第25話 休息

 食事をしよう、という洋の提案を呑み、急遽一年二組は食事をすることになった。弁当を持ってきている人もちらほらいたが、その全員がきちんと手伝っていた。といっても、今回食べる分は購買から持ってきたおにぎりやパンなどの調理する必要はないものであったのだが、次の八時半の食事の時に鍋を使って白飯を炊く必要があるということに気が付き、今の内に作業してしまおうと皆は忙しく動いている。特に困ったのが水で、トイレにある水道まで往復する必要があり、かつ、大量に必要だったため、男子を五人一組に分け、十分に警戒させながら太陽を必ず傍に付けた状態で作業を行った。幸い、誰にもその様子を見られることはなかった。


 結果、多くの時間を割きながらも、クラス全員がおかわりしてもまだ残るような量の白飯の準備が出来、加えて、カレーにする予定なので別途大量の水の確保も完了していた。

 そうして一年二組は、結果的には予定通り、三時過ぎに昼食を取ることになった。


「しっかし……放送ねえな、いいことだけど」


 扉の近くで、太陽は握り飯に齧り付きながら一姫に言う。


「最初の一時間の密度が濃かったからな。今はそう易々とは外に出ようとは思わないだろう。故に、あのマネージャーのような輩が現れない限り、放送は流れないと思う」

「襲うとしても、オレらか三年五組だろうからな。あっちから連絡もないことだし、今はみんな、動くに動けねえんだろうな。平和な時だ」

「平和、と言っていいのだろうかね」


 太陽は辺りを見回す。クラスの人々は緊張感なく、談笑しながら食事をしていた。


「ま、束の間の休息ってとこか。確かに、状況は変わってねえからな」

「状況は変わっていないのに、この雰囲気に戻るとはな。洋も結構やるじゃないか」

「いや、あいつはただ天然で言っただけだと思うぞ」

「まあ、本人に聞かない限りは判らないけれどな」


 それより、と一姫は訊ねる。


「これからどうする?」

「どうするも何も、エゴイストの特定のために犯人を捜すだけだ」

「何処を?」

「一つだけ」


 そこから、小声で太陽は続ける。


「犯人……もしかしたらエゴイストがいそうな場所が、一つだけある。但し、考えられる場所の中では、校庭とか裏門とかの逃げる場所を除いて、最も危険である場所だ」

「……あそこか」


 一姫は、敢えてその場所を明言しなかった。万が一でも他の人に聞かれたりでもしたら、騒ぎ立てることが必至だからである。


「そうなると、太陽に付いて行く人物は、そこに行くことを厭わない人物となるな」

「あと、付くのはいても一人だけにしてくれよな。それ以上は守りきる自信がない」

「じゃあ五島だな」

「また? 何でだよ?」

「あの場所に行くのなら、お前にもそれ相応の覚悟をしてもらわないとな。だから、お前が確実に必死になって守る相手ではなくてはならない。自分が死んだら付き人も死んでしまうという危機感を持ってもらうためにな」

「オレは誰であろうと必死に守るぞ?」

「加えて、頭が良くて、お前の足手惑いにならない奴が必要だ。その点で五島は優秀だ」

「だからといって……」

「それとも。お前は五島が足手惑いになるとでも言うのか?」

「いや、それはないけどさ」

「じゃあいいだろう。五島を連れて行け。否定要素があったら聞くが?」


 有無を言わせない口調に、太陽は仕方なく承服する。


「分かったよ。じゃあ、四時になったら連れて行く」

「四時か。じゃあ二時間以内に戻って来い」

「了解」

「あと、一つだけ」


 一姫は拳を、太陽の胸に当てる。


「絶対に死ぬなよ」

「おう」


 太陽は小さな声でそう笑みを見せ、

 一姫は相変わらず笑わなかった。

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