第12話 2087年9月14日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市内 レストラン

サンティアゴ市内 目抜き通りを抜けたチリ料理レストラン ランチ中の堂上と米上


堂上、舌鼓打っては口を拭う

「ああ、アリゾナの後だと全部が旨い それでさ、サンティアゴに来たけど、渕上さん見てないね」

米上、チェリーのノンアルコールに手を掛ける

「保科さんに聞いたけど、確かに同じフロアにいる様よ 渕上さんの他に島上さん、あと松本花彩さんの3人だって 相当忙しいみたいね、こちらもこちらで捜査あるし、何かあったら部屋に訪れるでしょう」

堂上、思い描いては

「ユーロ班なら、渕上さんと島上さんだろうけど、あとアンダー40の誰かさんね、渡米して大丈夫なのかな」

米上、諭す様に

「ユーロはたくさんアンダー40抱えているから大丈夫よ、元ユーロ班なのに台所事情分からない訳無いでしょう」

堂上、憮然と

「さあね、面倒な事は全部天上さんやってくれたから、よく分からないよ」

米上、深い溜め息

「まあ、そんなところでしょうけど 松本花彩さんで何かドンと来ないの」

堂上、不思議顔で

「さあ、」

米上、溜息ついては

「日本の元老安良神部会を実質崩壊させたお嬢さんよ、『あなたの向こうで』のダイジェスト版さえも見てないの」

堂上、宙を仰ぎ

「見た様な見てない様な…ああ、ひょっとして高速スキャナーの娘、いや凄かったね、俺感動したよ」

米上、くしゃりと

「感動したなら覚えてなさいよ 万事これよ」

堂上、ほくそ笑んでは

「へーそれが今アンダー40なんだ、頼もしいね」

米上、嘆息

「頼もしいも何も、噂では花彩さんが絡むと革命一歩手前らしいわよ そういう娘のペースに乗ると、私達の足元が揺らぐわ」

堂上、憮然と

「俺は俺だよ」

米上、不意にテーブルの上の堂上の手を握る

「頼もしいのね、そういうところ好きよ」

堂上、照れながらも

「まあ、これも毎度の事か」

米上、尚も強く手に触れる

「あら、確認は大切よ」

堂上、照れては手を引っ込め

「配送工場に飛び込んだものの、がっつり手作業確認作業かよ、事務的なのは苦手だよ」

米上、不機嫌顔戻しては

「全員逮捕して引き渡したけど、作業員さんの人的資源勿体ないわね、でも」

堂上、逡巡しては

「そう、でもな、どこに義体工場あるんだ」

米上、手帳開いて

「さあ、倉庫長に聞いたけど、ただ部品が配送されるだけ あるのは納品書だけよ」

堂上、仰け反り

「出入りの配送業者調べか、押収した警備ビデオ全部見ろって、車体番号付け合わせ出来るかな」

米上、嘆息

「またかっ飛ばしたオートマシーンが運転手なのかしら、ああ怖い」身震い


賑やかなレストランのドアが思いっきり蹴破られる

入ってくるテンガロンハットにガンマンの出で立ちの精悍な男

「堂上、いるか!」抜き打ちの威嚇、リボルバーS&W:M629を3発射

ただ悲鳴を上げる婦人達と、急いで机の下に潜る者達が溢れ、レストランは大パニック

透かさず自らの円卓を転がす堂上、弾丸で円卓上部が吹き飛ぶ

米上、円卓に隠れながら

「いるかで、発砲って何よ」

堂上、飄々と

「律儀に実弾か、この手の賞金稼ぎって、派手好きだよな」

米上、嘆息

「あのガンマン、多分用心棒仕事の井岡よ、日本人で銃選ぶなんてね」

井岡、尚もトリガーに指を置く

「堂上出て来い、出て来ないと辺り構わず手当たり次第に撃ち抜くぞ」

この隙ばかりと、瞬く間に玄関に殺到する客と床に必死にひれ伏す客

堂上、声を張っては

「お前誰だ、名乗り上げろよ、賞金稼ぎはFBIのリスト以外禁じられてるぞ」

井岡、S&W:M629を3発射

「知るか、お前の敵の井岡だ、金輪際義体工場に関わるな」リボルバーの弾をスピードローダーで素早く換装

「好都合だ、どこに義体工場があるんだよ、教えろよ」

井岡、尚も3発射

「それは言えん」

米上、円卓から飛び出ては、透かさず手元に転がるフォーク投げると一直線

「言いなさいよ、」

井岡の防弾ベストに確と突き刺さるフォーク

「ズンと来たが、全方向のベストだ通用せんよ」

脇から杖で一閃の中年の客、井岡のリボルバーを叩き落としては、立て続けに井岡の背中を叩きのめす


井岡、打ち拉がれる

「痛えー」

漸く、銃声の止まったレストラン

米上、うんざりしては

「ほらー全く、援護の為に投げたのに、旦那、なんで飛び込まないの」

堂上、円卓から顔を出し

「俺等目当てだ、一般の人迄巻き込めるか」

米上、感嘆

「その、逞しい一般人が叩きのめしたわよ ねえ、おじさん、余程のエージェントかしら」

井岡を文字通り叩きのめした、丸眼鏡に黒スーツの中年の男性

「これはこれは、ローマのお歴々の方、堂上さん米上さん、席へのご挨拶が遅れ申し訳ございません、私シオン福音国連携事務庁の広瀬勘兵衛と申します」慇懃に名刺を堂上と米上に手渡す

堂上、くしゃりと

「いきなりシオン福音国って、身分明かしていいのかよ、その国さ」

広瀬、整然と

「現シオン福音国、幾多の国難を乗り越え覚えが宜しくて幸いです 故に偽りはいけません、末永きお付き合いの程をお願い申し上げます」

米上、興味津々に

「ねえねえ、広瀬さんだっけ ここでシオン福音国って、第三帝国でも追ってるの」

広瀬、大手に振っては

「米上婦人、大正解です その調整故に義体工場の件はこちらが引き受けますので、ごゆっくりチリ州をお楽しみ下さい」

堂上、律儀に

「お役目引けって、それ強引だな、報告書途中で放り投げれるかよ」

米上、追随しては

「そう、そうよ、プレジデントケアの行く末が掛かっているのよ、仕事放棄は出来ないわ、駄目駄目」

広瀬、口元が上がり

「一所懸命なお仕事振りにただ頭が下がります ですが第三帝国案件は残らず頂きます、幾らでも積んでもいいのですが、これは流石にご納得しないでしょう」

米上、憮然と

「積むって、そんなの調査の収支報告書に書けないでしょう、無理な事言わないで広瀬さん」

広瀬、尚も食い下がる

「報告書は私共が漏れ無くまとめローマに献上します シオン福音国の仇敵第三帝国案件ならご納得もしましょう」

堂上、飄々と

「手堅いね まいったな、状況証拠も沢山持ってそうだし、引き時かな」

広瀬、一際声を張り

「ご心配は無用です」

米上、溜息混じりに

「もう、あっさり降りてどうするの 旦那が第三帝国案件から手を引いたって評判落とす訳にいかないでしょう」

堂上、嬉々と

「無闇に俺を立てるのやめろ、それ足元をすくわれるぞ」

広瀬、尚も

「いや、お二人には、まだまだ、大いなるお役目が待っています この国に巣食う第三帝国を炙り出して頂きたい これはむしろローマ参画政府が懸念している事では有りませんか」

米上、慄然と

「ちょっと、そっちの方が厄介じゃない、何を勝手に仕事を格上げしてるのよ、こっちは二人よ」

堂上、毅然と

「まあ手が空くし、いいんじゃない」

米上、堂上の袖をひいては

「何言ってるの、相手は第三帝国、まるで人手が足りないわよ」

広瀬、笑みを浮かべ

「それはご心配無く、ここサンティアゴは敵も味方もオールスター勢揃いの勢いです、お二人はただ観光がてら楽しんで頂ければそれだけで結構です」

米上、嘆息

「それ撒き餌になれって事、言うに事欠くわね でも観光は大賛成」つい綻ぶ

堂上、広瀬を見据え

「広瀬さん、あんた一癖も二癖もあるな」

広瀬、破顔

「不肖この広瀬、身命を賭してサンティアゴに参りました、言葉が些か足りないのはシオン福音国の民の願いを背負う故、何卒御容赦願います そう何れの岐路も辿り着く混沌は目に見えています、しかしそこは一騎当千の方々、この変奏曲を楽しみましょう」

米上、進み出ては

「紛争は勘弁ね、滞在が無駄に長くなるのはやはり良くないわ」

広瀬、3歩前に出ては大仰に

「米上婦人、ご心配ございません、その為の私共です 万全を期しておりますので、後詰めはお任せ下さい」

堂上、憮然と

「やれやれ、観光がてらしばき倒せって、広瀬さん乱暴じゃない」

広瀬、慇懃に

「いえいえ、今は予備知識無く伏して動いて頂きたい、敢えて誘い込むのです お役目大変と存じますが、平常心はお忘れべからずです、恙無く行きましょう」徐に指をパチり

店内に傾れ込む黒スーツの男達、へたり込む井岡を連れ出して行く

米上、押し止めては

「ちょっと、井岡の調書位取らせてよ」

広瀬、高笑いで

「ははは、こんな三流の賞金稼ぎ等、私どもで尋問します お二人は仲睦まじく観光に徹して頂きたい」

堂上、躊躇っては

「まあ、暫くアリゾナで埃まみれだったし、それもいいかな」

米上、綻んでは

「私はね、旦那がいれば、それでいいかな ねえ教会巡りでもしましょう」

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