第22話

HARDBOILED SWING CLUB 第22話





「なるほどね。イカれてるのね、そのホワイトって男は・・・」




エバはジャスティンの話を聞いてパイソンが何故、自分がホワイトを脅迫すると言った時にあんなに必死に止めていたのかが納得できた。




ジャスティンはもう一本、煙草を取り出して火を点けながら話を続けた。




「そうだな・・・イカれてるというか、楽しんでるというか・・とにかく俺達と同じ人種ではないってことはその後によくわかったよ。」




大きく煙草の煙を吸い込みながら、ジャスティンはエバに言った。




「その後?」




エバはジャスティンに聞き返した。




「ああ・・・。ホワイトはその後、急に羽振りが良くなった。




今思えば・・「スピーカーズ」事件でホワイトは何らかの形で金が入ったんだと思う。




保険金か何かで計画的に儲けたんだと思うがな。




その後・・・ホワイトは俺達にも「仕事」を持ってくるようになった。




俺達はその頃、遊んでばかりでなぁ・・ろくに働かなかったんで生活が困窮していた。




皆も酒で誤魔化してはいたが、安定しない生活に精神的にも荒んでいたと思う。




ホワイトの持ってくる「仕事」は報酬が大きいし、金に目が眩んだ俺達はそのホワイトの「仕事」に飛びついたんだよ。」




ジャスティンはそう言った。




「その「仕事」って?」




エバはジャスティンに聞いた。




「まぁ、いわゆるクスリ売りさ。それと窃盗、保険金詐欺、偽装殺人・・・「仕事」がヤバければヤバいほど報酬が大きかったよ。




俺達は全員、それなりの札付きの不良だったしな。




だから、「そっち」方向の「仕事」にビビる奴はいなかった。




俺はその時はすっかり「窃盗」にハマっちまってなぁ・・・。




「窃盗」って言っても人の家に忍び込んだり、金を盗んだりの「窃盗」じゃない。




ホワイトからの「窃盗」の指示は公共の資材だったり、中古の自転車やバイク、そして車がメインだった。




ホワイトはそれを何処かに売りさばくルートを持ってたんだと思う。




次の日には金が振り込まれてくるんで、俺はどんどん深みにハマっていった。




俺は簡単に金になる「窃盗」が楽しくてな。すっかり「MIDNIGHTS」の集まりにも行かなくなってしまった。




「MIDNIGHTS」での友情ごっこや負け犬同士で酒飲んで傷を舐め合ってる生活に俺も辟易してたし、ホワイトの「仕事」をして金を稼いで、良い飯食って、良い酒飲んで、良い車乗って、良い女抱いて・・・って生活が楽しくて仕方なかった。




だけど・・・」




それまで流暢に話していたジャスティンは口を噤んだ。




「だけど?」




エバはジャスティンにそう聞き返した。




「・・・ホワイトの「仕事」が日を追うごとに「ヤバい」方向に向かっていって、人身売買なんか請け負うようになっていたのを知ってな。・・・さすがの俺も「それは無理だ」ってホワイトに言ったんだ。




奴は不思議そうな目をして「何でできないんですか?お金欲しくないんですか?MIDNIGHTSをナンバーワンのチームにしたくないんですか?」って涼しい顔で言ってたよ。




「「MIDNIGHTS」をナンバーワンにする」とか「皆さんの生活に安定させたい」とか大義名分を言いながら、ゲームのように俺達に犯罪をさせて金を儲けていくホワイトが恐くなってな・・・。




「MIDNIGHTS」のメンバー、そしてキングもチームを大きくしたいなんて誰も思っちゃいなかった。




ただ毎日、仲間と楽しくやってたかったんだよ。




ホワイトは俺達に「仕事」をさせるために「「MIDNIGHTS」をナンバーワンのチームにする」って大義名分を立てた。




俺達も「仕事」への言い訳として、この大義名分を口々に言い合って「仕事」をこなしていた。




俺達は自分に嘘をついて、そして犯罪に手を染めてまで金が欲しかったんだ。




そして・・・




遂に俺達の中からも警察に捕まる奴も出てき始めてきた。




ホワイトは一切責任を持たないし、助けようともしなかった。




「保釈金くらい出したらどうだ?」ってホワイトに言った時があるんだが、「何故?」って笑われたよ。




そして、それでも毎日、毎日・・・ホワイトからの「仕事」の指示が来る。




俺はさすがに嫌になってしまった。




「俺が捕まってもこいつは笑ってるんだ!」って思ってな。




他の仲間も同じようにそう思っていたらしく・・・俺達はどんどんホワイトの「仕事」を請けなくなった。




ホワイトは「MIDNIGHTS」のメンバーが「仕事」を請けなくなると、今度は隣町の「スピーカーズ」の残党や浮浪者などに仕事を回し始めた。




自分が放火して全滅に追い込んだチームの連中にまで「仕事」をやらせるんだぜ?




そして「使えない」奴はポイ捨てさ。




ホワイトはそういう男だよ。




「仕事」をやれる人間であればホワイトは俺達でも誰でもよかったんだ。




それに気づいたときには「時すでに遅し」でな。




俺達の「仕事」の件を気づいたキングは怒りまくってな・・・「MIDNIGHTS」を解散させた。




俺もホワイトの「仕事」をしていたのがキングにバレて修復不可能なくらいに関係がこじれてしまっていた。




俺達は「MIDNIGHTS」にも戻れなくなり、バラバラになっていったんだ。







ああ、スマンな。




酒も飲んでないのに少し喋りすぎちまったな。」




ジャスティンは2本目の煙草を灰皿で揉み消しながら、そう言った。




「・・・話を聞くと、なかなか魅力的な男じゃない?ホワイトさんは。」




エバはおどけた調子でジャスティンに言った。




「おいおい、ホワイトは本当にやめとけよ、エバ。・・・アンジーみたいになっちまうぞ」




ジャスティンはエバに言った。




「アンジーって?」




エバはジャスティンに聞き返した。




「・・・アンジーはホワイトの「仕事」の管理を任されていた女だ。




ホワイトの「仕事」はアンジーから俺達に連絡が来てたよ。




スラッとしてモデルみたいな美しい女でな、天使のような愛くるしい顔をしてた。




俺達の間では「天使」って呼ばれてたくらいだ。




余計なことは言わないし、俺達に「仕事」のことだけを伝えに来る。




「ジャスティン、この仕事を頑張って。お金が入るんだから。ホワイトもこんな「仕事」をずっと皆にさせてるはずはないわ。」




・・・よくアンジーにそう言われたよ。




アンジーはホワイトが「ビジネスの為に資金を作る手段として今だけこの「仕事」をやってるんだ」と信じていたよ。




まぁ・・・どうせホワイトがアンジーを利用する為にそういう風に言ってたんだろう。




それを真に受けたアンジーは「ホワイトは大物になるわ。あたしは彼の力になりたいの」が口癖だった。




アンジーはホワイトの為に毎日、心身を削って尽くしていた。








そりゃあ、朝から晩までだ。








俺達の足がつきそうな「仕事」の小さなミス、証拠なんかもアンジーが色んなところに手をまわして消してた。





ホワイトも「仕事」の件でアンジーを側近にしてたってことは・・・アンジーを余程気に入っていたか、信頼してたんだとは思う。




アンジーもホワイトに心底惚れ込んでいたんじゃねぇかな。」




ジャスティンはエバにそう言った。




「へぇ~。非情なホワイトさんにもそんな女がいたんだ?」




エバは驚いたように言った。




「・・・・まあな。」




ジャスティンは話を続けた。




「だが・・・




ホワイトはある日、「金」と「仕事の揉み消し」の為にアンジーを平気で「売った」。




政治家、警察。権力者、資産家・・・アンジーはその日からホワイトの指示で「夜」の接待をさせられていたらしい。




多分、2人の間に「何か」があったんだとは思うが・・今となっちゃホワイトしかその「何か」はわからないな。




アンジーはそれからどんどん身も心もボロボロになっていったよ。




ホワイトはアンジーの自分への感情を利用していたし、アンジーも何故か逃げずにホワイトに従っていた。




その頃のアンジーの顔は青白く痩せこけて、生気が感じられなかった。




・・・最後にはアンジーは精神が病んでしまってな。




詳しいことはわからんが自分で命を絶ったらしい・・・。




・・・エバ、ホワイトには関わるなよ。




あいつは金と権力の為なら自分の女、自分の親までも殺しちまう男だからな。」




ジャスティンはエバにそう言った。




「・・・わかったわよ」




エバはジャスティンに言った。




その時、「チリリリン・・・・チリリリリン・・・」と店の電話が鳴った。




ジャスティンは椅子に座りなおし、電話を取った。




「はい、ブラックシュガーです。




・・・はい・・えぇ・・・今日はエバは体調不良で休みです。




・・・ええ・・・ええ・・・大丈夫ですよ。




明日は来てると思います。





はい・・・それではどうも・・」




ジャスティンは電話を切った。




「エバ、奴からの指名だったけど断っておいたからな。パイソンって名前だったな・・あいつと何かあったのか?・・・大声で何か焦ってるようだったぞ」




ジャスティンはエバにそう言った。




「うん。ありがとう、ジャスティン。・・・ちょっと用事を思い出したんで今日は帰るわ。明日、来るから」




エバはそう言って、豹柄のソファーから立ち上がった。




「じゃあ、明日な。パイソン以外の客の予約は入れておくからな」




ジャスティンはエバの「今日の出勤」に赤いペンで×(バツ)を書き込んだ。




「バイバイ、ジャスティン!」




・・・「バタン」




エバはブラックシュガーの事務所のドアを閉めて外に出た。




そしてあくびをしながら空を見上げた。




青空に白い太陽が輝いてる。




(眩しいわね・・・)




エバは胸元に挟んであったサングラスを手に取り、顔に着用しフレームを耳の上に差し込んだ。




(さてと・・・消えるかぁ)




エバはそのまま銀行に行ってパイソンからもらった10000ドルを全て引き下ろし、その足でブルーム駅に向かった。




それ以来、この町でエバの姿を見た者はいなかった・・・。



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