第9話

 俺は理解がおいつかなかった。


「なんでかすっただけで、そんなにダメージをうけるんだよ!」


 剣を使ってねずみをけんせいし、同時に斬りつけながらきく。


「ガイドブックによると、この世界のダメージはヤキソバのいた世界とは違って。肉体の強さとはあまり関係ないみたいナノ。BPによって決まるみたいだよ」


「BP?」


 俺は戦いながらきく。


「BPバトルポイント。攻撃力でもあるし防御力でもある。BPが高ければ攻撃力が高いし、防御力も高いって書いてあるなの」


「……マジかよ!」


 先に、この世界のルールを把握すべきだったか……


「そうだ! HPを回復する手段は? どうしたらいい……?」


「いま、もってくるなの!」


 フェリリはアイテムボックスから、緑の箱を取りだし、中身の草をもってきた。


「薬草なの!」


 俺はそれを左手で受けとり――口へいれた。


「に、にげえ……!」


「どんどん食べるなの!」


「くそ苦くて一度にくえねえよ……!」


 苦いうえに、のどが拒否感をおぼえて、飲みこめねえ。


 俺は、右手の剣で相手を攻撃しつつ――後退しながら左手で薬草をたべる。


「『味がダメな人は、調味料をかけて食べるといい』って書いてあるナノ」


 フェリリはガイドブックをみながら、しゃべりつづける――


「なんだよそれ! そんな時間ねえよ!」


「HPが一〇〇ポイント回復したなの。あとヤキソバのHPは二四〇なの!」


「さっきの敵からの被ダメージは一七〇だから、余裕ができたな」


「ヤキソバ後ろナノ!」


 俺は後ろをふり返った――そこには俺の背丈ていどの高さの、洞窟の入り口がせまっていた。


「やべえ! 薬草に気をとられ過ぎた」


 こいつのホームグラウンドであろう洞窟にはいったら、逃げ場がねえ――洞窟の入り口の左右は、俺の胸くらいの坂になっている――ここを登るしかねえか、ねずみはもう目の前だ、時間がねえ――俺は剣を左手に持ちかえると、洞窟を背に、右手側の坂、その最上部に右手をついた――坂の真ん中ふきんに右足をかけると、足に力をいれる――すると、土でできた坂の表面はくずれ、俺は足をすべらせて坂にもたれかかる――そこに興奮して口をあけた、ねずみの左前足がおそいかかる――


「――危ないナノ!」


 俺の近くに飛び込んできたフェリリが、ねずみに何かをなげつけた――みると、ねずみは何かを咀嚼そしゃくしている――俺はそのすきに坂をかけあがり、敵の背後に回りこんで、右手に持ちかえた剣で斬りつける――敵がこちらに向きなおるが、両の前足を自分の口につっこんで、何かをしている――


「お菓子を口中へ投げつけたナノ。前歯をみがいている内に攻撃するなの」


「おう! サンクス! ……あと相手のHPどのくらいだ……?」


「二一〇なの!」


「よし。このままなら勝てる……」


 逃げる気はなかった。


 逃げたらせっかくここまで削ったのが、全部無駄になるからだ。


 敵を斬りつけつづけていると、急に俺の右手が黄色に光る――。


「……なんだ?」


「いま調べるなの!」


 もうちょい。


 もうちょいだ。


 たぶん、あと十回もないだろう。


 俺は剣をふりおろす――


 すると、ねずみの振った前足とぶつかった。


 にぶい音がひびき、電気のような発光。


「ヤキソバが一五〇ダメージ。受けたナノ! 残りHP九〇!」


「なんでだよ!」


「『敵の攻撃』と『自分の攻撃』が、かち合うと――相殺されたり、互いにダメージを受けることがあるナノ!」


 マジかよ!


 これじゃリーチが長いからって、安全圏って訳でもないんじゃねえか……


「お菓子はもうないのか?」


「もうないナノ!」


 俺はさがりながら、ふところから薬草を取りだそうとした――が、あせりから足元の大きめの石に、けつまずいてしまう――尻もちをつく俺――そこへ、敵がおおいかぶさる――


「やべえ!」


「ヤキソバ! 分かったよ――光ってる手は『技覚醒』なの――何かデタラメに技名をいうなの!」


「じゅ、十文字切り……!」


 右手の光は、剣をつたい全体にひろがると――剣と右手は勝手にうごき――むかって敵の腹部の左から右――頭部の上から下へ閃光がすばやく走り――光は十字となり、やがて、ほとばしるように消えた……


「ヤキソバのBP六二〇! ダメージ一六六! 一八〇なの!」


「な、なるほど……。技をつかってる間はBPがあがるのか……」


 俺は倒れるダサねずみを見下ろしながら、冷や汗をたらし言うのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る