第17話

七月十日(月)


俺の人生は十四年しか生きてはいないがとてもバラ色な人生とは言えない。

両親は買い物に行ってくると言い残し、それからかれこれ三年帰ってこない。

親戚も他界していて、中学生の俺を引き取ってくれる人もいないので両親が僕に残したボロアパートで一人暮らしをしている。


売れない芸能活動をして、三年間生きてきたがもう限界だ。

いろんな方にご馳走してもらいながら生きてきたがもうそんな人生とは別れたい。

そんなことを思っていると事務所の方から戦力外通告を受けた。

これからどうしたらいいのかと考えながら学校を通う日々。

いっそ楽になりたいと思ったことも何度もある。


そんな時にいつも幼なじみである山崎智花やまざきともかが俺を支えてくれる。

智花は私服だと季節関係なくフート付きのパーカーを被り、元気で明るく、一緒にいて楽しい存在なのだが、おおざっぱで下ネタも軽々と言える色気ゼロで口か悪いのが少し残念な子だ。

「おはようハル。今日も顔色悪いね」

智花はいつも登校の時に俺を見つけると同じことを繰り返す。

「そんなことはない。いつもの夕飯ならカップ麺一/四のところを昨日は二/四食べたしいつもよりかは元気だ」

私には考えられないという引きつった顔をする智花を置いていって俺は早々と教室へと向かった。


ぐ〜と腹の音が聞こえる授業が終わり昼休み。

親の残してくれたお金と自分で稼いだお金を足しても賃金や学費なので中学卒業までにほぼなくなってしまうことを考えると一ヶ月で食費に当てられる金額は九百円程度だ。

だから一日三十円くらいしか使えない。


朝昼晩と十円の駄菓子を食べることしか出来ないのでいつも昼は学校の水だけで我慢している。

前に心配してくれた智花がお弁当を作ってきてくれたが贅沢は敵と戦時中の日本のような意志を固く持ち受け取らなかった。

今と思えばいただけるものは何でもいただきたいのだが....


「ハル! 今日も屋上で空を見上げてるの?」

屋上で空を見上げるのが日課になっている俺の元に智花が表れた。

「見てみろあの雲。ハンバーガーのような形に見えない?」

全然ハンバーガーには見えない雲をさす。

「どれどれ? 全くわからないけど・・・・・・あ、そうだハル! ハンバーガーなら本物がここにあるよ」

目に毒だよ。


俺は久しぶりに智花の持っているあつあつで香ばしい香りのするWAGのポーク&ポーク+チーズinハンバーガーに釘づけになっている。

ポーク&ポーク+チーズinハンバーガーはその名の通りポーク二枚にとろとろに溶けたチーズに少しの野菜が入ったいかにも太りそうなハンバーガーだか、俺にとってはカロリーを多く摂取出来るので十日間昼を我慢してたまに食べている。(今回はカップ麺の誘惑に負けて清日のカップヌードルシーフードヌードル税抜き百三十八円を買った。)

ごくりとつばを飲み込む音がはっきりと智花まで聞こえていた。


「あれ? ハル欲しいの?欲しいなら交換条件をしてくれるなら上げるけど」

智花の交換条件はいつも無理難題を言うので諦めようかと思ったが食べたいという脳からの司令を無視できずこくりと頷いてしまった。

欲望に完敗してしまったため後悔はしなかった。

「交換条件は・・・・同棲しよう」

え? 同棲って一緒に住むって意味の同棲だよね? 同性じゃないよね?

だとしても、一日の食費は三十円。

二人で分けると一日の十五円しかなくなるし、今まで不自由なく暮らしていた智花にこの生活が耐えられるはずないと思い断ろうとした。


「あ、お金のことなら心配しないで。家賃とか家にかかるお金は半額払うし、三食のご飯は自分で作るから大丈夫」

「払うって言っても中学生だとバイト出来ないからお金入ってこないじゃん」

智花は何言ってるのと目を細めいった。

「そんなこと私がわかってないとでも思ってるの? お金はお父さんが月三万円もらえるし、欲しいものがあるなら交渉次第で買ってもらえると思うしお金の心配は無用だよ!あ、でもハルは今まで通り三十円で頑張ってね♡この交換条件で良いって言ってくれるなら今晩から同棲してこのポーク&ポーク+チーズinハンバーガーも上げるけど」

今までと変わるのは家賃など半額になるから少しは贅沢出来るし悪い話ではないし、ポーク&ポーク+チーズinハンバーガーが食べたかったので承諾した。

すると、俺のほほにありがとうとキスをしてポーク&ポーク+チーズinハンバーガーを置いて教室へ帰っていった。

そこ時の俺は顔が赤く少しの間固まっていた。


《リアルと妄想》

 

 「娘を同居させるなら、主人公をひきっとってあげなかったんですか? ってか、一人で生きていくなんてまだ無理なんだから施設とか行けばいいのに・・・・」

 いや、まあ、そうなんですけど・・・・。


《リアルと妄想》

 

《異世界からの救いの手》

 

ポーク&ポーク+チーズinハンバーガーを今のお腹の状態なら秒で食べ終わることが出来るが、腹持ちを良くするためにも一口に三十回以上噛んでから飲み込むことで満腹中枢や交感神経を刺激し、満腹感を味わった。


しかし、俺は重大なミスを犯してしまった。

欲望に完敗したせいで大事なことを忘れていた。

家に帰っても誰もいなく薄暗い部屋にただいまと言いながら今までは入っていた。


「お帰りなさい。ハルくん」


「ただいま。チーちゃん」


しかし、今は違うんだった。

幼なじみの山崎智花やまざきともかにとても似ているというか瓜二つのように似ている異世界人が迎えてくれる。

異世界人と言ってもパラレルワールドの世界の住民らしい。


名前は山崎智花。

漢字だけみると同じ名前なのかと思うが、読み方は「やまさき ちか」というらしい。

智花ちかはいきなり俺の家にやってきてあなたを守りにやってきましたと言い留めた日から居そうすることになっていた。

俺は額に手を当て思わず「あ、ちゃ〜」と言ってしまった。

チーちゃんはどうしたの? と正座をしたまま首を横に傾け固まっている。

とてもかわいい。今すぐスマートフォンいや、一眼レフを取り出して写真を撮りたい。

しかし、今はそんなことをしている余裕はない。


この状況を何としてもどうにかしなくてはいけないが学校に行っている間に部屋の片付けや料理洗濯といろいろやってもらったのに出ていけとは言えない。

玄関を開けっ放しで寒いし、トイレにも行きたい。てか、もう限界。

靴を乱雑に脱ぎ捨てトイレへと駆け込んだ。

チーちゃんは立ち上がり乱雑に脱ぎ捨てられた靴を揃え台所へ向かった。

その姿をトイレのドアの隙間から見ていた春翔は便座に座り頭を抱えた。

トイレから出るとピンポーンとチャイムの音が聞こえた。

ドアが開く音まで聞こえた。


俺は開いたドアを慌てて閉めようもしたが間に合わず智花ともか智花ちかと目が合ってしまった。

「ハル。誰この子? とっても見覚えのある人を知っているんだけど・・・・」

智花ともかは白目を向いて固まった。

だってそのはず。

自分自身にとても良く似ている人間が幼なじみの家にいて一緒に暮らしているとなれば固まってもおかしくはない。

容姿はほぼ一緒と言っていいくらいだ。

しいて違うところを上げるとすれば髪の結ぶ位置と眼鏡をかけているかかけていないかくらいだ。

智花ともかは赤髪ショートカットでいつも左耳の近くで短い髪をかき集めて桜の髪留めで結んでいてメガネをかけていないがチーちゃんはうすい赤髪 (うすいピンク色よりかは濃い)ショートヘアでいつも右耳の近くで短い髪をかき集めて半分の桜の髪留めで結んでいて眼鏡をかけているくらいしか違うところが見当たらない。

身長も同じくらいで声も似ている。


「山崎智花です。よろしくお願いします」


「山崎智花です。こちらこそよろしくお願いします」


智花ともかはまだチーちゃんをじっと見つめながら固まったままだ。

チーちゃんは智花ともかがなぜ固まっているの? とまた首を横に傾け固まった。

ごほんと一回咳払いをし、今までの出来事を智花に話した。


「え? って、ことはハルの家に何日も住んでるってことだよね? 食費とかいろいろどうしてるの? ってか、ずるいんですけど」

最後の方はぶつぶつ言って聞こえなかったがぶつぶつ言うんだから聞かない方がいいと思い流した。

「実は・・・・見てこれ!」

俺が引き出しから出したのは大きく盛り上がった茶色い封筒だった。

その中には高校一年生になるまで贅沢をしすぎなければ三食普通に食べられるくらいの札束が入っていた。


《リアルと妄想》

 

 「そんなにお金があるなら何とかハンバーガーもらわなくてもよかったじゃないですか? よくわからないんですけど先生の頭は大丈夫ですか?」

 「それは、週の初めから贅沢した――――」

 「先生。これは月曜日の出来事です」

 言い返す言葉がございません。

 すみません。直します。


《リアルと妄想》


智花ともかはその札束を見るやいなや封筒から札束を取り出し俺の顔を叩いた。

「一度やってみたかったんだよねぇ〜」

赤くなったほほを抑えながらこのお金について説明する。

「チーちゃんは異世界、まぁパラレルワールドからきた智花(《ともか》なんだって。で、その世界の俺は・・・・? なんだっけ? まぁあっちの俺は俺と同じ人生をおくってるらしいの。で、あっちの俺がなんか変なことに巻き込まれちゃって大変なことになってるんだよね?」

「そうです。そんな時にパラレルワールドについて知ったのです。この世界ではパラレルワールドはこの世界と真逆の世界かと思われているそうですが、私の世界では同じことが起こり、同じ顔の人が同じことをすると言い伝えがあります。なので、ハルくんが危ないと思い駆けつけました」

智花ともかは半分口を開き明後日の方を向いている。言っている意味がわかってないんだろうなこれは。


「まぁ〜違う世界の私がハルを守りに来たってことでしょ?」

「信じてくれるの?」

「当たり前でしょ! 私は嘘をつかないんだから」

俺なら信じられないけど、いや実際まだチーちゃんが異世界だとかというのは何かの設定だと思っているくらいだし。

「ちなみに向こうの俺はどんな名前なんだ?」

『ともか』と『ちか』のパターンだと漢字は同じ『山崎智花』だから、予想は『なかじましゅんと』かな。

中島春翔なかじましゅんとです」

予想通りで小さくガッツポーズをしたが、苗字が『ちゅうとう』って読み方も期待してたんだけど。

「まぁそういうことでこれからは、三人で暮らすことになるけどいいよね?」

二人は首を立てに振ったが、智花ともかは何か言いたそうにこちらを睨んでいる。

「何でハルは智花ちかのことはあだ名で呼んで私のことは未だ智花ともかなの? 親しい中なんだしあだ名で呼んでよ」

「え、あーじゃあ・・・・ト、トモでいいよね?」

少し適当に言いすぎたかなと智花ともかの顔色を伺うと案外にやけているし大丈夫だよね?

ずっと智花ともかって言ってきたのにいきなりトモって呼ぶのって恥ずかしくて勇気がいることに気づき、寝るまで智・・・・トモのことを呼べなかった。

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