→いいえ

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「あの……。カインさんが必要でしたら……、どうぞ」


 ロッカは、ツボを差し出してくる。


 うーん。うーん。うーん……。

 必要ではあるんだけど……。


 いま借りておいて、あとで、きちんと返せばいいような気もするんだけど……。


 なんだか……。

 これはちがうというか……。

 これは、やっちゃいけない感じっていうか……。


「へっへっへ! じゃあ、ありがたく、もらってゆくとすっかなー!」


 マイケルが笑顔を浮かべながら、ツボに手を伸ばした。


 ぼくは――。


 ぼくは、マイケルの頭を、ぽかんとやった。


「いてっ! えっ? ええっ? なんでぶつの? なんで俺ぶたれてんの? いいじゃん! くれるって言ってるんだぜ? もらっておけば! もらっておこーぜー! な? な?」


 くれるってゆってないし。貸すってゆってるだけだし。

 あと、マイケルのなかで「借りる」と「もらう」は一緒なのだということは、だいたいわかった。


 ぽかん。ぽかん。ぽかん。


「いてっ。いてっ。いてっ。またぶったっ」


 そんなに力は入れてない。昔、マイケルをぶったときには、泣かす勢いでぶったけど。今回は、そんなのとは、ぜんぜん違う。手加減している。


「もー、わかったよー。ちぇっ。せっかくのカモ……じゃなくて、貸してくれる親切な人を見つけたってゆーのに。おまえがだめっていうなら、じゃあ、仕方がないよ」


 マイケルはわかってくれた。

 ぼくたちは、ロッカに何度も頭を下げて、木の上のおうちをあとにした。


 でも自分のことじゃないのに、ぼくのことなのに。

 こんなに親身になって心配してくれているマイケルには、ぶったりして、わるいことしちゃったかな?

 でもロッカの大事なツボ貯金を借りるわけにはいかなかったし……。


 会話もなくて、マイケルと二人で道を歩く。

 いつもはよく喋るマイケルが、ぜんぜん、口を開かない。


 その間が、そろそろ耐えられなくなってきた。


 ぼくは、「はい」と「いいえ」以外で、なにか口にしようかとした。

 そのとき――、マイケルが――。


「ちぇっ。あれ、ぜったい371G以上あったぜー。あれだけあったら、余ったお金で、俺も、お菓子が買えたのになーっ」


 ああ。うん。ちがった。

 マイケルは、マイケルだった。

 なんか安心しちゃった。

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