-4章-おわりのみえない戦い

名古屋激闘編

第41話-池下という街


二月末日。


街の至るところに警察官が配備されていた。

表立った指名手配こそ行われていないものの、それが久屋やフラリエを探しているのは明白な事実だった。


錦の隠れ家への出入りすらも危険に感じた久屋は、一行の隠れ家を更に名駅エリアから離れた、池下のとあるBARへと移した。

池下は、ひと昔の名残を感じる…ある時代の新しさが、色濃く残る街だ。

懐かしい時代を感じる店内には、常にロックが流れる。

秘密の空間のマスターは、意外にもココと名乗る女性、米田 豆子の顔馴染みであった。


一行は焼きそばをすすり、敵の能力や今後の作戦を話し合い、来るべくその時に備えていた。

何度食べても飽きない味だった。


そんな店に、見慣れぬ客が訪れる。


「こんばんは、やってますか?」


歳の頃25歳ほどの細身の男は、そう言うと入口からすぐ左のカウンターに腰を下ろした。

ヒデヨシの仲間…どころか、地元の人間でも無さそうだった。



警戒こそ怠らなかったが、久屋たちは作戦会議に戻った。

どうせ一般人が聞いても、理解の及ばぬ話である。


…と、思っていた。

しかし、男は唐突にこちらを向き、目を輝かせた。



「君たち、それはアニメやライトノベルのよくある設定や能力の話ではない。そうだよね?」



少し驚く素振りを見せてしまったが、久屋は冷静さを保って答える。


「いや、アニメの話だよ。あまり有名な作品ではないがね。」


だが男は、止まらなかった。


「いや、それは嘘だ。なぜなら僕が知らないアニメなんて無いからだよ。」





男は、いわゆるアニオタであった。

いや、アニメだけではない。萌え系美少女が出ていようが出てこまいが、全てのアニメを視聴し、ライトノベルを読み漁り、自らも創作活動をするタイプのオタクだった。

熱く語りだした男は、もう止まらなかった。

男は名古屋市内に住み、大須商店街に通い、ほとんど世の中に出回ることのない「名古屋」を舞台とした小説を書くためだけに、運送屋の管理職というある種安定した生活を捨て、単身名古屋の地に降り立ったのだ。


「君たちの話は、僕の憧れそのものなんだ。もっと聞かせてくれ。」


絶対に敵ではない事はわかるが、圧倒的なウザさを持った彼の熱量篭る気迫に負け、私達の邪魔と秘密を守るという約束の元、久屋は男が話に加わる事を許した。


敵…ヒデヨシは、間違いなく1人の敵だったが、ここ数日街に増えた警察官も、ヒデヨシの協力者であることは間違いない。

ヒデヨシという存在が、結局何なのかわからないが、しかし敵にもこちらの情報はまだ全て知られていない。

簡単に手は出せないはずだ。



しかし、必ず「その時」はやってくる。

この男…神戸 灘と名乗るオタクも、役に立つ時が来るかもしれない。

多勢に無勢。1人でも仲間は多い方がいい。



…今揃っている情報の整理が終わった頃、白鳥 八熊が静かに言い放った。





「…明日、ついに動きます。」

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