宵町森事件 ④

気が付くと、目の前に何故か弓木海斗ゆみきかいとが、居た。


私達は何故か、深い草原の様な所を歩いており、ドコか指定された目的地に向かって歩いている様に感じられた。


唐突に弓木が、


「何でお前がココにいるんだよ?」


と、聞いて来たので、


「そんなの私が知りたい位だよ?」


と、言ってやった。


本当、何でこんな所に私は居るのだろう?


いつの間にやって来たのだろう?


それが疑問だった。


ただ、もっと不思議だったのが、この草原を歩いている足の裏がどうしてもフワフワするのだ。


だから多分今ココでこうやって草原の中を歩いている状態は、夢の中に違いないと思った。


夢の中なら~足が地面に付いていなくてフワフワしたって、何らおかしい事は何も無いからだ。


そうだ!私は今夢の中でこの、弓木と会っているだけだ。

と、自分に言い聞かせていた。


「着いたぞ。」


弓木が突然、進行方向左手を指さすので振り向くと、宵町森にある神社と同じ様な雰囲気の神社があった。


前に話しただろうか?

宵町森の神社は、烏天狗からすてんぐまつっている神社なのだ。


私は、何の疑問も持たずに、前を進む弓木の後ろにそのまま付いて行き、目的地だと思われる神社の敷地内に入った。


本当に、何の疑問も持たずに入ったので、これはいよいよ夢だと確信したのは言うまでもなかった。




神社の本殿の前には、巫女装束のお姉さんが4人立っていた。


巫女のお姉さんはまず、弓木に一礼すると、弓木に何やら刀の様なモノを渡す。


弓木は、何食わぬ顔で刀を手に取ると、鞘から抜いて空に一太刀を入れた。


その風圧が、少し離れた所に立っていた私にも感じられたので、ちょっと怖くなったのは言うまでも無かった。


そのまま、弓木が付いて来いと言うので、その先の本殿の中まで付いて行った。


本殿の中に進むと、ご神体を展示してある広い空間に来ていた。


弓木は、ご神体の前に立つと、さっき巫女さんから受け取った刀を抜いて呟いた。


生贄いけにえを・・・今年の生贄にえを持参致しました。」


ナニ?言ってんの?


もしかして生贄ってワタシ?!


と思っていたら、弓木は目線だけで「お前の事じゃない」と言って、私の横を通り過ぎ、いつの間にか私の背後に設置されていた棺の様なモノの前に立った。


その棺の中には、多分まだ薬で眠らされているだけ~だと思われる一人の人間が入っていた。


その人間は、海鹿島高校の制服を着た男子だったので、もしかしたらこの人があの事件の犠牲者?と言う推理じみたモノが脳内に渦巻いた。


弓木に、


「もしかして、アンタ!その刀であの人を斬るの!?」


と、まくしたてたが、もう弓木には私の声が届いていない様だった。


弓木は、何のためらいも無くその棺の中で眠る男子生徒の腹に、刀を突きたてた。


私は、弓木のその行為が信じられなかったが、これがあの烏天狗からすてんぐの所望した生贄いけにえと言うなら、犠牲になった彼は自ら命を捧げたのだろう。


烏天狗信仰者からすてんぐしんこうしゃとは、そう言うモノであると以前、誰かに聞いた事があった。


それが誰だったかは思い出せないけれども、そんな風習は良くない事は目に見えて明らかだ。


私は、一仕事終えて清々しそうになっている弓木に詰め寄った。


「ちょっとアンタ!あれって人殺しじゃないの?何でアンタがそんな事してるの!説明して!アンタもしかしたら烏天狗信仰者からすてんぐしんこうしゃなの?!」


と、言いたい事を全部言って詰め寄った。


すると、


「よく見て見ろ、あいつは元々人間じゃない。」


と言いながら、死んだ男子高校生の背中を見せた。


確かに、あるはずの羽根が無い。


しかも、生えていた形跡も無かった。


「人間が、人間じゃ無いモノを斬って何が悪い?」


と、シレっとした顔で言うので、私も一瞬そうなのか?とも思ったけれども、でも私の様にたまたま鼠色の羽根の人間が生まれてくるのと同じように、たまたま突然変異で羽根の無い人間が生まれてもおかしくないんじゃないのか?


とも思ったのだ。


でも、今の私は無力で、地面をフワフワと漂っているだけの存在だったので、それ以上の事は言えなかった。


ああ、なんてリアルでツラくて悲しい夢なんだろう?と、私は私の夢を呪わずには居られなかった。


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