燈想 短編集

燈想

四神

Warmth of a time (BL)

(玄武×朱雀)


―元日の明朝。


外はすっかり雪だった。


しっかりと閉め切った縁側の雨戸をそっと空けると、

頬が火照る程に暖まった室内に、ひやりとした冷気が入り込む。


庭はすっかり銀色に染まり、樹齢を重ねていそうな高い木は、先ほど雪を払い落としたにも関わらず、また新たな白い雪を纏っている。


「すごおーい…」


思わず感嘆の声を洩らす程の一面の銀世界。


凍り付いた庭と柔らかく降り注ぐ雪、

そして夜の闇。

その神秘的な世界は玄武の目を釘付けにさせる。


ふいに、この世界を、誰かに見せたくなった。


「朱雀くーん」


……?

返事が返って来ない。


「朱雀く…、」



振り向くとそこには、壁にもたれ掛かり、静かに寝息をたてる朱雀の姿があった。


閉じられた瞼には髪と同じ金色の睫毛。

きめ細かな白い肌には、薄く開き、ほんのりと色付いた唇が映える。


玄武は今度は朱雀の方に釘付けになった。


「寝ちゃってたんだ…」


二人で初日の出を見る、という、玄武の半強制的な企画に

朱雀は渋々付き合ってくれていたのだった。


なるべく音をたてない様に朱雀に歩み寄り、その整った顔を見つめる。


「…やっぱり美人さんだなぁ…」

ぼそりと呟く。


「…………」


ここで朱雀が起きたら、確実に半殺しにされるのは目に見えてはいるが、


玄武は朱雀を眺め続けた。


その形の良い唇は玄武の目を引く。



「…どんな夢見てんだろ…」


朱雀が見る夢はどんなものだろうか。

もしかすると、一面の暗闇かもしれない…


その暗闇のなかに、はたまた夢の中に、

一瞬でも自分が現れてくれたら…


「………朱雀、」


さらに顔を寄せ、

そっと唇を重ね合わせる。



そのとき、

開けっ放しにしてあった雨戸の隙間から冬の朝日が静かに差し込み、

部屋の明るさが段々と増してくる。



「……ん、っ…」

「…朱雀くん」

「…キャ…ベツ、?」

「おはよ」


目をこする朱雀に笑いかける玄武。

「……あぁ」

「朱雀くんギリギリセーフ!」

「…はぁ?」

「ほら!」

そう言って昇り始めた太陽を指差す。


「ご来光!一緒に見るって言ったじゃん!」


朱雀は少し考え込む。

「……、あぁ、…そうだったな」

「ひどぉい!忘れたの!?」

「いや、…」

頭を掻きながら、苦い顔をする。


「…忘れてない。」

そう言って朱雀は玄武の横に並ぶ。

玄武は朱雀を見上げ、静かに口をひらいた。


「…また、背のびた?」

「…わっかんね」

「いいなぁ、成長期真っ盛りは。俺も伸びたい…」

「……いいんじゃねぇの?」

「…え?」

「お前は、このくらいが調度良い」

「…そうかな……。…朱雀くん」

「ん?」

「…好きだよ」

「、っ ……あぁ」



お互い微笑み合い、

どちらからともなく、唇を重ね合った。



朝日が昇る。

二人の間に溶け出す体温。


それはまるで、


Warmth of a time...

(ひとときの温もり)





(終)



中2のときに書いたもの

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