第8話 第三の勢力

 能登国を統べる畠山家には昔からやっかいな勢力がいた、それも能登国内にいた。初代能登畠山守護満慶の代から長年つきまとっていた問題である。能登守護が決まった当初から畠山家は能登国内の頂点に君臨したわけだが、能登には諸豪族も多く当初はなかなか畠山家に従おうとしなかった、だが彼等も時代の流れに逆らえず長い年月をかけ少しづつ畠山家の家臣になっていく。だが頑として家臣になるのを拒んでいる一族がいた、「長」と呼ばれる一族である。彼等は足利将軍家の奉公衆の家柄らしく、長年能登において畠山と対立するわけでもなく下につくわけでもなく奇妙な独立状態を保ってきた、6代目の義総の代になり将軍家の威信が落ちた事もあって長家は畠山家の家臣となる。だが長家が治める領地は家臣になる前と変わらず独立した地域のようでさしもの守護畠山家も手をつけられなかったみたいである。長家は能登国内において莫大な領地を持つ家柄であったが決して畠山家の政治の中枢に関わる事はなく、それと引き換えのようにある一定の自治権みたいなものを有していた。江戸時代における外様大名みたいなものであろうか、とにかく7代目の義続の代になってもその様子は変わる事はなく能登国内において一種の独立勢力と化していたのだった。


そして現在の長の当主は「長続連ちょうつぐつら」という者で何を考えてるか分からない男として有名だった。



話を遊佐続光に戻す。


 代替わりの祝賀のあと続光は畠山義続から正式に守護代に任命され、能登の新たな守護代として能登国全般の業務に勤しんでいた、だが能登の最北端の珠洲からでは能登全般を見渡す事は困難なため能登の中心地である七尾の府中館に引っ越し、業務をとりおこなっていた。そうすると畠山家がいかに長家に気をつかっているかが分かってきた。



(長とはさほどに力のある家なのか、これは義続様に聞いてみるか)



日常業務を終えると続光は七尾城へ参内し畠山義続に拝謁した


「これは守護代殿ではないか、どうした重要な案件か?」


「守護様に聞きたき宜がございまして」


「なんじゃ申せ」


「はっ、どうも長殿の年貢が領地に比べてあまりに少ないゆえ、これはいかが計らえば良いかと」


「ああ、長か・・・」


「??」


「かまわん、いつもどおりで良い、長は放っておけ」


「なにゆえか聞いてもよろしゅうございますか?」


「亡き父上がそうせよと言うたからじゃ、何でもあの長続連というのは油断のならぬ男じゃそうで、下手に刺激すれば能登全土を巻き込む動乱をおこしかねん奴じゃとか、ゆえに放っておけという事じゃ、放っておく分には無害な男じゃからな」


「左様でございますか、では年貢は例年通りで」


「うむ、頼んだぞ」



続光は七尾城から府中館に帰ると、縁故のものを通じて長続連を調べさせた、


「やはり思っていた通りじゃ、奴は温井派ではない、それに色んなところで畠山中枢の政務に関われない事を嘆いておるな、こやつを使えば上手く総貞を締め出す事ができるやもしれん」


だが、ふと思いとどまる…あの総貞ほどの男が同じ発想に至らぬわけがない、つまり長続連は総貞でさえ御しえないと判断した事になるのではないだろうか?


続光は続連に対する考えがまとまらまず、続連の情報集めの日々が続く。


長続連は元は平勝光という名だったらしい、奥能登の南西部を占める平家は長英連に養子として幼い勝光をおくりこみ見事に長家の家督を継がせるに至った、だがその家督を継いだ勝光は長家を継ぐ事でかえって畠山中枢から遠ざかってしまったのである。



(そうであったか、義続様のいうた【能登全土で動乱】という意味がわかった、こやつはその気になれば【長】と【平】の両家の軍隊を動かせるかもしれんのだな)



続光はこんな存在を見逃していた己を恥じた、そして確実な予感がした、総貞を政争で葬ることが出来ずに乱(武力衝突)にまで発展しようものなら確実にこの男が鍵を握ると。



「危険ではあるが、この男を引き入れる事でしか総貞には勝てまい」



この後、遊佐続光は長続連を引き入れる為の工作を開始する。

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