ターン5「教会のおねえさん」

「おまえさー。BBAって、どうおもうー?」


 前を歩くマイケルが、そう言った。

 今日もヤギの乳しぼりをサボってきたマイケルに案内されて、村の中をゆく。


 だからBBAってなに?

 いちども説明してもらったないよね?


「ユリアねえちゃんはなー。すげーんだぞー。もうおっぱいあるんだぞー。BBAだがなっ」


 今日はマイケルに連れられて、教会にいるという4つぐらい年上の女の子に会いにいくことになっていた。

 ぼくたちは5つぐらいだから、そのユリアさんという人は、きっと9つくらいだ。

 すごい大人に思える。


 この村には、僕らぐらいの歳の子供は、あんまりいない。一〇人とちょっとぐらい? そのうちの半分くらいは女の子。

 ユリアさんという人は、ちょっと歳がちがうけど、4つぐらいのちがいは、すくないほうみたい。

 マイケルと一緒というのが、ちょっと不安なんだけど。

 トモダチになれるなら、なりたいと思った。


「ここだ。かくれろ。しずかにしろ」


 教会の近くまでくると、マイケルは茂みに身を隠した。

 ねえ? なんで隠れるの?

 しかたなくマイケルと同じように隠れた。


 女の子がいる。ぼくらよりだいぶ年上。

 その子は、しっかりした感じで、そして優しそうで――。

 ぼくらよりも小さい子たちから、「おねーちゃーん」と、すがりつかれていた。

 こどもたちは、女の子――ユリアさんに、ぎゅーっと、力いっぱい、しがみついている。


「みろ! あれ! おっぱいさわってるぞ!」


 いや。さわってないよ。手がたまたまあたってるだけだよ。さわるはずないよ。


「いいか? 合図したら、俺たちも、とびだしていくぞ! いまがチャンスだ!」


 だからなにがチャンスなの? なにしてんの?


「いち――、にの――、さーん!」


 マイケルは飛び出していった。


「おねー~!! ちゃーん!!」


 大声をあげながら、ユリアさんに突進。

 ぴょーんとジャンプして、抱きつきにかかる。


 茂みに残って、ずっと見ていた。

 マイケルには一緒に飛び出せとか言ってたけど……。

 もちろん「いいえ」だ。選択するまでもない。


 ユリアさんは、神様みたいな微笑みを浮かべたまま――。ひょっと避けた。

 マイケルは、べちっと、顔から地面に落ちた。


「あらあら。マイケル。おいたはだめよ」


 ユリアさんはたしなめるように、マイケルに言う。


「ひどいよ~、ユリアさぁぁん……」


 マイケルは転んだ拍子に怪我をしていた。

 鼻が真っ赤。膝がすりむけている。すっごい痛そう。


「もう。自業自得ですよ」


「いたいよ……、いたいよ……、いたいよー!」


 マイケルは泣きはじめた。

 わるいことかんがえて、自分で転んで――。ユリアさんの言う通りだった。

 じごうじとく? とかいうのは、むずかしくて、よくわかんないけど。

 マイケルは、ほうっておけばいいと思った。


 だけどユリアさんはマイケルのことを許したみたい。

 マイケルのすりむけた膝小僧に手をかざして――。

 その手から、ぽうっと、なにか暖かくて優しい光がもれはじめた。


「聖なる主よ。優しく正しい我らが神よ……。この卑しく卑怯でちっぽけで、本当に哀れな迷える子羊に、祝福と加護を……。《癒やし》よ!」


 優しそうなおねえさんが――凛と、強く声を張りあげる。

 光が、ぱあっと一層強くなって――。


「痛くない! 痛くないや! ありがとうユリアさん! ユリアさぁん!」


 マイケルが飛びつく。

 ユリアさんは笑顔のまま、しかたないなー、という顔で、マイケルを抱きとめた。

 マイケルは、しばらくぐしぐしと泣いていたが――。

 そのうち泣きやんだ。


 なきやんでしばらくすると――。

 なんか黒いオーラがマイケルの体をつつみはじめた。


 ユリアさんは、まだマイケルの背中や頭を、よしよしと撫でてあげている。まだ気がついていない。


 あぶなーい! ユリアさんにげてー!


 マイケルの手がおっぱいにあたる。


「きゃっ!」


 ユリアさんが悲鳴をあげる。

 マイケルは飛び離れると――。


「やーい! すきありー! さわったさわった! さわっちったー!」


 はしゃぐ。さわぐ。よろこんで。おおさわぎ。


「ゆーりあは! おっぱーい! おっぱい星人ーっ!」


 変な歌をうたいながら、マイケルは駆けていった。


 あーあ……。

 マイケルのマイケル度が、また上がった。

 トモダチとして、止めたほうがよかったんじゃないかな?

 もう手遅れだけど。


「茂みのなかのキミ。……でてきなさい」


 ユリアさんが、こちらに向かってそう言った。


 バレてた。

 しぶしぶ、茂みからでる。

 自分のせいじゃないんだけど。すっごく。バツがわるい。

 ぜんぶマイケルのせいだ。


「マイケルのお友達?」


 ユリアさんは、なんか究極の質問をぶつけてきた。

 どう答えていいのか、すっごく迷ったが……。


 マイケルのトモダチだと答えますか? [はい/いいえ]


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