秋絵ちゃん タイタス→ロイス 侵食率107%→125%

「サクッと終わらせるとは大きく出たね。昨日の闘いではこの二人に手も足も出なかったみたいだけど」


 昨日の闘いを見ていたのか『解放者リベレイション』があたしに声をかけてくる。あたしはそれを鼻で笑い、影を腕に纏わせる。


「手も足も出なかったのは確かだわ。意図して出さなかったわけだけど――」

「速い! 出だしの段階セットアップフェイズで一気に移動しただと!?」


 あたしの魔獣本能ビーストハートが唸りをあげる。狩りを行う獣に躊躇が無いように、その気になったあたしの準備期間は一瞬だ。相手が何かするときにはすでに、獣となっている。


「そう! それは夜の時も同じ! さぁ、秋絵ちゃんに恵子ちゃん。たーっぷりそれを教えてあげるからね!」

「うう……。絶対に負けたくないわね」

「確かに夜は獣のようだったわ……」


 未経験者の恵子ちゃんと、経験者の秋絵ちゃん。違った反応がまた初々しい。

 二人までの距離を一気に詰め、手の届く範囲まで迫る。だがその視界が歪む。上下左右が反転し、真っ直ぐに立っているのかどうか不明な感覚。


「ここはボクの治める地だ。不敬は許さないよ」

空間を操惑いの庭って認識を歪めてダイス数を減らすきたか。オルクス系だな」


 P266が『解放者』のシンドロームを看破する。それは自分と同じシンドロームだからだろう。


「この大地、それ自体がボクの武器。君達はボクの攻撃から逃げることはできないよ」

「大地が揺れていますわ!?」

「……大きいのが、来る……」

「喰らうがいい! 『大地を這う蛇』!」


 叫ぶと同時、白い半透明な何かでできた蛇が『解放者』の足元から生まれる。『解放者』はそれに命ずるように、こちらに指を差し向けた。顎をあげてこちらに噛み付いてくる白の蛇!


「これは……この地に住む蛇神を創造ウェポンクリエイトし、それを巨大化してこちらに襲わせたギガノトランスのか!」

「しかも結晶化の呪いクリスタライズ付きですわ。蛇神を肥大化させることでオーバーロード威力を増しています。こうも認識を狂わされて間違った世界は、亜紀子さんを守る事はカバーリングできませんわ」


 P266と、それを庇ったクララさんが相手の攻撃を分析する。創って飛ばす。それは規模こそ違えど、セッちんの攻撃手法に似ていた。

 薄れゆく意識の中、あたしはここで倒れまいと気合を入れる。精神がより戦闘に傾き、日常のロイスへの意識が薄まっていくタイタス化する


「まあ、どの絆を最初に失うかって間違いなくP266女性以外からなんだけどね!」

「予想通りだが、躊躇ぐらいはしてほしいものだ」


 あたし達オーヴァードは、日常の絆を思うことでジャーム化を回避する事ができる。

 だが逆に日常の絆を切り離すことで、大きな力を得ることができるのだ。それは倒れそうな体を奮起して起きる力を得たり戦闘不能からの回復届きそうな行動の後押しをしたりと判定ダイス増やしたりクリティカル値下げたり様々だ。

 ロイスを失えばそれだけジャーム化する可能性が増す。だが絆を切り離さなければ、そもそも勝てる相手ではない。

 別に絆を失ったからと言って、その人のことを忘れるわけではない。言ってしまえば『その絆よりも戦闘の方が重要』となるだけだ。


「だが注意し給え。君の攻撃は重いが、その分レネゲイトの侵食率を一気に増幅させる。侵食率が高まりすぎれば、絆があっても日常に戻ってこれなくなる可能性があるぞ」

「危なくなったらいつでも言ってください。いつでも守って見せますから」

「……皆で……帰る……」


 行動しながらあたしの状態を気遣って声をかけてくるUGNズ。ダイジョブ、と親指を立てて返しそのままあたしはその腕を秋枝ちゃんに向ける。


「そんなわけで少し眠ってもらうわよ! 目覚めたときにはベットの上で優しく介抱してあげるから!」

「いらないわよ! なんかエロいことするつもりでしょう!」

「え。激しい方がいいの?」

「もっと違う!」

「えろいこと、は否定しないのね」


 流石秋絵ちゃんちゃん。わかってらっしゃる。

 そんな会話ができるのは、やはり彼女達がまだジャームではない証拠。そう信じてあたしは手を開く。指の形に応じて影の爪の形も変わる。握られた拳から、鋭い爪が広がった凶悪な刃物の状態に。


「んじゃ、いただきまーす!」


 レネゲイトを喰らう影蛇ウロボロスの力、強い野生を示す魔獣キュマイラの力。そして――血を抜かれて惨殺されたあたしの友人達の想い。

 それらが合わさった女性の姿。複数の女性があたしの背後を祝福するように見守っている。それがあたしの現身アヴァターだ。

 あたしは背負わない。これはみんなと一緒に生きていくという意思の表れだ。あたしが自由に生きて、あたしは好き勝手やる。だけど女性はいつだってOKよ、という心の表れ。

 あったりまえだけど、男はすぐに切り捨てるからね!


「……っ!?」


 爪を大きく振りかぶり、秋絵ちゃんに向けて降り下ろす。重く鋭い一撃が秋絵ちゃんの血を、そしてレネゲイトを吸い上げる。

 そのまま倒れ伏す秋絵ちゃん。胸が上下しているのを確認し、安堵する。うまく再生リザレクトしているようだ。

 だが、不安は残る。


「やっぱり直接胸をさわって確認しないといけないよねー。仕方ないわよねー」

「ん……あ、んん」

「きゃー。寝てても高感度。声もえろいー。こっちの反応はどうかな? どうなのかなー?」

「こらエロ村! どこに手を入れようとしてるのよ!」


 恵子ちゃんの声に、あたしは首をかしげて言葉を返す。


「え? ショーツの中だけど」

「『なに当たり前のこと聞いてるのよ?』な顔で聞き直さないでよ! こっちが恥ずかしいのよ!」

「まあこれは向こうか正しい」


 P266の同意の言葉が聞こえてくる。むぅ。趣味と実益を兼ねた生存確認なのに。

 ともあれ秋絵ちゃんは上手く確保できたようだ。心の不安がひとつ消えて、気分が楽になった。

 体内のレネゲイドウィルスが体を蝕んでくるのがわかる。気を抜くと、理性を溶かされそうなほどに、熱く体内を駆け巡っていく。

 

 体をはまだ動く。あたしは深呼吸して、恵子ちゃんに向き直る。


「次は恵子ちゃんの番だから!」

「ぜーったい気絶してあげないわ!」

「くっ、心までレネゲイドに侵食されつつあるようね。仕方ないから力ずくよ!」

「顔!? 絶対変なこと考えてるでしょう、その顔!?」

「考えてないわよ。始めての思い出は心地いいものにしたいもんねー」

「わーん! 今切実に力がほしい! このエロ村を倒す力が!」


 叫ぶ恵子ちゃん。ゆっくりとあたしは恵子ちゃんに迫っていく。

 実の所、あたしの体内を侵食するレネゲイトウィルスもかなり理性を揺さぶっている。事、あたしの攻撃は一撃必殺な分かなりレネゲイトウィルスが活性化するのだ。

 十分な危険領域。だけどあたしは再度力を籠める。

 

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