第2章 戦場の呼び声 士官学校編

第2章 1節


25年後〜某国軍大学授業にて〜


その人物が記録に初めて登場したのは、

今現在から凡そ30年前の事。


その人物は幼年学校時代から高い資質を各分野から評価され、その後、士官学校にて様々な新理論を提唱した事で各種新装備の実証試験を行う後方部隊に配属されたにも関わらず技量と実力、知略から凄まじいまでの戦果を上げ続けた。

正規の交戦記録に残るARMSだけでも撃墜数は268機。

基本的に中隊単位で撃退するべき戦術級、若しくは戦略級ARMSについても単騎撃破3機、共同撃破に至っては14機に及ぶ。


その人物についての記録は当時の戦乱等に巻き込まれた結果散逸しているが、出会った部隊の生き残りの少なさから、様々な戦場の噂話として敵味方問わずに畏怖の対象となったとされる。


曰く、共和国軍の殲滅兵器。

曰く、味方を巻き込んでも攻撃に移る狂人。

曰く、凄絶なまでの愛国者。


終戦前の作戦に従軍した事は記録されているが、その後の足取りは確認されて居ない為に戦死したともされる。


今日の講義はこの人物を主題とする。


その人物の名はー




「エレナ!お疲れ様!」


士官学校入学から一ヶ月。

幼年学校から推薦を受けて共和国軍士官学校に進学したエレナは士官候補生となった。

その容貌等から様々な噂が流れたが、流石に半月程の頃から鎮静に向かっている。

エレナ自身からしてみれば気付いたら噂されていた程度の認識なのだが。


「メアリー!貴女まで同級生に避けられてしまうから出迎えは良いって言ったのに……」


最大の変化は士官学校からの入学生達。

国立ではあるものの徴兵対象とはなり得ないが故に学費の発生する幼年学校は富裕層が主に入学生を占める。

だが士官学校からは兵役の一環として俸給が発生、一般的な生活が保障される為、若年貧困層の入学希望者が大半を埋め尽くすのだ。

勿論、士官として素行が不適格な生徒は入学試験での不合格や在学中の退学となるのだが。


人数の比率は幼年学校組が75人に対して新規入学組が175人。

一部生徒に至っては予備知識すら存在しない中で3:7の人数比率は人材が前線に送られるこの共和国ではカリキュラムにすら影響を及ぼす。

そこで士官学校では幼年学校からの推薦入学者の中から成績優秀者を選定、新規入学組を率先して指導する役割、則ち指導生を割り振る事になっている。

故に。


「私の為にって走り回ってくれてるエレナを誤解する様な人には言わせとけば良いんだよ!」


成績優秀者の筆頭として進学したエレナが指導生に選ばれるのも、必然であった。

だが。

改善はしたものの未だに幼年学校生の大半に避けられ続けていたエレナの生徒間での評判は悪いままであり、当然彼女の担当する生徒は集まらず。

指導生毎に行われる生徒募集の締め切りまでにエレナを指導生に指定して申し込んだ士官学校からの入学生徒は唯一人となる。


「折角私に申し込んでくれたんだ。やれる事はやってやりたいじゃないか。」


寡黙、無表情で周囲の大半に避けられる。

その様な自分の所に誰が来たがるのかと思っていた。

だが、目の前で憤慨している同級生は実利の為とは言え自分を頼ってくれたのだ。

ならば、自分に可能な全力で応える。


「頼りにしてるよ、エレナ!」


例え、その同級生が敵国のだったとしても。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る