第1章 4節

アリンフォート幼年学校第58期生の入学から5年が経過した。

エレナと同期の生徒達は

兵科専門科目の履修を開始し丁度3年。

そして卒業、進学が今年度である。

ARMS操縦者として前線士官の専門科目に入った者達は今、アリンフォート郊外の演習場で進学先である士官学校との交流演習に参加していた。


「全機搭乗完了したな?

今回は幼年学校から最高学年も参加する交流演習だ。

厳しい訓練を受けている士官学校生徒は訓練が比較的楽な筈の幼年学校生に撃破判定を食らった場合、罰として今日のトレーニングを倍にする。」


珍しい女性教官の声が条件を告げて行く。


「逆に幼年学校生は士官学校生を倒せば後で美味い夕飯を奢ってやる。積極的に行け。

勝敗条件は自チーム以外の全機撃破。」


通信機越しに響く歓声が幼年学校生徒の士気を表すが、同時に士官学校生達の意識を敵愾心一色に染めた。

トレーニング2倍は負けられない理由としては十分である。


「回線は私との一つと自チーム用の一つだ。他は一切を封鎖する。」


訓練場に並んだ鈍色細身のARMS'プロトヘリアル'は18機。

その内6機は幼年学校所属である為、左肩を赤く塗装されている。


「幼年学校所属機体に変なのが一機混ざってるが、事前に申請された幼年学校整備課謹製の改造機だ。」


左肩が赤い機体の中、話題に上った機体に注目が集まった。


「実戦で言う現地改修機だが、一応動作は確認済みだ。寧ろパイロットの成績からチームリーダーだし、エースとして手強いと思え。

では作戦を各リーダー、発表しておけ。」


先程注目の集まった機体の奥、操縦席に座ったエレナは溜息を吐いた。

こんな事を言われては士官学校側は間違い無く集中砲火を浴びせに来るだろう。

元々'プロトヘリアル'には無いよりマシ程度の廉価な軽量装甲材質しか採用されていない。

その上エレナは自分の技能を活かす為、構造上必須で無い装甲の全撤去とセンサーや内装系の強化を整備課に申請していた。

つまり、最悪一撃でも貰うと撃墜。

尚、崩れた機体バランスはバランサーのソフトウェアから修正されたが、外見は異様な形に落ち着いた。


「幼年学校チーム各機……聞こえる?」


エレナはチーム内の通信回線を開き、口を開いた。


「作戦を説明します。」




演習の準備が終わり、演習の開始位置へと全機が到着した。

季節は秋、時間は夕方で天候は快晴である。

演習場は深い森に包まれた直径6km程の円範囲。

疎らに高い木が見える。

遮蔽物としては利用し難い。だが目隠しの類としては使える程度。


演習区域外への退避準備を整えた教官が信号拳銃を草原の中心へ向け、発砲する。


「時間だ。演習を開始する!」




演習開始の信号弾を確認した士官学校チームは、偵察として6機を利用、発見した敵機への長距離狙撃を狙撃を得意とする3人のパイロットが担当する作戦をとして起案、採用した。

尚、予備戦力として3機を待機させている。

その15分後。


「此方3番機、敵機発見。例のエースだ!」


偵察に出たプロトヘリアルが疾走するカスタムされたプロトヘリアルを発見した。

演習用の旧式ライフルにペイント弾を装填し、発見した敵機の胴体部分に向けて立て続けに6発、発砲する。

士官学校チーム3番機のパイロットは直撃を確信した。

だが。


「3番機!油断するな!」


弾丸の直撃コースに有った機体ははサイドステップして弾丸を回避、次の瞬間模擬戦用に刃を潰されたARMS用ダガーが投擲され、有無を言わせず胴体部分への被弾判定が成立、停止信号により機体が停止した。


「先ずは一機目……」


機能停止した3番機の横に落下したダガーを疾走したまま前傾姿勢で拾い上げ、頭部センサーカメラが周囲の敵影を探す。

敵陣が何処に在るかは判らない為、偵察機を探してその展開位置から元々の出発地点を推測する。その為にも、後2機は発見、撃墜判定を与えなければならない。

今回起用した戦術自体は前世から知っている有名なモノだ。

このプロトヘリアルカスタムにはハンドガン以外に銃火器が搭載されていない。

元来アリン共和国から設計された拳銃の性能は高く、その性能はサイズアップされたARMS用の旧式ハンドガンにすら引き継がれている。

装弾数8発、その有効射程距離は凡そ40m。射程距離の内側であるなら250mm厚の装甲板をも撃ち抜く性能を誇り、重装以外のARMSならば胴体部分に当てるだけで十分に致命傷となる。ペイント弾での判定も同じ筈だ。

故にその弾は温存し、可能な限り格闘戦で時間を掛けずに偵察機の襲来する方向を特定しなければならないのだ。


「来た。」


自機が向いている方向から左手25°距離800mに機銃を担いだ制圧仕様が一機、右手34°距離1500mに先程の機体と同じライフル装備が一機。

最悪の想定は残りの姿の見えない機体が全て狙撃装備である場合。幾ら反応速度や駆動系の改造を行っても流石にそれだけ撃たれれば反応し切れず仕留められる。


疾走していた機体に踏み込んでいたフットペダルを離す事で制動を掛けさせ、位置関係から敵拠点を地図上から算出しようとした刹那。


閃光が奔った。

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