そのくせ目は充血していた。そして鼻にはティッシュの詰物。

「……調子悪そうだな。鼻血か?」

 今日初めて見る彼女の一番の違和感を、僕は指摘した。彼女が鼻にティッシュを詰めているのを見ると、彼女の顔面を殴ってしまった時の事を思い出す。が、もちろんアレとは関係ない。アレはずっと前の話だ。

 ちらりとゴミ箱に視線をやると、血塗れのティッシュの山。そして驚くべきは、ティッシュの隙間を縫って混じって捨てられている頭痛薬の箱。それも、一箱や二箱じゃない……見えているだけで八箱か、もっとだ。これを今日一日で飲んだのだろうか?

「佐渡聖子は何処に消えたのですか?」

 と、彼女は言った。

「こっちのセリフだ。お前らが“教育機関”にぶち込んだんだろ!」

 貝川は鼻からティッシュを取り、眉間を摘みながら顔を顰めた。小さなため息を付き、珍しく弱々しい態度を見せる。

「……ううーん、うーん」

 彼女は小さく呻きながら、目に涙を浮かべていた。彼女が泣くなんて、よほど酷い頭痛なんだろう。

「この頭痛薬の量、聖子を思い出すぞ……あいつも能力の使い過ぎで頭痛に悩まされて、薬をバリバリ食っていた。ラムネみたいに」

「対処法は!?」

 と、慌てて身を乗り出す貝川。いつものクールさは欠片も無く。

「お前が聖子の対処法を知ってどうするんだよ」

「良いから教えなさい!」

 ばん、と机を叩く貝川。鼻血が口元を伝い、雫となって落ちる。

 どうして彼女が聖子の能力の対処法を知りたがるのか。彼女を襲う現象と彼女の口振りに、僕は前々から疑問だった“ある問題”に、ようやく結論が見えた気がした。奴には神様の声では無く、悪魔の声が聞こえてるんじゃないかと感じた事がある。頭脳明晰という範疇を越えた凄みの正体が、今の彼女から感じる違和感と見事に合致するのだった。

「聖子と同じ症状なのか? もしかして、原因も……?」

 僕は重ねて訊ねた。

「……お前、聖子の能力を使えるのか!?」

 貝川の表情は変わらない。が、否定もしない。

「そんな気はしてたんだ! “ライブラリー”の真の能力は……“コピー”だ! お前は自分が覗いた相手の能力をコピー出来るんだ! そしてお前はずっと聖子の“観測者”をコピーしていた! 違うか!?」

 淡風で起こった一連の戦闘に勝ち続けたはずの僕達が結果的に負けた事、この馬鹿げた王国を実現させた事。常人離れした最適解の一手一手に、何か裏打ちがあると思うのが普通だ。それが“観測者”を駆使した結果なら何より合点がいく。

 石の様に固まっていた彼女の表情は、ふっ、という乾いた笑い声と共にようやく崩れる。

「ええ。コピーですとも。便利と思うでありますか? 便利ですよ。持ち主以外が能力を使うという、とんでもないリスクを度外視するならね。副作用二倍増しでやらせて頂いてます」

 僕は再びゴミ箱の血まみれのティッシュと頭痛薬に視線をやった。

「能力とは肉体と精神の素養が生み出したもの。それを簡単に間借り出来る程、世の中甘くないであります。借りた物には利子がある。こんな酷い頭痛は生まれて初めてであります。鼻血も止まらないし」

 よっぽどなんだろう。彼女の声は震えていた。

「聖子の能力は、日常生活の中でも常にその力を発揮し続けてしまう。酷使せずとも自動的に使用され、自動的に副作用を受けるってわけだ。お前、能力のコピーが出来るなら、放棄も出来るんだろ? じゃないとお前……死ぬぞ? そのゴミ箱、自分でよく見てみろ」

「私が死ぬのは構わない。でも、私の代わりがいない」

 貝川は平然とそう答えた。

「誰が王国を発展させてくれるんです? 佐渡聖子は私の代わりを勤めてはくれない。あなたがやってくれる? その気も無いし、そんな能力も無い。でしょう?」

「当たり前だ」

「……問題は既に始まっている。今の私にも能力は無い。頭痛がしてから“声”が聞こえないんだもの。能力を放棄しないと死ぬ? 確かにその通り。違う能力を上書きして、負担をかけ過ぎた脳みそを元に戻さないと……ねえ、乖田くん。あなたの能力は、そういう意味では売ってつけだわ。その自然治癒の能力、貸してくれませんか」

「嫌だ」

「ちょっとだけ“血を啜らせて”貰えばそれでオッケー」

「嫌だ!」

 相手の血を啜る事が彼女のコピーのトリガーらしい。

 ……彼女の言葉に奥行きが無い。コピー能力の存在、コピーの条件など、絶対に秘密にしておかなければならない全てを、事もあろうにこの僕に吐露し、命乞いの様なマネをしている。

 貝川は本当に切羽詰まってるのだ。頭痛を我慢し、鼻血を垂らしてもどうにもならない現実に。いや、余裕をぶっこいていながら、こいつはいつも切羽詰まっていた気もする。オリジナルの“観測者”に何度も打ち負かされ、思わぬ状況に追い詰められ……それでも奴が勝利したのは、やはり執念の違いだろうか。

忘れちゃいけない。こいつは悪魔だ。もう僕は甘さなんて見せない。

「……僕がお前の手助けをすると思うか?」

「思う。あなたはお人好しだから」

 彼女は言った。

「アテが外れたな。お前のせいで人殺しまでさせられたんだ。お前がこのままのたれ死んでも、僕は……」

「ミカリンは生きてるわ」

 貝川は言った。苦し紛れで何でも言う。

「デタラメ言うな!」

「デタラメ言いません。デタラメにしてもこんな苦しいデタラメ、言うと思う? ……あなたがそう思うなら、そう思っても構わないわ。

 でも、もし本当だったら? ここで私が鼻血の海に溺れて死んでいくのを見過ごせる? 殺人した人生、殺人しなかった人生。せっかく選び直せる瞬間なのに、私を見捨てて後者を選ぶというわけですか。同志・乖田」

「その呼び方はやめろ! もうお前の操り人形なんかにならないぞ!」

「……そうでありますか」

 と、貝川はおもむろに立ち上がり、例の大淀きららがプリントされた特大ブラインドを一息に巻き上げた。俄に顕になる窓の外。景色なんてものは無く、すぐ裏側に建つビルの煤けた壁面が見えるだけだった。下を覗けばきっと、雑居ビルの汚い路地だ。

「これが“王国庁”から見える風景だなんて、私もまだまだでありますね。こんなボロいビルにしか住めないなんて。ちょっとは同情して下さいよ」

 貝川の声は少し寂しげだった。王国が自分の理想からは程遠い、と言いたいらしい。それが本心かどうかは知らない。しかし、僕はもう奴の気持ちなんて考えない。

「お前は薄汚れた罪人だ。本来は死ぬことだって許されない。でも……」

「誰が許さないんでありますか? 乖田くん?」

 僕は精一杯口角を上げて、引き攣った笑みを浮かべた。

「いや、僕は許してやる。同情してくれだ? ああ、いいとも! してやるとも! 死ね、貝川! 地獄に堕ちろ! それが僕の最大の同情だ! お前が生きている事でどれだけ多くの人生が狂わされたかを考えれば、死なんて末路は十分すぎる程の温情だ! もうお終いだ。お前も、この王国も。血塗れになって地獄に堕ちろ! お前が朽ち果てる姿を見届けるのは、ポスターの中の大淀きららだけだ!」

「言いましたね」

 と、言ったその瞬間。

 彼女は窓を大きく開け放ち、一度大きく息を吸い込むと、窓の桟に足を掛け、一切の躊躇無く、まるでありふれた日常のひとコマの様に、七階の高さから真っ逆さまに飛び降りた。僕は慌てて駆け寄ったが、窓の下を覗き込む前に、どん、という音が耳に届く。

 ビルとビルの隙間の小汚い地面に叩きつけられ、血溜まりに沈む貝川。

 やられた、と僕は思った。

 鼻血なんかで死ぬ前に、どうせ彼女は誰か他の人間に泣き縋ると、僕は内心思っていた。地獄に堕ちろなんて言葉を吐くほどの覚悟は無かった。お人好しの僕は、これから死にかけている貝川の元へ猛スピードで直行し、彼女の口元に自分の血を注ぎ込むだろう。

 自分の能力をコピーさせ、超高速の自然治癒を発動させる。

 助かるかどうかは分からない。即死だった場合はもちろん、自然治癒の不可能な怪我の場合、彼女の体には重大な後遺症が残るかもしれない。

 一体何なんだ?

 貝川、お前を突き動かしている執念の正体は? それほどまでに大淀が大事なのか? 

 ……違う。

多分、彼女自身にも答えは無いと、僕は思う。

 大淀という口実を前に、建国というギャンブルを前に、彼女はただただ自身に巣食う異様な衝動を突き動かしているのだ。

 彼女は狂っていた。

 貝川の内に巣食う衝動こそ、正真正銘の悪魔だ。

 それはもはや執念なんかじゃなく、成功と破滅を同時に望むという、矛盾した、永遠に満たされる事の無い欲求不満だ。明日こそは、明日こそはと、この衝動が満たされると信じて、ずっとこんな事を繰り返すのだろう。

 僕はゾッとした。体の芯が凍りつくような気持ちだった。

 貝川の本当に望むのは建国じゃなく、異能者と普通の人が争う世界。あるいは、異能者同士が争う世界。

 勝利も敗北も、成功も破滅も、喜びも悲しみもグチャグチャにかき混ぜられて、カオスとなった情念が煮え立ち、焼けつく衝動を満たし、彼女の悪魔が微笑みを浮かべる世界……。

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