それぞれの役割(ロール)

 刑事と別れた後、あたしはUGNのビルに戻る。

 そこには情報収集を終えたクララさんとセッちんが机に座って話をしていた。あたしの到来を待っていたようだ。


「亜紀子さん、野村さんからいい話は聞けましたか?」

「のむら?」

「……あの刑事さんです。本当に男の名前は憶えないのですね」

「だって覚える必要ないし。ああ、でもいい話は聞けたかな」


 あたしは刑事の話を聞いて、補強できた推理を口にする。秋絵ちゃんと恵子ちゃんは、まだジャームではない可能性が高い、と。


「なるほどな。こちらの調べた情報と合致する部分がある。彼女達は『レネゲイトの力に目覚めている』が『ジャームではない』ということだ」


 言葉を挟んだのはP266だ。どこに居たかと思ったら、机の上に充電器があった。コイツ、人が会いたくない男とあっている間に優雅に充電してたのか。とっさにP266を手にして窓の方に近づいて開けようとするが、クララさんに止められた。


「いけません、亜紀子さん! 投げるなら私を!」

「どこまで被虐主義マゾなの!?」

「うふふふふふ。わたくし、いまだに落下ダメージは経験したことがないんです。自由落下の浮遊感の後に来る衝撃、想像しただけで体の火照りが……!」

「あの神社を包むレネゲイトの空間が強化された……突入が困難……」


 そんなあたし達を無視して自分の調べたことを報告するセッちん。セッちんはあの神社周りを見はっていたらしい。


「セツナ君の情報を纏めると、あの神社自体はよくある街の鎮守を祀る為の神社だ。だがそれにレネゲイトウィルスが感染して、力を得たという。

 この街を守るために、街の人すべてを『解放』しようというのが目的のようだ」

「ちんじゅ?」

「土地に鎮まる神様です。そこに住む人や土地そのものを守る神様なのですが……」

「レネゲイトの力に目覚め、暴走している状態だな。目覚めた衝動のままに暴れている、という事だ」


 目覚めた力のままに暴走。

 あたしは血の光景を幻視する。拘束具。潰れる肉。そして――影の爪。

 呼吸を整え、平静を取り戻す。


「さっきセッちんが言ってた空間の強化云々は?」

「先の突入で警戒されたのだろう。神社を中心にレネゲイトを散布し、近づく者のレネゲイトを活性化させる空間を作ったようだ。レネゲイトコントロールが未熟なものが入れば、倒れてしまうだろう」

「おそらくジャームの力Eロイスです。強力な人払いの結界悪意の伝染でしょう」

「待ってよ。レネゲイトコントロールが未熟って……秋絵ちゃんや恵子ちゃんはオーヴァードに目覚めたばかりでまだそんなこと知らないはずだよ!」


 レネゲイトコントロール。体内のレネゲイトウィするをコントロールし、超能力を使う技能だ。それは同時にレネゲイトの細かな操作を含まれる。

 UGNで学ぶことができるし、慣れれば独学でもいける。逆に言えば目覚めたばかりの二人はそれができない。そんな二人がそんな空間に居るとなれば……。


「言っただろう。『ジャームではない』と。なので二人を救うなら急ぐ必要がある。

 本来ならUGNの応援を呼んで包囲戦と行くのだが、その時間内に二人がジャームになる可能性は高い。なのでこのチームでいくしかないのだ」

「おそらくあの二人はオーヴァードの力を得た代わりに、鎮守のいう事を聞かなくてはいけない状態なのでしょう。そう言った契約愚者との契約を交わしていると思われます。その為、二人が鎮守を倒そうとする私達の前に立ちふさがることは確定しています。

 そのうえで、亜紀子さんには先にあの二人を相手してもらいます」

「あたしが恵子ちゃんと秋絵ちゃんを?」


 何言ってるの? って顔であたしはクララさんに問い返す。

 あたしがあの二人を殴れないことは先刻承知のはずだ。そのちんじゅ?の方を殴れと言われると思ってたのに。


「あの二人は強いレネゲイトに晒されている。そのまま助けても、その影響でジャーム化する可能性が高いだろう。

 だが亜紀子君の持つレネゲイトを喰らう爪の能力。そして彼女達が持つ君へのロイス。それがあれば彼女達を日常につなぎとめられるかもしれない」

「でも、あたしの爪だと殺しかねない?」

「お忘れですか? あの二人はオーヴァードです。多少の傷はレネゲイトが癒してくれます。――限度はありますが」


 リザレクト。それはオーヴァードが持つ再生能力。

 たとえ死に面した傷であったとしても、レネゲイトがそれを自動で癒す力。


「あ。いや、でも本当に大丈夫なの? 再生リザレクトにも限度があるんでしょう? やりすぎる可能性だってあるし。その基準が分からない――」

「君は散々私を折ったり投げたり壁に叩きつけたり潰したりしているのだが」

「……あー。確かに凄く理解してるわ、あたし」


 低い声で告げるP266の声に、あたしははたと気づく。言われてみればどの程度からリザレクトしなくなるのか、というのはよくわかってるわ。

 なぜか冷たい視線を向けるUGNの面々。なんとなく頭を掻いて場を過ごしたのちに、あたしは話を切り替える。


「とにかく、あたしがあの二人を攻撃して倒す……でいいのね?」

「可及的速やかに頼む。君にしかできない役割だ。可能な限りサポートはするが、鎮守の方にも手を割かねばならないのでな」

「……そっちは、私が……」

「私はお二人のガード役として守るのみです」


 それぞれの役割は決まった。

 結果から見れば、あたしがぐちゃぐちゃ悩んでただけだが、それでも今ここにあるのは皆の絆のおかげだ。あたし一人だけだと、ずっと悩んで時間切れになっていた。

 正直、UGNの理念とかオーヴァードの未来とかはどうでもいい。

 だけどまあ、皆との絆はこれからも守っていきたい。

 そしてその絆の中には、秋絵ちゃんや恵子ちゃんもいる。

 さあ、助けに行くよ。待っててね。 

 

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