第25話

HARDBOILED SWING CLUB 第25話





「今日はお前に話があってな・・・」




ブライトンはキューバ産の葉巻の煙を燻らせながら言った。




「話・・ですか?」




ホワイトはブライトンの顔を見つめた。




「そうだ。」




ブライトンは大きな窓から差し込む太陽の逆光に包まれながら言った。




「実はな・・・来年のブールムタウンの市長選に立候補することにした。」




ブライトンは葉巻の煙を大きく吐きながら、ホワイトに言った。




「そうですか・・・」




ホワイトは興味無さそうにブライトンに言った。




「支援者、支援企業、ブレーンももう擁立の用意で動き始めていていて、色々と状況も変わる。・・・お前にも色々と考えてもらわないと・・・ってことでな」




ブライトンは静かにホワイトを見つめながら言った。




「考える・・・とは?」




ホワイトはブライトンに聞き返した。




「・・・お前との「仕事」の件だ」




ブライトンは溜息をつくように葉巻の煙を吐きながら、ホワイトに言った。




「・・・・」




ホワイトは黙っていた。




「クスリ、窃盗くらいなら揉み消せるが、「事故」に見せかけた殺人の揉み消しは面倒がかかるし、金もかかる。」




ブライトンはホワイトにそう言った。




「その分、先生には「謝礼」として高額な金額をお支払いしてるはずですが・・・」




ホワイトは表情を変えずにブライトンに言った。




「総監がな、「次回は今までの謝礼では難しい」と言ってきた。




・・・我々の立場を考えると最近のお前の偽装殺人の揉み消しはリスクが高すぎる。




警察内でもお前に対する捜査の打ち切りを不審に思っている輩がチラホラと出てきているらしい。





こちらも総監に無理をお願いしてるわけだしな。





不審に思う連中が出てくるのも当然だ。」




ブライトンは葉巻の煙に眉をしかめながら話を続けた。




「それと・・・俺が市長選に出馬すると決まれば、新聞社やマスコミの連中も色々と俺の周りを嗅ぎまわる。




もし、お前との今までの「関係」を知られたら俺の政治生命も終わりだ。」




ブライトンは白いテーブルにある天使の装飾が施された灰皿に葉巻の灰を落としながら、そう言った。




「・・・先生や総監はもう「私からの仕事は受けない」ということでしょうか?」




ホワイトは静かに低い声でブライトンに言った。




「俺も総監も「受けない」と言っているわけではない。お前の「仕事」はこちらの重要な収入源でもあるし、来年の市長選でこちらの大事な資金源だ」




ブライトンは言った。




「なるほど・・・それでは「謝礼」を増額しろとのことですか?」




ホワイトはブライトンの遠回しな「要求」の言葉に辟易し、遮断するように言った。




「・・・まぁ、そういうことだ。こちらもリスク抱えて動いてる。お前にはもう少し金を積んでもらわないとな。」




ブライトンは唇に笑みを浮かべながら、そう言った。




「・・・今までの「謝礼」の増額とはどの程度をお考えなのでしょうか?」




ホワイトはブライトンに言った。




「今までの「倍」は必要だ」




ブライトンはホワイトに言った。




「今までの「倍」・・・無理です。こちらの利益はほとんど皆無だ。」




ホワイトは笑みを浮かべるブライトンに突っぱねるように強気に言い返した。




「そうか・・・ではお前には「逮捕」の道しか残ってないな」




ブライトンは笑みを浮かべたまま、ホワイトにそう言った。




「そういう「脅し」で来ますか・・・あなたも「同罪」ですよ、ブライトン先生。」




ホワイトも表情を変えずにブライトンに言った。




「総監と俺を捕まえるのは不可能だ。立件すら難しい。




警察も、弁護士も、検察も・・・そして裁判所にも我々の金とコネが入り込んでるからな。




我々を逮捕したら、この連中にもかなり影響が出る。




連中は自分の保身しか考えてないからな。




連中は自分の為にも我々を「守らざるおえない」のだよ。




だから、我々は「逮捕」されない。




・・・しかし、お前はこちらの「客」だ。




我々や連中の立場とは違う。




・・・今すぐにでも逮捕できる」




ブライトンはそう言った。




「その気になれば、お前を死刑にもできる。我々の国家権力、政治権力、法律、そして財力と戦ってみるか?ホワイト」




ブライトンはホワイトを見ながら、そう言った。




「・・・・・」




ホワイトはブライトンを睨みつけ沈黙した。




「ホワイト、お前は昔から「犯罪」を仕事にして、金を稼ぎ、成り上がってきた。




自分だけの力でここまで来たと思っているわけではないだろう?




いつも最終的に我々の揉み消しがあったから、今まで逮捕されずに済んでるのはわかっている筈だ。




こちらだって高いリスク故にお前から高額な「謝礼」を支払ってもらってる。




「表」の我々と「裏」のお前との関係は「太陽」と「月」のようにお互い必要としてる。




お前からすれば、我々は「逮捕されない為の武器」。




我々からすれば、お前は「資金源」。




「需要」と「供給」がお互いの要望に合ってるわけだ。




これからもお互い助け合いながらやっていこうじゃないか。




お前を思えばこそ、言ってるんだぞ。




・・・お前は頭の切れる男だ。




我々との関係を切れば自分がどういうことになるのかくらいはわかっているだろ、ホワイト?」




ブライトンはホワイトを見下げるように言った。




「・・・・」




ホワイトは黙っていた。




「言っておくが・・・




お前がいなくなっても、お前の代替はいくらでもいる。




こちらの要求に服従した方が身の為だぞ。




話は以上だ。わかったな、ホワイト。」




ブライトンはそう言うと、「トワイライト」のドアに歩いていった。




ホワイトは歩いていくブライトンの後姿を見ながら、用心の為に胸ポケットに忍ばせてきたコルトに手を伸ばそうとした。




(いや・・・ブライトンはいつでも殺れる。)




ホワイトはそう考え、手を戻した。




・・・・「バタン!」




ブライトンは「トワイライト」の個室から出て行った。




ホワイトはポケットから煙草を1本取り出し、18金のライターで火をつけた。




「・・・・フーッ」




そして、溜息のように大きく煙を吐いた。




(あの豚共に金を脅され、毟り取られ、いいように利用されるのか・・・だったら、死んだ方がマシだ)




・・・ホワイトは「トワイライト」の店内から見える中庭を見つめながら思っていた。




「・・・糞野郎が!」




ホワイトは白いテーブルに煙草を押し付けて呟いた。




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