天体観測

 同窓会の会場、変わった奴も変わらない奴もいた。

 皆がわいわいやっている中で彼女は僕のところへ来て声をかけてくれた。


 「久しぶり」

 彼女はより一層美しくなっていた。

 無邪気さはそのままに、より上品になっていた。

 

 「久しぶり。忘れられてるかと思った」

 案外自然に言葉が出たことに驚いた。


 「忘れるわけないじゃん。仮にも幼馴染でしょ」

 「そうだけどさ。喋ったの何年ぶりだよ」

 「知らない。時間なんて数えるだけ無駄よ無駄」

  話の切り替えの糸口に僕はお茶を飲んだ。


 「そっち最近どうよ」

 「んーまあまあ。彼氏もできたし面白いかなあ」

 「そっちはどうなの」

 「こっちも彼女はできたよ」

 「あんたにもできるんだねえ、彼女。星の良さもわからなかったあんたにも」

 「失礼だな。これでも星は好きになったんだから」

 そのセリフを言ってしまったときに、一つ大きな脈打ちが全身を駆け巡った。


 「そっかあ、あんたもようやくねえ」

 「どうせなら星でも見に行くか、天体望遠鏡ならあるぞ」

 「いいね。この空気の中だと息がつまりそうだし」

 

 それから二人してこっそりと同窓会を抜け出した。

 地元で開かれた同窓会だったから、通学路にあった公園で天体観測をした。


 「懐かしいなあ」

 「ああ」

 「まさか星の良さがわからなかった奴がこんなものまで買うほどはまるとはねえ」

 

 「お前ほどじゃないよ。そっちはまだ星見てるのか」

 「最近はちょっとしか見てない。忙しくて」

 「そっか」


 「ねえ、昔のこと思い出すね」

 「ああ」

 「中学校までは仲良かったのに」

 「ああ。大人になったんだよ、二人とも」

 「そういうもんかなあ。私ずっと喋ってたあんたと喋らなくなって、さみしかったんだよ。私から喋りかけるのも何かなあって思って、結局こんな風になるまで喋らなかったんだけど」

 「そっか。なんていうか、僕も照れ臭かったんだよね」

 「そっか」


 天体観測はほかの皆が僕たちを探しに来るまで続けられた。

 どうやら彼女の中の僕はまだ生きているようだった。

 ガラクタは、また意味を持ち直した。今度は別の輝きをもって。

 

 天体観測の途中の彼女は、昔を懐かしみながらも、楽しそうだった。

 お互いの本音を衛星にぶつけて聞くことができた。

 当時のもやもやが僕だけではなかったことに安心して、大人になった彼女との、幼かった頃のような二人だけの時間を過ごせたことが何よりも嬉しかった。


 

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