第3話 異種族との出会い!

「あやややや!このままどこに行くんだろう。ブロイーン!呼んだよー!マチコー!どこーッ!」


 玉虫色の空間の中を猛スピードでみーなは駆け抜けていく。


「んしょッ!んしょッ!」


 必死に泳いでみても空を切るばかり。


「むむむー!なんともならないなー!」


 仕方ないのでみーなはちょこんと正座をした。


「ま!仕方ないか!」


 のんびり座っていると、向こう側に光が見えてきた。


「出口っぽいな…」


<スポンッ!ドサ、ムギュ>


「ムギュ?」


『ふぐぁッ!

 …ぐるごあぁぁご!ぐるごあぁぁご!』


 落ちたところを見ると、誰かのお腹のようだ。顔を見上げると、象のマスクを被った人間が、長い鼻から豪快なイビキをかいて眠っていた。


 長い鼻と大きなお腹がイビキに合わせて上下している。


『ぐるごあぁぁご!ぐるごあぁぁご!』


「ふひひ」


 みーなはぴょんと地面に飛び下りるとそこに生えている草の葉を一枚ちぎり、またよじよじと登って上下する鼻にくっつけた。


『ふごッ!ふごッ!ぶるあぁぁごッ!』


 豪快な鼻息が鳴る。

 それが面白くなって、みーなは何度も何度も葉っぱをくっつけて遊んだ。


『ふごッ!ふごッ!ふがあぁぁッ!

 むぉぉ!誰でゴンスかー!おいどんの昼寝をじゃまするのはー!』


 地響きがする程、大きな声をあげて象のマスクを被った人間が立ち上がる。その姿にみーなは首が痛くなるほど見上げた。


「でかぁ」


『なんだ子猿でゴンスか…』


「ねぇねぇ、そのマスク寝ずらくないの?」


『わッ!しゃべったでゴンスッ!』


「なにさー!ねぇ、ここどこなの?」


『いやぁ、しゃべる猿なんて初めてでゴンス!』


「猿じゃないよ!みーなだよ!」


『“みーな”?名前があるでゴンスか…』


「ゴンスゴンスうるさい!」


『いやぁ』

 顔はなんとなくしか見えないけれどもなぜか照れているようだ。


「“いやぁ”じゃないよ!相手が名前言ったら自分も名前言わないと失礼だよ!」


『おぅおぅ、おいどんの名前は“ゴンス”でゴンス!』


「そのまんまじゃんッ!」


『?』


「“?”じゃない!」


 なんとなくみーなが押している。


『オメ、どっから来たゴンス?』


「“オメ”って名前じゃない」


『“みーな”?』


「はい!」


『どっから来たゴンス?』


「んと、“家”」


『“家”?』


「うん“家”」


『なんだ“みーな”、迷子か?』


「うーん…似たようなカンジ」


<ぐうぅぅぅぅ…>


『あー寝たら腹減ったでゴンス。“みーな”も来るか?』


「どこにさ?」


『森だぁ、“みーな”の仲間もきっといるゴンス』


「ホントにッ!?」


『あぁ、間違いないゴンス』


「行くー!」


『じゃ、ついてこい』

 ゴンスはくるりと背を向けるとのっしのっしと歩き出した。後ろからみーなはテクテクついていく。


「ねぇねぇゴンス!そのお顔取れるの?」


『はぁ~ん?とれるはずねぇべさ』


「それ顔なのッ!?」


『んだぁ。てか、みーなも顔取れないべ?』


「いや、まぁそうだけど…そうかぁ…そういう病気かぁ…」


『いや、元気だど。みーなは元気でゴンスか?』


「みーなは元気だよ!」


『うん、良かったでゴンス。あ、着いたどー』


「近ッ!ここ?」


『んだ』


 そういうとゴンスは木のつるになっているリンゴのようなトマトのような実を器用に鼻で二つもぐと、一つをみーなに差し出した。


『これ食って待ってろでゴンス』


「これトマト?リンゴ?」

<カプ、ジュワワワワワン>


「なにこれ超ジューシー!!しかもあっま!イチゴと桃みたいな味する!」


『みーなもいつも食ってるべさ』


「えー!初めて食べたよ!もいっこ!もいっこ!」


『はえぇな。ほらー<もぎっぽとん>』


「へあ~」

 みーなの瞳がキラキラと輝いている。


『おっ来たど。みーなの家族』


「え!?マチコ?」


「キキッ」


 ピンク色の毛並みをした子猿があらわれた。


「似ーてーなーいー!」


『違うでゴンスか?』


「ぜんぜんちがうじゃーん!もう!よく見てよー!」


『ぐ…ぐ…ぐおぉぉぉーッ!』


 突然ゴンスは苦しみ出した。


「え!?なにッ!?毒!?毒っぽいカンジ!?」


 前屈みになったゴンスの目が、突然三角になり黄色く光出す。


『パオオオォォーンッ!!』


<バサバサバサバサッ!>

 ピンクの子猿や鳥たちがいっせいに飛び去る。


「あーこれヤバいやつだなー」

 大気が震動し、みーなの体をビリビリと打ち付ける。


<かじゅかじゅ…ペロッ>

 残りの果実を急いで食べるとみーなはゴンスを見た。


『バオオォォーンッ!』


 ゴンスは鼻をぐるんぐるん回してこちらを威嚇する。

 途端!

 豪風を撒き散らしてゴンスの鼻がみーなを凪ぎ払うように鼻を打ち付ける!

<ビュオォッ!!>

 突風がみーなの前髪を横に揺らす。


『ブオオォォォッ!!』


<ぱしッ!>


 勢いよく放たれたゴンスの鼻を、みーなは簡単に左手で受け掴む。


「お友達に暴力ふるっちゃダメなんだよ!」


『グルオパアァァァッ!』


 ゴンスはそのまま大きな体で手を広げ、みーなを潰すように倒れこんでくる!


<ピタッ>


 それをみーなはサッと右手で支えた。


「おっもッ!」

『バオオォォーッ!』

「うるさいよっと!」

<ポイ>

<ズシイィィン…>


『う…う~んでゴンス…』


「もぉ~突然なんなの~!<ぷんぷん>」


 みーなは腰に手をあててゴンスの顔に近付くと、ゴンスの耳からピョンと黒い虫のような人間が飛び出してきた。


[あいてててて…]


 それをヒョイとみーなは右手で摘まむ。


[あ!こら!やめいやめい!]


「君か~?ゴンスに悪さしたのは~?」


[私を誰と心得る!正統なるアントアネット王国の正騎士アンドリューなるぞ!]


 小さな手足をバタバタさせた漆黒の鎧を来た黒い虫人間は小さな声でそう叫んだ。


「ちっさ!」


[むむぅ子猿めッ!懲らしめてくれるわッ!]


「子猿じゃないよ!みーなだよ!」


[子猿の名など知らんわ!てや!]

<ぷす>

 アンドリューは腰にぶら下がった4本の剣のうち1本を引き抜くと、みーなの指をチクリと刺した。


「痛。あー血ーでたー」


[離せ!下郎めがッ!]


「あーそういうこと言うんだーおしおきだな!」


[む!むぅ!や、止めろッ!止めろーッ!]


「ふへへへへ…」


 そう言うとみーなは両手で虫人間を包み込むとシャカシャカ上下に振りだした。


[きゅぅ…]


 虫人間はぐにゃぐにゃになってみーなの手のひらでピクピクとうずくまった。


「あ、やりすぎちゃったかなー?」


『う、う~んでゴンス…』


「あ、ゴンス。大丈夫?」


『頭がガンガンするでゴンス…』


「ねぇねぇこの子知ってる?」


 みーなは手のひらの虫人間をゴンスに見せた。


『あー“アント”でゴンスか』


「“アント”?ありさん?」


『アリサン?はわからないでゴンス。たまに“エレファント”の頭に入って悪さするでゴンスよ』


「なんで?」


『なんででゴンスかね?虫だからじゃないゴンスか?』


「え?でもなんかしゃべってたよ?」


『“しゃべる”!?“アント”はしゃべるでゴンスか!?』


「あーちっさい声だけどね。“なんたら王国のなんたら”って言ってた」


『驚愕の事実でゴンス』


「じゃあ起きたら聞いてみよっか?」


『何をでゴンスか?』


「なんで耳から入って悪さするのか」


『あーまーそうでゴンスねぇ…しゃべる猿がいることだし、ゴンスの頭がおかしくなった訳じゃないゴンスよね?』


「あー、なんかねぇ、わかるわぁその気持ち。みーななんて今日は朝から大変だったもん!」


『そうだ。みーなの家はあそこじゃなかったゴンスね。どうやって来たゴンス?』

 ゴンスがあぐらをかいてみーなに向き直す。


「いやぁ!それがねぇ!…」


 みーなは朝からの出来事を手振り身振りを踏まえて臨場感豊かに情景を交え、まるでハリウッド女優のようにマチコとみーな、一人二役の寸劇をゴンスに披露した。

 時折ゴンスはブオオと鼻を鳴らして笑ったり、ズズ…と鼻水を垂らしたりして、その様子を時には身を乗り出して楽しんだ。


『いやー!笑ったでゴンス!』


「いや笑い事じゃないんだよ。早く家に帰ってプリクゥア見たいんだから」


『あぁ、そう言えば父ちゃんから“ブロイン”の話は聞いたことがあるでゴンスよ』


「ホント!?」


[う、うー…ん]


「あ、虫人間起きたぽいよ」


『小さいゴンスよね…本当にしゃべってるゴンスか?』


「まぁ聞いてみようよ。ねぇねぇ、“アンドリュー”だっけ?」


[ぬ!貴様!]

 シャキン!と剣を構えるアンドリュー。しかし脚に力が入らなく、ガクッとひざが折れる。


[クッ…殺せ…!]


「いやいやいやいや、殺さないよ。あのねアンドリュー、そういうこと言っちゃダメなんだよ。あとね、私は“貴様”じゃない。“みーな”って言うの。よろしくね!」


[クッ!子猿ふぜいが…!]


『みーな、やっぱりなんかしゃべってるゴンスか?』


「うん。聞こえない?確かに小さなキンキラ声で聞きずらいかもね。あと“アンドリュー”?次また“子猿”とか言ったらまたシャカシャカするからね」


[む…み、“みーな”…]

 アンドリューは脚をガクガク震わせながらそう答えた。


「そう!私は“みーな”なの!世界でたった一人しかいないんだから!アンドリューだってそうでしょ?」


[私は一介の兵士だ…私の代わりなどいくらでもいる…]


「あーダメダメ!そんな風に言っちゃ!いい?アンドリュー。あなたは世界に一人しかいないの。あなたの代わりは誰もいないの。だからそんな風に言っちゃダメだよ」


[私は…一人しかいない…?]


「そうだよー!あーわかった。アンドリュー、一人ぼっちだなぁ?」


[バカ言うな!私は3万人の兵士を束ねている兵士長だ!]


「“友達”はいる?」


[そんなものは兵士には不要だ!命令を遂行する不屈の闘志だけが必要なんだッ!]


「ははぁん。ダサい!ダサいよアンドリュー。その考え古いわー」


[貴様!私を愚弄するのかッ!]


「“貴様”?」


[…“みーな”…]


「はいよろしい。じゃあさ、アンドリュー。みーなが友達になったげるよ。仲良くしよう!」


[ふざけるな!誇り高い“アント”の騎士が子猿なんかと仲良く出来るかッ!]


「はい注意して3回目ー」


 みーなはアンドリューのマントをちょこんと摘まむと持ち上げた。


[“みーな”!“みーな”!“みーな”!]


「もー次言ったらホントに“シャカシャカ”だからね!」


 そう言いながらみーなはゴンスの手にアンドリューを乗せた。


『ほぇ~本当にしゃべってる感じでゴンスな』


[貴様ッ!“エレファント”!]


「こら~アンドリュー!この子は“ゴンス”って言うのッ!」


[ゴンス…?名が…あるのか…?]


「そうだよ!でもさ、アンドリューもゴンスの声聞こえないの?」


[いつも“ブオオォォォブオオォォォ”鳴いている音しか聞こえん]


「むむむ…?じゃあお互いしゃべれるの知らないのか?」


『んだ』

[知らなかった…]


「ねぇねぇ、アンドリューはなんでゴンスの耳に入るの?」


[“エレファント”は“アント”にとって“厄災”だ!

 人々は踏み潰され、街を破壊する!

 我々は“エレファント”を駆除して回る国民の“勇者”なのだ!]


「ははぁ~ん。そういうことか」


『え!なんでゴンスか?』


「えと、つまり、ゴンス達がアンドリュー達を踏みつけちゃうみたい」


『あぁ~寝返りうった時とかたまに潰れてるでゴンス』


「なぁるほどね。色々見えてきたわ。じゃあさ、とりあえずアンドリュー連れてゴンスのパパのとこ行こうよ!ブロインのこととか家に帰る方法わかるかも知れないし」


『わかったでゴンス』


[クッ!この私が捕虜になるなんて…]


「“捕虜”じゃなくて“友達”だよ!ゴンス達もアンドリュー達がしゃべれるの知らないみたいだし、話せばなんとかなるかもしんないじゃん!」


[む…むぅ…一理ある…か…]


「じゃあそうと決まったらゴンスパパまでレッツゴー!」


『じゃあ“アンドリュー”はみーなに任すでゴンス』


 そう言うとゴンスは優しくアンドリューをみーなの手に乗せた。


[とと…“ブオブオ”としか聞こえんな]


「そうなの?まぁいいよ!行こう!」


『みーな、肩に乗るゴンスか?』


「えー!乗る乗る!」


 長い鼻をみーなに巻き付けて、ゴンスはみーなを肩に乗せた。


『お…重いでゴンスな…』


「えー!みーな軽いよ!」


『ま、まぁ大丈夫でゴンスよ!』


 ズシン、ズシンとゴンスは歩き出した。


 ゴンスの心はときめいていた。それはこの不思議な“友達”が好きになり始めていたからだった。


 ゴンスは親愛の証である“肩車”をして父親の元へ向かった。




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