第51話

 八月三日、二陽十二時。


 妹は俺の部屋にきていた。


 テッシちゃんやカゲヤマさんは「積もる話があるじゃろう」などといって、俺たちに時間をくれた。


「それにしても、お兄ちゃん若くなったよね。そのせいで、気がつきにくかったよ」


「だろ?」


「お兄ちゃん、こんなになっちゃって……」


「なんだよそれ」


 妹はベットで、よこに寝そべっていう。


「お兄ちゃんが、もうちょっと早く言ってくれれば、お兄ちゃんの部屋に住んだのに」


「おいおい、俺の部屋に住む気かよ」


「だって宿代がもったいないじゃん。『ひとり暮らしをしましょう』なんて、不動産業界のいんぼーなんだよね」


「この部屋って、そんなに広くないだろ」


「お兄ちゃんは、まい月まい月、『ろーどーの何十時間ぶんのお金』を取られる。その馬鹿馬鹿しさを知らない、だから窮屈だからどうとか、ひとりのが気軽だとか言えるんだよね」


「まあ、確かに俺はしらないな」


 妹は窓のほうへ歩く。


 そして窓から外をみて、体を左右にゆらす。


「ねえ、テッシちゃんってさー……」


「ああ、一香ちゃんだよ」


「お兄ちゃんが見つけたの?」


「ああ、そうだよ。会ったのは偶然だけどな、でも誘ったのは俺だよ。マヤがさびしがると思ってな。」


「ありがと……」


「おう」


 妹は、ふうと息をついた。


「誘ったのは、半分はお兄ちゃんの下心だったりして」


「な、なに言いだすんだよ」


 やべえ、声がうら返った。


「お兄ちゃんさー。一香ちゃんが家に来たときさー。ジロジロ、ジロジロみてたよね。


 そういうの止めたほうがいいと思うよ。


 女のひとにはバレバレなんだよね、そういうのって。


 わたし学校で一香ちゃんに謝ったんだよね。昨日はお兄ちゃんが、ジロジロみて、ごめんねーって」


「お……、男は周辺視野が狭いから、チラ見が難しいんだよ……」


 フェリリさん、どこにいるんですか!


 助けてください! フェリリさん!


「いい訳すらしないんだ……。一香ちゃんは、気がついてなかったみたいだけど。もうやめてよね、恥ずかしいから」


 フェリリいいいいいいい。


 フェリリいいいいいいい。


 フェリリいいいいいいい。


 俺はこころで叫びながら、顔をそらす――いた。


 ふりこ時計の上で寝てる。


「そうだ、お兄ちゃん」


「今度はなんだよ」


「わたし泣いて頼んだんだからね。『お兄ちゃんをたすけて。お兄ちゃんを生き返らせて』って。お兄ちゃんも、泣いて頼んでくれたんだよね?」


「お、おう。そんな気がするわ。よく覚えていないけどな。っていうか先生じゃなくて神様だろ?」


「神様みたいなひと」


「みたいじゃなくて、神様らしいけどな。俺も信じられないけどな」


「そうなんだ……」


 妹はふうと、ため息をつく。


 妹はずっと、窓の外のむかいをみている。


 なにかあるのか?


「お前ずっと外みてるな。何みてるんだ?」


「宿のむかいに、スクロールショップがあるんだよね」


「買いたいのか? おこづかいあげるから、買って来いよ。引っこしのお祝いだ」


「やったー」


 俺は三万クリばかりわたすと、妹はバタバタと部屋から出ていった。


 妹は本当に、俺の部屋にひっこす気なのかな……

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