第39話 2087年11月18日 麦秋中華帝国 大連衛星国際空港

麦秋中華帝国 大連衛星国際空港 免税店の怪し気なお店が延々連なっては活況の限り


嬉々とショッピングに勤しむ日本人女性の前に、立ちはだかる高身長の働き盛りの女性、天上

「霧島さん、国連先端技術監査部が私用の振りの旅行なんて仰々しいわね、良いお仕事出来たかしら」

霧島、自然体で

「これは天上さんじゃありませんか、上家衆アジア班の方が私に何か御用かしら それより見て見て、この二匹の虎の文鎮格好良く有りません、このブロンズの濃淡も素敵よね、ふふ書道の腕も上がりそうね」

天上の背後の武士、最上

「天上さんに全然びびらないですよ」苦笑

天上、鼻息も荒く

「そう、本当呆れるわね、霧島さん、忠告しに来たのにちょっとは驚いては貰えないかしら」

霧島、頬笑んでは

「えっつ、何でですか」


透かさず空港アナウンスが響く

「JALーhostから、大連発ラゴス到着便へのお客様にご案内致します 定刻17時15分発、014便において、ボーイングプラネットの燃料タンクへの霜が完全除去出来ませんので本日は欠航させて頂きます 尚、ボーイングプラネットは欠航ではございますが、トランジット便は幾つかの経路にてナイジェリアまで飛行可能ですので、お近くのJALーhostのグランドスタッフまでお尋ね下さい announcement…」


天上、淡々と

「そうこれよ、世界中のボーイングプラネットのナイジェリア行きは、各国の軍隊が割込んで鎮圧に向ったわ、まあそれでもナイジェリア海軍2万人の査察が終ると思えないけど」

最上、嘆息しては

「天上さん、先にナイジェリアに行きませんの」

天上、憮然と

「ナイジェリアには、万上さんと楠上がもう入ったわ、推して知るべしよ」

霧島、くすりと

「大仰な割には、ニュースにもならないのね 国連特殊降下部隊を一手に担っているナイジェリア海軍に大規模査察、国連もいよいよかしら」

天上、余裕矍鑠と

「大丈夫、報道では国連始め各国大規模合同演習で終りよ、こんな大規模クーデター紛いの軍事掌握許せる筈もないでしょう、霧島さん聴取させて頂ける、楽にしてて結構だから」

霧島、ふわりと

「こちらは、麦秋との調印で三日もナイジェリア行きが遅れているのにね まあ、キナ臭いならナイジェリア行きも中止しないといけないかしら」

天上、毅然と

「すでにナイジェリアでの公共と民間のナノマシーンプラントは抑えたわ、あとは複雑な積層構造のバイオ配線を一気に演算処理できる装置を回収するだけ」

霧島、破顔

「さては、これがお目当てなんでしょう、ナイジェリアのお仕事って凄そうなのね」アタッシュケースに触れる

天上、溜息混じりに

「そうね、霧島は詳しくないのね、あなたもう一歩で殺戮者だったのよ」

霧島、微笑

「怖いお話ね」

天上、尚も

「“ドミネーター”ってご存知かしら」

霧島、くすりと

「さあ、何の事かしら、ナノマシーン関連で物騒なお名前ね」

最上、つられては

「天上さん、こんな美人の笑顔では、嘘では無いですね」

霧島、破顔

「まあ嬉しいわ、最上さん、」

天上、苦笑しては

「最上は、結論が早いわ まだあるわ、麦秋中華帝国の龍舜女帝の正当後継者の座とブレインアーキテクツ交換とは、国連一派もあざといのね、そんな物騒なもの本当にどうするの」

霧島、毅然と

「旧中国は、第三帝国からブレインアーキテクツを購入したものの、活用もままならず世に出た新技術は5件余り、寂しいお話よね 旧中国から漸く引き継いだ麦秋中華帝国は、構図を全て拾い上げたそうですが、未だお手上げのようです もうブレインアーキテクツを所持するだけで無駄ね、ここは引き際でしょう、国連が引き取って然るべしよ」

天上、困惑するも

「気になるわね、麦秋にコピーを残すなんて」

霧島、軽やかに

「ブレインアーキテクツの総容量は100ZB、これをコピーするなんて、街丸ごとの施設が必要なのよ 使いこなせないのにコピー完了するなんてね ただのインフラ整備の経済投資とは言ってたけど、そんなところよ、全然気にする事はなくてよ」

天上、捲し立てる

「いいえ、拾い上げられるのだから、コピーでも使いこなせない訳ないでしょう、霧島の率直な意見聞きたいわ」

霧島、不意に真顔で

「そうねブレインアーキテクツは正に人類の叡智、そのコピーと言えど例え100年に一度の天才を待つ為に、育成の為の莫大な教育費をかけられるとでも、土台無理なお話よ それとも優秀な人材を集める為に科挙復活を提案を囁いて、麦秋を金属疲弊させるのが本懐かしら」

天上、大仰に

「折角穏便な麦秋中華帝国、5年も持たない内に消滅させる訳にいかないでしょう、そうなればまた群由割拠の時代に後戻り、ああ、さすがに目が行き届かないわ」

霧島、ふと

「天上さん、慧眼よ、流石にお歴々から声も掛かる分けね」

天上、にやり

「評判はそんなところ、最上、」

最上、前に進み出ては

「霧島さん、ブレインアーキテクツは俺たちが預かりますよ、お渡し願いますか」

霧島、手持ちアタッシュケースを見ては

「ふう、それは頂けないわね 第三次世界大戦前にインドの遺掘から旧アメリカの調査団が見つけてパキスタンで運用したら、あの強奪に、そして第六次インドパキスタン戦争よ ここで国連以外のどこが持っても戦争の火種になるわ、例えローマ参画政府と言えどね」

天上、尚も

「でも引き下がれないのよ、渡しなさい霧島」

霧島、嘆息

「そうね、今更ナイジェリアも無しよね、無事にジュネーブに見送って頂いたら、どんな条件に乗るわよ」

天上、不意にジャケットのポケットよりSDメモリを差し出す

「それなら、ねえ、良かったら車好きの階上いるんだけど、この車の先書いてみない、」 

霧島、微笑

「それが交換条件なのかしら」 

天上、溜息混じりに

「ええ、かなり高いわよ 代車すぐに出してもポンコツになって返ってくるから、日産グローバルセンターの設計部も必死なのよ、PKOなら実戦データ揃ってるでしょう、それ頂けないかしら ああそれで、メインフレームはすぐに修正出来るから、幾らでも書き足しても構わないわよ」 

霧島、不意に

「それはご愁傷様ね、お易い御用だけど、それで逮捕は免れるのかしら」

天上、凛と

「そうやや白よ、今度は国連の武闘派みたいな連中に踊らされない様にね、これで聴取は完了、ちゃんとジュネーブには見送って上げるわ」

最上、歩む様に

「そうと決まれば」不意に抜刀、虎徹の白銀が瞬くも、すでに鞘の中


床に“カタン” 霧島のアタッシュケースが真っ二つに斬れ、飛び出るDellノートパソコンRoadTheaterと何かの人口チップ一式、床に落ちると同時に割れ崩れ落ちる

抜刀の気配も知れず平穏な空港ロビー


霧島、淡々と

「あら、これがもしオリジナルならどうするの」

天上、毅然と

「もう芝居はいいわよ、先代からの因縁のブレインアーキテクツ、本物で有ろうと無かろうと、世の混乱をここで断たねばならないわ」

霧島、微笑

「はなっからそうなのね」

天上、見据えては

「ええ、かなりくどいかしら ジュネーブへのボーイングプラネットは20時よ、カウンターには霧島さんの名前で受け付けてきたから、それまでごゆっくりなさい」

霧島、くすり

「手回しがいいのね まあいいでしょう、いっそこの方が気楽だわ」

天上、不敵にも

「まあ気圧の関係の事故ね、パキンよ、国連総本部への報告はそれでお願いね あとこの件、私達の名前は一切出さない様にね」

霧島、深い溜め息

「いいのかしら、表向きのプロジェクト、ナイジェリア発の緑地開発が出来なくなったのよ」

天上、目を細め

「ここで国連が膨大な権力を持たれては困るのよ ブレインアーキテクツが無くても、時間をかければ緑地開発は出来るわ」

霧島、とくとくと

「いいえ、国連は確固たる組織であるべきなのよ ブレインアーキテクツを譲った麦秋にも大いにバランスを保って頂かないと、世界の均衡が取れないわよ」

天上、微笑

「国連もそんなにサンクトペテルブルク公国の御用伺いするのが歯がゆいの、公国会議を信じなさい」

霧島、微笑

「公国会議、所詮はお子様の集まりでしょう」

天上、尚も微笑

「源が仕切ってても、それを言えるかしら」

霧島、歯がゆくも

「そうね、源さんなら、まあ折れるしかないわね」

天上、頬笑み

「そうしなさい、ジュネーブ便まで何かと奢るわよ でも天津は止めときなさい、戻しちゃうわよ」

霧島、最上に頬笑み

「そうね食事よね、それと国連に武士いないから気になるわね」

最上、不意に

「俺ですか、まあ美人さんなら大歓迎ですよ」

霧島、見据えたまま

「そう、先程の抜刀素敵ね、私が死ぬ時は最上さんに止めを刺して頂きたいわ あれなら痛い暇も無いでしょう」

最上、毅然と

「例えでも、そうはさせませんよ 俺の刀は守る為のものです」

霧島、まじまじと

「最上さん、ローマの任期が開けたら、必ずお呼びしますね」

最上、事も無げに

「賞味期限、ギリギリかな、」

霧島、最上の左手を優しく叩く

「まあ、失礼 天上さん、早く最上さんを譲って下さらないかしら」

天上、容赦なく最上の頭を叩く

「もう、拗れさせてどうするの ふう、最上もどうよね、無理に身を固めても、奥さん泣かしそうだし 霧島さん、やっぱり止めておきなさい、こいつなんか」

霧島、最上の手を握り

「そうかしら、お互い重責背負う独身、お話に花が咲きそうね」

天上、破顔

「はいはい、大ぴらな引き抜きから何でも、私がお話相手になるわよ」二人の背を優しく押す

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