P266 P:えらい N:モノじゃん

 駅から歩いて十五分。そこにあるビルにあたしはやってきた。ここがこの街のUGN支部だ。不便な場所に立っているのは、襲撃されても周囲に迷惑をかけないような場所を選んだからだとか。

 UGNって何するところ、って言われても実はあたしにもよくわかっていない。聞いた記憶はあるんだけど、どこかうろ覚えなのでその前提で聞いてちょうだいね。

 なんでもUGNは、あたしのようなオーヴァードを助ける為の組織だそうな。

 ここで「?」ってなった人はいると思う。オーヴァードは基本的に超能力エフェクトをもち、人よりも強い。そんなオーヴァードを助けるってどういうこと? と思うのだろう。事実あたしもそう思った。

 ところが、オーヴァードは世間では生きづらいのだ。先ずはそれを教えられた。

 超能力と言うのは規模こそ違うが、ナイフやバットを持っているのと同じことなのだ。そんな人間が隣に居たらそりゃ怖いよね。ナイフやバットなら捨てればいいが、超能力はそうもいかない。『人を傷つける可能性がある』人が隣人に居れば、もう恐怖で夜も眠れない。

 なもんで、基本的に超能力を持っているということは隠す。そしてその上で超能力を使いすぎないようにする。この超能力はレネゲイトと言うウィルスが何かしらの作用を施しているのだが、如何せんウィルスの影響が強まると理性を溶かしてしまうのだ。そうなるとクスリ並にヤバいとか、人に戻れなくなるとかそういう事らしい。

 そんなわけで、オーヴァードによる互助組織を作るに至ったとか。やー、大変だね。


 ノックもなしに入り口を開けると、UGNの人達がざわめいた。中にいる人たちは、何度か顔を見たことがある。この人たちもオーヴァードで、このUGNの職員……なんだけど男の顔は覚えるつもりはない。毛頭ない。

 そんなわけであたしは挨拶もなしにずかずかと部屋を歩く。目的は『支部長』と書かれた机の上。そこにいるのはこのUGN支部を司ると言われた『支部長』だ。この地域のオーヴァードを管理し、その問題を解決するいわば偉い存在。

 机の上で充電してある折り畳み式のケータイを掴んで――思いっきり壁に投げつけた。


「し、支部長ー!」


 職員達は壁に叩きつけられたケータイに向かって叫ぶ。壁に叩きつけられたケータイは自動的に開いて、そのスピーカー(受話口っていうらしい)から、音が響く。


「問題ない。私がこうなるのは予測された未来だ……。がく」

「支部長ー!」


 ケータイを前に泣き叫ぶUGN職員達。彼らの名誉の為に言っておくと、この人達はケータイを信望するへんなシューキョーなどではない。

 


P266ニムロック! どういう事よ!」


 P266。今時タッチパネル対応でもない十二個のボタンで操作するケータイの機種名だ。お父さんが持ってた気がするけど、それぐらい古いヤツ。それがこの地域のUGNを取り仕切る一番偉い人……人じゃない、ケータイだ。

 なんでもレネゲイトウィルスと言うのは人間以外にも感染すると言う。そりゃウィルスなんだから動物にだって……と思ってたらケータイだった。そんな出鱈目なっ、と思いつつも目の前の状況を見れば納得せざるを得まい。

 元々ケータイだったP266は(いやま、今もケータイなんだけどさ!)、オーヴァードになって、赤SICKアカシックなんとかとかにつながったとかそんなことらしい。よくわからないけど、ネットに繋がって知識を得てるんじゃない? ってぐらいに物知りだ。その知識でいろいろ助けてくれるのだが、それはそれだ。

 あたしの怒りは収まらない。P266を掴み、思いっきり叫ぶ。


「何であたしを呼ぶ声が野太い男の声なのよ! 前に言ったでしょう。可愛くて庇護欲を誘いそうな女の子の声で呼び出してって!」

「「怒りポイント、そこ!?」」


 UGN職員が総出でツッコみを入れてくる。何言ってるのよ、重要な事よ。


「ふ。MOEヴォイスで呼び出せば、キミは声だけで満足してUGNに来なかったであろう。十三秒ほど声で蕩けて、でもその後で『これはP266の声だもんなぁ』……と言う結論に至っていたはずだ!」

「「いや所長、それはさすがに」」

「……そうね。間違いなく」

「「認めたー!」」


 総出でツッコみを入れてくるUGN職員達。

 P266の分析を認めるあたし。悔しいけど、その通りだ。そう考えると男声で怒らせて、このビルに越させたP266の方が一枚上手だったという事になる。悔しいけど。

 おのれ、ここまでコケにされるとは。このあたしの怒りをどこにぶつければいいのか。流石に職員達はかわいそうだ。


「よし、壊そう」

「いや、まて、すでに、壊れ、てる、から!」


 力の限り二つ折りにしようと力を籠めるあたし。そのたびに悲鳴をあげるP266。周りのUGN職員はあたしが男に触れられたら、大暴れすることが分かっているため近寄ってこない。うん、賢明だ。


「そこまでにしなさい、亜紀子さん」


 なのであたしを止めたのは、当然のことながら女の声だった。

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