→いいえ

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 戦うのは……、やめた。


 勝てないからじゃなくて。

 戦う理由がないからだった。


 この人が、戦うつもりなのかな、と思ったんだけど……?

 なんか戦わないみたいだし。

 ぼくはべつに戦いたいわけじゃないので、この人が戦わないなら、ぼくに戦う理由はないわけだし。


「ふむ。下等な人間とはいえ。彼我の実力差くらいはわきまえるか……。ふむ。やはり話をしてよかったな。平和主義者の魔王としては。今後も、まずは話してみることにしよう」


 この人の言うことって、なんか腹立つ。

 ぼくに顔を向けているのに、どこか違うところに向けて話しているみたい。


 やっぱり戦っちゃおうかな?

 戦う? 戦う?


「では。約定だ。〝カネ〟とやらを与える。おまえはもうモンスターを倒さず、〝カネ〟を手に巣穴へと帰れ」


 ぼくが手を伸ばして待っていると、魔族の男の人は、お金を地面へとバラまいた。

 そしてくるりと後ろを向いて、歩いて行った。


 小さな猫型モンスターが、男の人のあとを追って駆けてゆく。

 途中でいったん振り返って、ぼくにむかって、「んべー」と、やっていった。


 なんかどこか人間くさい。猫なのか獣人なのか、ちょっとよくわからないモンスターだった。


 一人、その場に残ったぼくは、地面にバラまかれたお金を見ていた。


 あーあ……。

 これ……。どうしよう?


 拾え、とばかりにバラまかれたお金を拾うのは、正直、すごい屈辱。

 でも。このお金を拾わなかったら、どうなるのか――。


 ぼくはまたモンスターを倒さなければならなくなる。


 あの男の人は、なんか、腹立つんだけど。

 約束はした。


 お金があったら、モンスターは狩らないって。


 その約束を破るのは、いけないことだと思った。


 あと、キサラへのプレゼントも買えなくなっちゃう。


 だからぼくは、地面にかがみこんで、ゴールドのコインを、一枚一枚、拾い集めていった。


 くやしいなぁ。

 そのうち。大きくなったら。あの魔族のあの人を、ぎゃふんって、言わせたいなぁ。


 コインは300枚くらいあった。

 もう集めていた100枚くらいと、最初から持っていた貯金箱の中身の9G。

 合わせて400Gと、ちょっとになった!


 やったー! お金がたまったー!

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