久屋 錦の話

第23話-理由


私は、長い間この街を見守り続けてきた。

誰の為でもない。ただ、私がそうしたかったからだ。

人生とは長いようで短く、楽しいようで単調だ。

そんな矛盾が成立しているからこそ、人の一生は面白いのだろう。

人生について考えはじめてしまうということは、今、私には生きる意味が見い出せていないということだろう。

この街は好きだ。

だが、それだけで何になるというのだ?





そんな私は、何を見るわけでもなく とある展望室から外を眺めていた。

あぁ、今日も今日が終わる。

沈みゆく太陽はどこか儚げで なんて書けば小説らしくなるんだろうか。

目を細めて陽光を見つめていた視線をふと落とした先に、彼女はいた。


一緒にいる少女から、決して離れずに歩く少女。

私はその少女を見るのは初めてだったが、後から聞けば、この街では割と知っている人も多いらしい。

一目見た時の感想としては、不思議な少女だ と思うに留まった。





展望室から見る夜景は、たとえ雨の日でも美しい。

一日中見ていてもいいくらいだ…しかし


「先生、そろそろ…。」


「…君は時間に正確すぎるね。優秀な助手だよ。」



私の名は、久屋 錦。

名古屋を愛し、守るための…探偵社のような仕事をしている。


そして…助手の彼は、また時間のある時にでも、ゆっくりと紹介する事にしよう。



「それで、報告というのは?」


「先生、先日の三重の山中での事件は、やはりヒデヨシの犯行で間違いなさそうです。」


ヒデヨシ…これは通称というやつで、我々が追っている犯罪集団の名である。

現在何名がヒデヨシと名乗る集団に属しているかも、目的も不明だが…残忍な手口で人を殺め、しかし金品を盗る事は無い。

これまでにも、名古屋の要人…しかも、なかなか表の世界には出てこないような人物が幾度と無く狙われ、暗殺されている。


ヒデヨシ…ふざけた名前だ。

英雄の名を騙る不届き者は、絶対に許すわけにはいかない。

警察が目立って動いていない所を見ると、何か裏で繋がっているのかもしれないが…、私がこの街にいる限り、好きにはさせない。



「被害者は、名古屋在住の…会社員だったな。」


「はい。」


「これまでの被害者との繋がりもない。被害者の会社は、どこだ?」


「それが…どこを調べても、そんな会社は見当たらないんです。」



「なんだと…。」


「家族も数年前から別居中。名古屋には住んでいますが…」


狙われる理由がわからない被害者。

つまり、この被害者が狙われる理由がわかれば…、奴らの目的もわかるのでは…?



「この件は最優先で捜査に取り掛かろう。いいね、八熊くん。」

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