講義と眠り少女編

第13話

「ヤキソバさんは、仲間を探しにきたんですよね?」


 お姉さんは少し困ったような笑顔で、俺に問いかけた。


 ……そうそう、そうだった……だいぶ、話が脱線してたような気がする。


「はい、お願いします……」


 俺は会釈をして、カウンターの前のイスに腰かけた。


 お姉さんは、なにやら機械のようなものを操作している。


 フェリリはいつのまにか、完全に寝りこけ。


 自分の体ほどの鼻ちょうちんをひっつけて、俺の眼前で浮遊している……


「ヤキソバさんのレベル帯だと、募集してる人はいませんね……」


 お姉さんは、残念そうに両目をつむる。


 LV二じゃきびししいか……これからどうする……?


 一人でモンスターを狩り続けて、レベルを上げるか……?


 それとも無理を承知で、高レベルの冒険者に交渉しにいくか……


「そこでですね……講師をやとってはどうでしょう……?」


「……講師をやとうと、レベルを上げられるんですか……?」


「はい。それに、戦い方の基礎なども学べますし、自信もつきますよ」


 お姉さんは髪をなびかせながらそういう。俺はふたつ返事で了承した。


 俺はフェリリを起こし、俺は一ヶ月分の料金をしはらい――促されるままに、別の部屋に連れてこられ、イスに腰かけて待つ――別の参加者がひとりきたみたいだが、自分より後ろのイスにすわっていて、どんな人物かはわからない……やがて、講師が部屋に姿を現した。


「ララです」「リリです」


 そういい彼女らはイスに座り、そろえ伸ばした両手指を、ひざの上におきつつ頭をさげる。


 歳のころは二十歳前後。


 腰くらいまである、長い青髪をまとった双子の女性だ。


 その傍らには、長い杖が二本あり。


 先端は丸くなっており、青い宝石がはめ込まれている。


「早速移動しますね」「しますね」


 ラリコンビさんたちは、俺たち参加者二人を町の外へ引率し――フェリリもそれを追尾する。


 どうやら、郊外のダサネズミを倒しにいくようだ。


 やはり初心者の定番の敵なのか。


 やがて郊外の、ダサねずみの生息地に到着した。


 ララさんとリリさんは、遠方のダサねずみをみやると、並び立つ俺たちをみる。


 そして、これからパーティを組むので、冒険者として自己紹介をすることをすすめる。


「自己紹介は基本ですよ。前へでて名前とクラスをいいましょう」


 俺はそれを聞き届け、前へ出て自己紹介をする――


 『クラスは三年六組です』的なネタをいおうと思った――


 ――が、おそらくこの世界の人には、通じないとおもいやめた……


「ヤキソバです、二十歳でクラスは商人です」


 俺はおじぎをすると、パチパチと軽い拍手のなかもどっていく。


 元の位置にもどると、横のもうひとりの参加者をみた。


 初めて横顔をみた……


 ずっと俺の後ろにいたし――唐突にふり返って確認するのも、めだつと思いためらわれた。


 このひとって協会支部代理所の家で、ドアの隙間からみた銀髪のひとじゃねーか。


 眠みを抱え、フラフラと頭をゆらし――頼りない足どりで前のほうに行き、しゃべりだす。


 ととのった顔だち。光沢のあるショートヘアの銀髪。


 一センチほど奥がみえそうなほど透きとおって、きめ細かい白いやわ肌。


 細い指。


「イチカ・テスラ‐シリンダーです。略してチカ、テッシって呼んでくださいデス」


 2


 一香ちゃんが外国人みたいな名前になっとる……


 俺はおどろきを隠せなかった、まさかこんなところで邂逅するとは。


 彼女は右目を右手でこすり。一香ちゃん――もとい、テッシちゃんは自己紹介する。


「クラスはダメプリーストです」


 ……どうみてもインディーズで配給されてるクラスじゃねーか……!


 どうしちゃったんだよ……! イチ――じゃないテッシちゃん……!


 ……みんながパチパチかるい拍手をする。


 俺も拍手をするが、いろいろ混乱してなにか釈然としない。


 ……そうか、一香ちゃん記憶がないのか……


 若がえっているとはいえ、俺に気がつかないとはおもえない……


 いや、たった一日ゲームをやっただけだし、そこまで自信はないが……


「レベルは言わなくていいですよ」「恥ずかしいですしね」


 ララさんとリリさんは、後ろ手に杖を持ち、にこやかにいう。


 そんないい方したら、二人とも低いの確定じゃないっすか……片方だけ低かったら、バレちゃうんだから。


 それとも、レベルを知られること自体が、恥ずかしいことなのだろうか……


 正直そのへんは、まだよく分からない。


「じゃあまずパーティですね」「パーティを組みます」


 ふたりは、手をかるく叩いていう。


「――わたしいい紅茶あるですよ!」


「テ……テッシさん! そっちのパーティじゃねーですよ……!」


「そうなんデスか。すみません……」


 テッシちゃんは、うつむき、謝罪の意を表明する……


「初心者は知らないの当たり前ですので、お気になさらずに……」「大丈夫ですよ」


「……勢い出しすぎました、すみません……」


 俺はテッシちゃんに対し、上目でかるく頭をさげてあやまった。


「それでは気を取り直して、パーティを組みます」「冒険者はパーティを組むと、色々とメリットがあるんですよ?」


「……どんなメリットなんデスか……?」


 テッシは小首をかしげてたずねる。


「それはおいおい説明するとして」「とりあえずパーティ組んでみましょうか」


「どうやるんですか?」


「みんなで腕を上げて一斉に、パーティといいます」「どちらの腕でも両方でも大丈夫ですよ。体がひかったら成功です」


 ララリリさんたちは、杖を高々とかかげ――


 俺は右腕を上げ、『く』の字にまげて――


 テッシちゃんは両手をバンザイして――


 ――そしてみんなでいった――


『パーティー』


『…………』


体が光に包まれる。


「……これ、テッシちゃんの言ってた方のパーティや……!」


「……いえいえいえ! 大丈夫ですよ! これで!」「冒険者の方であってます! 体がひかっているでしょう……?」


「……でも、これは場を盛り上げるための、光の魔法なのかもしれない……」


「そんな魔法ここでは使いませんよ!」「使いません!」


「わたしはどっちでも良いデスよ~」


 テッシちゃんは目をつむり、頭をフラつかせていう。


 ……一香ちゃんって、こういう子だったっけ……?


 いや、ちがう気がする、なんだろう……


「と、ところで、パーティを組むとどうなるんですか?」


「そ、そうですね……パーティを組んでいると、誰かが手に入れた経験値が等分されて貰えます」


「後衛の人も経験値が貰えますよ、これも魔法のシステムですね」


「なるほど。遠方で仲間が『うおおお』とかいって、激戦をくり広げているのを尻目に――路傍におちている珍しい石を眺めながら、お尻の痒みに耐え切れず――その手を臀部に伸ばしていても、経験値がもらえるんですね。素晴らしい……」


「ダメですよ、ちゃんと戦ってください、パーティーを追い出されますよ?」「それから、経験値をもらうのにも、距離などで限界がありますから、注意してくださいね」


「はーいデス」


「わかりました」


 ちょっと冗談を言ってみただけなんだが。注意されてしまったな。


 うーん。生真面目なひとなんだな。


『では、次は戦闘をしながら説明しますね』


 ララさんとリリさんの二人は同時にいうと、少し距離のあるダサねずみの方をみた。

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