第48話 翔子

―――


 ハアハア……ハアハア


 どれだけの数だったんだろうか。世界中ちきゅうから奴が集め直した死体は。執念だな。


 ハアハア……ハアハア


 次の部屋へとまた屍を踏み越えて行く。次の部屋はどうすればいいんだろうか……まだただの死体のはず。俺が何かするべきじゃない。かといって元の場所に戻せるわけじゃないし。

 迷いながら扉の前についた。ん? あれ?

 メガネはすっかり壊れたと思っていた。何かの衝撃で元に戻ったんだろうか。さっきのあいつはもうガスを次の部屋にまいていたんだ。メガネの画面には隣の部屋にある無数の点滅を表示していた。


 ハアハア


 息を整えて右手は銃を構える。左手は扉のボタンの上に置く。

 すでにもうボロボロだ最後に引き金が引けなくなるまで俺は撃つ。そのためにここに送り込まれたんだ。そういう終わりなんだ。死ねるのかわからないけれど、終わりがないことの方が恐ろしい。ここで俺も瓦礫の山と埋もれよう。翔子と共に……。


 ボタンを押す。今度も静かに扉が開いた。


 そこにはまだガスがあったのだろう。もうもうとした煙があった。俺は念のために煙を吸い込まないように左手腕で口と鼻を覆い、多分まだガスが足りていなかったのか、まだ途中なのか、起き上がってもいない死体や起き上がりかけの死体や、起き上がってもいつもとは違い動きが遅い、まるで壊れたロボットのような動きをしている元死体が目に入った。

 まだ途中……時間が……そうか! 時間だ。奴らの攻撃には時間がかかった。次の間隔まで三十六時間だ。死体が兵隊へと姿をかえるのに三十六時間かかったんだ。あの動きでは使い物にはならないから。一定の間隔はそのためだったんだ。

 まだ途中だとはいえ、時間が経てばさっきの奴らと同じになる。放ってはおけない。無防備な相手に撃つのは気が引けるけれどそんなこと言ってられない!


 俺は向けていた銃口をもう一度狙い定めた。引き金を引く。


 ズギューン

 ドゴーーン


 ズギューン

 ドゴーーン


 ズギューン

 ドゴーーン


 一度引いてしまえば何のことはない、いつもと同じだ。俺は点滅に向かって引き金を引き続ける。


 ズギューン

 ドゴーーン


 ズギューン

 ドゴーーン


 ズギューン

 ドゴーーン


 何度も何度も点滅がなくなるまで………。


 何時の間にか気を失っていたようだった。気づけば扉のところにいる。メガネにはもう点滅は写っていない。

 終わったんだな。全て。



 俺はまた引き返した。点滅はもうない。どこかの世界パラレルワールドの異常な博士も死んだ。もうここには用はない。

 けれど、足はさっきの博士の研究室を目指す。

 少し眠っていたからか体は少し軽くなっている。あのガス相当吸ったようだけど、死体でないからいいのか?


 研究室のドアは開いたままだった。中へと入って行く。翔子……翔子……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る