即興小説集

@Rike_rike

地獄の騎士と湖の妖精



 或るところに、地獄の騎士がいました。

 彼は嘗て王国の優れた騎士であり高い理想を持った騎士でありました。しかし、現実――王国の腐った内部事情――に傷付き、理想を踏み躙られ、王国を去ったのでした。

 王国を去った彼はやがて地獄に行き、そこで恐るべき闇の力を身につけ、地獄の尖兵として各地で暴れ回っていました。


 或るところに、湖の妖精がいました。

 彼女には想い人がいました。ショックを受け、王国を飛び出した――やがて地獄の騎士となる――あの騎士でした。

 その彼にひとめぼれし、以後、彼女は彼をずっと想い続けていました…地獄の騎士になったということを知った後でも。


 やがて彼らは出会います。

 彼女は彼への愛と、彼の苦しみの声が聞こえていたことを告白します。

 彼は最初、戸惑いつつも彼女の愛を受け入れ、彼女の魔法によって地獄の騎士から湖畔の騎士へと生まれ変わったのでした……。



 ……これが、一般的に御伽話で知られているお話です。でも、実際はそんなに幸せとはいかなかった様です。


 地獄の騎士となった彼。最初は闇の力を手に入れたことを喜び、ひたすら力を振るっては更に闇の力を手に入れることを繰り返していました。

 ですが、やがてその動機が力の欲求から逃避へと変わりつつありました。というのも、ある時から過去の記憶が自身を責め立てる様に思い出すようになったのでした。

 彼は過去の記憶を消そうとして――時にはその記憶を思い出す彼自身の自我を壊そうとして――あらゆる手段を試してみたものの、効果は全くありませんでした。


 彼はある日から、奇妙な敵に出会うようになりました。それは……嘗て王国の騎士であった彼自身でした。王国の騎士時代の彼は毎度こう警告します。


「いずれ、お前に恐ろしい破滅が待っているだろう」


 闇の力に手を出した彼には分かり切ったことでしたが、それでも彼は「それは、お前が予想できない形での破滅だ」と言い、警告を止めませんでした。

 毎度の警告に加え、彼を苦しめている過去の記憶が姿形を取っていることが彼には許せないのでした。彼は嘗ての自分を打ちのめしましたが、何回やっても何回やっても、また現れては警告をしていくのでした……。


 ある日、彼は見知らぬ場所で目を覚ましました。彼の側にはあの湖の妖精が付き添っていました。彼女が傷付いて倒れた彼を住処である湖の底に連れて行き、介抱したのでした。

 彼はここから出たいと彼女に言いましたが、彼女は聞く耳を持ちません。逆に彼女は「貴方の苦しむ声がずっと私に聞こえていた」「貴方には私が必要なの」等と、身勝手な理由で彼を縛り付け、閉じ込めてしまったのです。

 身動きの取れなくなった彼は、助けを求めようとします……が、誰に助けを求めていたのか思い出すことが出来ません。

 それどころか、何の為に闇の力に手を出したのか……自分自身をあんなに責め立てていた過去の記憶が無かったのでした……。



 湖の妖精によって取り出され、追い出された過去の記憶――王国の騎士時代の彼であり、今や湖畔の騎士と呼ばれる彼――は湖にて待ち続けます……。

 彼女に閉じ込められたあの彼を……。



参考文献

「地獄の騎士と湖の妖精」

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=175401

(2016年4月26日)

お題:怪しいオチ 制限時間:2時間 文字数:1313字


更新履歴

2016年4月29日:中黒をリーダーにした。

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