2087年 レガシー都市

第9話 2087年9月10日 全米連邦 チリ州 サンティアゴ市 プラザコースト

サンティアゴの一等地に構える、高級ホテルプラザコースト

スウィート階の廊下を意気揚揚と進む男二人 


保科ほしな総支配人、笑み絶やさず

「北浜さん、どうしても入られますか」

北浜きたはま、盛んにも

「ええ、全米入植準備局の権限じゃ無理ですか、全米レジスタンスの書記長とあれば、かなりの大物ですよ」

保科、慇懃に

「いえいえ、全米連邦には最大の便宜を頂いています ただ当ホテルに不審者がいたとあっては、信用問題でして これは内密にお願い致します」

北浜、胸を叩いては

「分かってます、プラザコーストの名前は決して出しません こちらの調書は協力者に対して寛容でなければ仕事がおぼつかなくなります」

保科、大手を振っては

「これはこれは有り難い事です それではカードキーを、それと内装は汚さない様にお願いします」

北浜、懐に手を当て

「分かってます、電磁銃はスタンガンモードにしてます」


廊下の遠くから見つめる保科

北浜、そしてカードキーを差しては入室、ワルサーP99エレクトロ片手に怒鳴り込む

「全米連邦入植準備局だ、手を挙げろ、」

しかし部屋には、巨大白猫のぬいぐるみが一つだけ

北浜、絶叫

「おおおー逃げられたか、」ワルサーP99エレクトロをホルダーに仕舞う

保科、北浜の声を聞いて駆け付ける

「やはり外れでしたか、手ぶらも何でしょうから、この白猫のぬいぐるみお持ち帰りますか、来られたお子様皆喜んでますよ」

北浜、巨大白猫のぬいぐるみを受け取っては

「いや、小判を抱えては絶妙な出来ですけど、ちょっと結構です」押し返しては

保科、巨大白猫のぬいぐるみを仕方無く受け取るも

「いやーこれに懲りず、ご所望ならまたお声かけ下さい そしてこの一件ガセですな、この白猫のおしりのステッカーお分かりですな」巨大白猫のぬいぐるみのおしりを向けては

北浜、目を剥く

「ペンタゴン、」


長身の男が怒鳴り込んで来る

「おい隣り、誰だ、うるさいぞ」

北浜、眉をひそめ

「うるさいは無いだろう、ガサ入れだ、誰だ嘘の情報流しやがって、ん、ん、日本語、日本人、って、お前阿南か」

阿南、顔に手を当て

「こちらこそだ、全く、お前か北浜」

阿南の背後より、美久里

「これはこれは、北浜さん 一橋美久里です、私、ご存知ですよね、はっつ、」息を飲んでは巨大白猫のぬいぐるみに飛びつく「おお猫さんだ、ふにゅー」ぬいぐるみでも猫可愛がり

保科、こことぞばかり満面の笑みで

「ご覧の通り、お気に入りの様です」

北浜、口籠りにも

「…ああ、まあ、一橋さん、これはどうも」

美久里、巨大白猫のぬいぐるみ抱えては、尚も頬笑んで

「北浜さん覚えていらっしゃるんですね、堅苦しいのは抜きですよ そうだ阿南さん、全米入植準備局の北浜さんならどんな犯罪者の消息が分かるかもしれません、そうですよね北浜さん」

北浜、笑顔も

「いきなりですか、いやその、無茶ぶりは勘弁して下さいね」

阿南、得心しては

「いや丁度いい、お前なら分かるだろう北浜、手伝えよ、よし決まった」

北浜、不意に冷や汗

「えっつ、まさか、これ」

美久里、とぼけ顔で

「えっつ、何ですか偶然ですよ偶然」

保科、凛と

「さて、北浜様の御用件も終りましたね 誰が予約を入れお泊まりかはですな、これから先、宿帳に関しては守秘義務を通らせて頂きます」

北浜、項垂れては

「もはや、今更です、結構です」

保科、大手に振っては

「さて決まりましたな、旅は道連れ世は情けです、ありきたりな言葉ですが、ここ迄来たら皆さん大歓迎ですよ」

北浜、項垂れては

「まあ、一から審査か、いや、それさえもか、かー、はめられたよ、ボストンに帰ろうかな」

阿南、北浜の両腕を掴み

「審査が何だ、こっちの方が最優先だ、こっちに合流しろ、身元引受帳には幾らでも署名してやる」

美久里、嬉々と

「北浜さん、私も頑張りますよ、難民者の準備金のローン業務拡大しちゃいますね」

北浜、戸惑っては

「阿南は当たり前だ 美久里さんは、いやいや勝手に決済まずいですよ、一橋財閥総帥の伯母様に怒られますって」

美久里、不思議顔で

「伯母様?えーと、あーはいはい、大丈夫です、伯母さまも雇用拡大には乗り気ですから、就職斡旋には乗り気ですよ 決してただで貸し出す訳では有りませんから、皆さんには頑張って頂きますよ」北浜に何度もウインク

阿南、感慨深く

「一橋財閥総帥か、就任3年で全米連邦が奇跡のV字回復、いや実に心強い、いつかお会いして薫陶を受けたいものです」背筋を伸ばす

美久里、頬笑み

「阿南さん、この件が終ったら、それもきっと叶いますよ 皆さん頑張りましょう」ファイティングポーズ

北浜、不意に

「阿南、よく分からんが、今どんな案件なんだ」

阿南、ほくそ笑む

「よくある話だ、第三帝国の将校を探し出す」

北浜、苦笑しては

「おいおい、全米連邦入植準備局にもそんな課あったが、とっくに解散したぞ、止めておけ…」美久里の眼光が突き刺さる「…いや、困った時の俺の特殊審査部だ、いや、大丈夫だ、大丈夫です」思わず直立不動

阿南、透かさず北浜と折れるかの様なハグ

「さすが北浜、いや、実に心強い」

美久里、頬笑んでは

「北浜さん、この部屋空いていらっしゃる様なので、こちらのホテルに来られませんか、但しこの巨大白猫ぬいぐるみは私が頂きますからね」

北浜、タジタジと

「本当に手回しが良いですね」

美久里、目元も優しく凛と

「これも偶然ですよ 保科さん、ちょっと曰く付き案件ですのでレシートはビジネスマン料金でお願いしますね」

保科、嬉々と

「これは手厳しい、ですが良いでしょう、美久里様 チリに出張される際は当ホテルを何卒よろしくお願いします」深いお辞儀

美久里、快く

「勿論ですよ」

阿南、苦笑

「保科さんも、女性に甘いのですね」

美久里、笑みを湛えたまま

「何をおっしゃいます、立派なビジネスの成立ですよ」

北浜、ただ苦笑

「ああ、相当なビジネス案件だよ」

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