第7頁「家政婦のミス」


 ――マズイ事になりました。


 お屋敷のご主人様に取り入って、さっくり毒殺して遺産をガッポリせしめてやろうと思ってたんですが、


(……毒のカプセル、どっちのティーカップに入れたっけ……)


 考え事をしながら毒を盛ったせいで、うっかり、どっちのティーカップに毒を入れたか分からなくなってしまいました。


(困ったわ、どうしよう……この毒、めっちゃ高かったのに……)


 無味無臭で、お値段5万円でした。


 ネットの評価では『すぐ死ぬ。めっちゃ死ぬ。とにかく死ぬ。ヤバイ』と好評でした。平均の星の数も最大5つのうち、なんと4.9以上で、1件だけ星1つで


 「詐欺です注意」


 というものでしたが、残り99件の評価が5つ星で『死にますた』とあったので、間違いなくすごい猛毒のはずなのです。


 居間の方からは、ご主人様という名の平凡極まりないけど小金だけは持ってる小太り中年が「どうかした?」なんて声をかけてきます。ここで解答をもたつかせては、遺産をぶんどる前に疑いの眼差しを向けられてしまうでしょう。


 そこで、機転が利く上に、要領の良い私はとっさに素早く言って退けました。


「ご主人様、お茶を飲み比べてみて、どっちが美味しいか感想をください」


 完璧。パーフェクト。自分の頭の良さに惚れ惚れする。そして案の定、ご主人様という名の豚はちょっと首を傾げながら「ひとつは君の分じゃないの?」とか言ってきやがりましたが、


「ッチ(舌打ち)、いいから両方飲めって言ってんだろが、ご主人よぉ」


「あ、はい」


 飲ませました。やりました。これで遺産は私のモノ。やれやれ、ほんとバカなご主人様でしたよ。今までありがとうございました。私はこれでようやくお暇をもらうことが叶います。ではさような


「あのさ、これ両方同じお茶じゃないの?」


「は?」


「その、悪いけどあまり違いが分からないというか……気のせいか、こっちは妙に甘い気がしたけど、砂糖大目に入ってる?」


「……」


「どしたの?」


「せぇい!」


「がはぁっ!?」 


 通信教材で習った、一撃必殺の当身を食らわせて、倒しました。床に倒れたご主人様はぴくりともしません。


「――やはり、最後に頼りになるのは自分の力……!」


 こうして私は、無事に遺産を手に入れたのでした。めでたし、めでた――


「い、いたた……な、なんでいきなり鳩尾に全力で攻撃してくるんだ?」


 ちっ、息を吹き返しやがりましたか。ゴキブリのようにしぶとい男ですね。まぁいいでしょう。聡明な私はまた別のプランを考える。その機会がやってくるまでの間、ふたたび善良なる召使の仮面を被るのである。


「大丈夫ですか。お怪我はありませんでしたか、ご主人様?」



 完。





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