第33話

「ぬけがけはズルいデス」


「滑り降りるんじゃなくて、直接飛び込めば間に合ったと思うけど」


 俺はテッシちゃんに振り返っていう。


 いや、あれに飛び込むのは勇気がいるか、虫だもんな。


 クレーターの中心。


 さっきまで、働きアリ地獄がいた場所には、穴が開いている。


 そこには、俺が二枚おろしで最初に攻撃した角。


 三〇センチくらいだろうか、それが穴のそこに逆向きに、突き刺さっている。


「結晶化したあれは取らないナノ?」


「帰りに取るよ、ここ通るだろ?」


「誰かに取られちゃうかもしれないナノよ」


 いや、取らん取らん。


「まっとくれ」


 カゲヤマが降りてきた。


 カゲヤマがくると、すぐ近くの洞窟の入り口に歩き出す。


「わりと明るいな」


 洞窟の入り口から、中をのぞきこむと俺はいう。


 中は壁に、露出している鉱石が発光している。


 カンテラはないと良く見えないが、真っ暗闇という訳でもない。


「さあ、いきましょうデス」


 テッシが先頭を、ずかずかと進む。


 さっき抜けがけを、されたからだろうか。


 四人で洞窟を進むと、壁にへんなものを発見する。


「なんだこれ」


「なんじゃなんじゃ」


 カゲヤマが、小走りで寄ってくる。


「これは剣じゃな」


 腰くらいの高さ。


 銀色の刀身の先端が、壁から飛び出ているようだ。


 剣の周りの土は、やわらかくなっている。


「抜いてみるかのう」


 カゲヤマは、手を切らないように剣を握る。


 そして、力を入れて引っぱり始めた。


 それ要るか?


 中古ショップに、売る気なのかな?


「よっこらしょ」


 そのかけ声はいかがなものか。


 俺がそう思ったとき。


 剣のまわりの壁が崩れ、剣が突き出てくる。


「痛っ」


 剣に腹部を刺されて、カゲヤマが声をあげる。


 骸骨だ。


 剣と盾とかぶとを身につけた、骸骨が目の前にいる。


 飛び出た剣は、こいつのおとりだったのか。


「スケルトン・壁際族 LV三五 HP四〇〇〇 BP三〇〇〇

 おとりを使い、人間の注意を惹いて、それに近づくと攻撃をしかけてくる。

 人間やえものが来るまで、ひたすら待ち続ける。暇なモンスターだ ナノ」


 ステータスの表示をみる。


 一二〇五ダメージ?


 ヤキソバ LV一一  HP二六一〇/二六一〇 BP一二一〇

 テッシ  LV一一  HP二二八〇/二二八〇 BP 九九〇

 カゲヤマ LV一二  HP二六〇〇/一三九五 BP一二〇〇


 そうか装備だ。


 武器を抜いていないから、BPが下がってるのか。


 装備を。


 剣を抜かねえと。


 俺はシルバーソードを抜き払う。


 しかし、スケルトンはカゲヤマさんに向かって、武器を振り上げる。


 カゲヤマさんは、俺の方をチラリとみて。


「テッシ殿、ブレイブヒールを頼む」


 カゲヤマさんの声が反響する。


 スケルトンが、武器を振り下ろす。


 俺は、カゲヤマさんの前に立ち塞がった。


「二枚おろし!」


 しかし、技が発動しない。


 敵の武器が、俺の武器にあたり雷光がほとばしる。


 そうか、俺は武器を抜いた。


 つまり、ブランクベースの一つ目を使ったんだ。


 続けて、通常の技は発動しないんだ。


 敵の攻撃を受けるまでは、連携に巻き込まれてなかったとはいえ。


 短時間のうちに、二つの技を使うには、連携できる組み合わせが必要。


 ということか。


「ブランクキャンセル、ブレイブヒール!」


「BP+零 次の攻防の終了時

 (今回と次、合計二攻防の間)まで自分のBP+八〇〇、対象のHP回復」


 既に武器を抜いていたテッシが、二つ目のブランクベースを使って回復を発動する。


 雷光が弾ける。


 俺の攻撃は弾かれる。


 そして、俺に八〇二ダメージ。


 ブレイブヒールはテッシの手元から飛んでいき、俺を回復させる。


 俺はHPが、五〇六回復。


 ――俺?


 それをみて、カゲヤマさんは武器を取り出す。


「ごめんなさいデス。カゲヤマさんを回復させようと思ってたのに、間違ってしまったデス」


「回復は使った後に対象の名前を言うと、誤射を防げるんじゃ」


「分かりましたデス」


 そうか、ダメージと同じように、BPが多いほど回復量も減る。


 講義の時に、そんなこと聞いたな。


 カゲヤマさんは武器を抜く前に、回復を受けたかったんだ。


 そして、回復が失敗したのをみて。


 今回の連携中に、武器を抜いた。


「ブランクキャンセル、治癒の護符じゃ」


 護符はカゲヤマさんの左手から、自分の右腕に貼られた。


 カゲヤマさんは、二六二回復。


スケルトン LV三五  HP四〇〇〇/四〇〇〇 BP三〇〇〇

 ヤキソバ LV一一  HP二三一四/二六一〇 BP一八一〇

 テッシ  LV一一  HP二二八〇/二二八〇 BP一七九〇

 カゲヤマ LV一二  HP一六五七/二六〇〇 BP一七〇〇


 空気が変わったのを感じる。


 一つの連携の繋がりが終わったのか。


「本当にごめんなさいデス」


「いや、いいんじゃ。元々、わしが失敗して引っ掛かったトラップじゃから。テッシ殿はあまり気にせんでくれ」


 確かに。


「ヤキソバ殿、これからどうするんじゃ?」


 後ろから、カゲヤマさんの声がする。


「俺が決めて良いんですか?」


「うむ、頼むのじゃ」


「お願いしますデス」


 後ろを振り返ると、二人はうなずく。


「じゃあ兄貴戦の戦法で行きましょう。俺がテッシちゃんの役をやります。二人は援護をお願いします」


「分かりましたデス」


「了解じゃ」


 スケルトンは、にじり寄ってくる。


 来るか?


 ――こない。


 相手はピクリと動く。


 来るか?


 ――来ない。


 我慢強いなこいつ。


 しかし、スケルトンはついに動く。


 突っ込んでくるスケルトン。


 俺は構える。


「二枚おろし!」


 アゴをがくがくと鳴らし、剣を振り下ろすスケルトン。


 スケルトンと俺の剣が激突し、雷光がほとばしる。


「ちょい切り 半連携 BP+零 なの」


 スケルトンのスキルか。


「ブランクキャンセル、減退の呪符じゃ」


 札が、スケルトンに向かってく。


 しかし、それをスケルトンは盾で防ぐ。


「盾そらし 半連携 防御スキル

 BP+零 追加効果を無効 なの」


 えっ。


 スキルを一回の攻防中に、二回使ったぞ。


「ブランクキャンセル、ブレイブヒール! カゲヤマさんデス」


 カゲヤマは 六二二回復。


 雷光が弾ける。


 スケルトンに 四〇四ダメージ。


 俺に 五〇五ダメージ。


「ブランクキャンセル、治癒の護符」


 俺は 二二〇回復。


「なで切り!」


 ヒット。


 スケルトンに 二〇三ダメージ。


 そして、連携が終わり距離をとる俺たち。


 にじり寄るスケルトン。


「半連携って二回使えるんですか?」


「そうじゃ、大抵は左右の手に持ってる装備を一回ずつ使えるんじゃ、そうでなくても三回は使えん」


「なるほど、ありがとうございます。しかし、相手の攻撃の手数は多くないみたいですね」


「どうやら、そのようじゃのう。隠している可能性もあるのじゃが」


「囲んでボコボコにするデス」


 俺はカゲヤマさんの武器を見る。


 日本刀か。


 スケルトン HP三三九三/四〇〇〇 BP三〇〇〇


 相手のHPは、まだまだあるな。


「最初の一撃は引き受けます、そのあと囲みましょう」


 うなずく二人。


 こっちから仕掛けるか。


 俺は距離を詰める。


「二枚おろし!」


 相手の剣が受ける。


 俺に 四五六ダメージ。


 敵に 三八〇ダメージ。


 テッシとカゲヤマは、それを確認し俺からみて、スケルトンの左右を囲む。


「ブランクキャンセル、ブレイブヒールです」


 カゲヤマは 五七〇回復。


「なで切りだ!」


 相手の盾がガードする。


 やった。


 盾使ってくれた。


 スケルトンに 二二五ダメージ。


「ブランクキャンセル、減退の呪符じゃ」


 札があいてにはりつく。


「ふりおろしデス!」


 しかし、発動しない。


「じゃあ、ブランクキャンセルぶったたきです」


 一レンジ吹っ飛ぶスケルトン 五七〇ダメージ。


 テッシちゃんのBP二九九〇。


 講義のときにいった、パワーヒールで回復して自分のBPを上げつつ、攻撃する戦法か。


 自分のところに飛んでくるスケルトンを、半身でかわすカゲヤマさん。


 その後、カゲヤマさん日本刀で通常攻撃。


 スケルトンに 一四四ダメージ。


 スケルトン HP二〇七四/四〇〇〇 BP三〇〇〇


 一三〇〇ほどのダメージか。


 この後、こんなやりとりを二回くりかえしスケルトンを撃退した。


「硬かったのう」


「そうですね」


「みんなレベル上がったの。でも思ったより敵のBP高いナノね、帰る?」


 みんなは顔を見合わせる。


「もうちょっと進みませんか? 夜まで結構時間あるし、MPもっと使わないともったいないデスよ」


「いいと思うよ」


 俺たちは、もう少し先に進むことにした。

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