第31話 ズタボロ
無傷だったのが良かった。そういえば怪我をせずに移動なんて初めてだな。なんてのんびりした事を言ってられない。玄関の扉への襲撃は止まっていた。俺たちを攻撃する方に敵が回ったからだろう。
扉を開けてあちらの世界の状態を見る。そこにはオロオロといつものポーカーフェースを崩してまるでお産に立ち会う夫のような博士がいた。
「樹君? どうしたんだね?」
「あっちはだいぶ片付いたのと、こっちのほうが心配だったんで、じゃあ! 行ってくるから!」
説明しているのも煩わしいほどの点滅が目の前にちらついている。
「ああ、頼んだよ」
「ヒナタが危険なら知らせて!」
返事を聞く間も惜しくメガネのボタンを押す。
博士の幻覚で見せている偽物の家の前に移動した。そこはさっきと変わらない光景が広がっていた。ただし博士の家の幻覚は見破られていたために、そこにも敵がいたが。家の中にうじゃうじゃと敵がいる。こっちはあとで補修費が国から出る。それに、もう人々は逃げているだろう。あとは翔子達の居場所がわかれば銃を使えるんだが……そうか。
ブシュ
ブシュ
敵を斬りつけながら進み博士の家の前の道を横切り道の反対側の歩道まで来た。博士の家の真正面だ。
銃を取り出して、できるだけ博士の家の中心を狙う。
ズギューン
ドゴーーン
幻想の家の中にいた敵も道をふさぐようにしていた敵も宙に舞っている。その間にも左右からの攻撃をかわして斬りつける。なんて戦場だろう。
だけど、これで翔子達に俺がこっちに来ていることは伝わっただろう。
さっきまで敵の死骸しかなかった場所にまた敵が群がってくる。
左右に銃口を向けれないのは残念だ。またあっちに敵を送られている。メガネで確認しなくても目の前で敵が消えていっている。博士の家の玄関の扉がどうやら移動する場所になっているみたいだ。そこから敵が消えている。
ブシュ
ブシュ
後ろは家の塀に預けて左右と正面の敵を斬りつけて、撃つ機会を伺う。あまり悠長にはしていられない、あっちにはヒナタしかいないんだから。
今だ!!
ズギューン
ドゴーーン
幻覚の家の地面も削られるはずなのに、手前の道路のアスファルトしか削れない。博士の封鎖は相当厳重にされていたんだろう。なのに、パラレルワールドに侵入して破られてしまった。俺の世界から。きっと俺の世界はわけのわからない生物に攻撃されて混乱状態になってるだろうだろう。ヒナタは大丈夫だろうか。
そんな間にもワラワラと博士の家の玄関の扉を目指しているんだろう、道の左右から現れる敵、敵、敵。さっきのように左右の道を狙いたいが、翔子達の居場所がわからない。右で銃声がしているからそちらにレイナがいるんだろうが、他に戦闘している音はしない。どこにいるんだ? 翔子!
また、隙をつくように銃口を向ける。
ズギューン
ドゴーーン
博士の玄関前だけ凄い惨事になっている。アスファルトはめくれ上がりデコボコな残骸が捨て去られているようにしか見えない。
そろそろ左右の敵の切れ目が見えてきた。永遠に襲われ続ける感覚でいたんで、正直ほっとした。終わりがあるっていいよな。
レイナの姿も見えてきた。
周りにいる奴らを切りつけながらレイナに近づく。翔子は? 翔子はどこなんだ?
「レイナ!」
「やっぱり樹だったんだね。むこうは?」
「あっちはヒナタに任せてきた。それよりも翔子は? 翔子はどうしたんだ?」
すっかり住宅街が見回せるほど敵の数が減ったのにそこに翔子の姿はない。
「わからない。来たら凄い数の敵で」
そうだろうな。俺が来た時も凄い数だった。道一面にいたんだから。
「一度も見てないのか?」
それでも俺は諦めきれない。こうやって敵を倒していけば行くほど、視界が良くなっていく。そして、見えてくるのは翔子がいないという現状だった。
「う、うん。ごめん」
「いや」
レイナのせいではない。それに割り振りしたのは自分だ。そして、襲ってきたのはやつらだ。
まだだ。まだ何処かにいるかもしれない。負傷して敵の死骸に埋れて倒れているのかもしれない。
俺は闘いながら翔子を探す。
「翔子!」
後ろでもレイナが探しているようだ。
「翔子!返事して!」
とうとう点滅は全てなくなった。
それでも銃も刀も仕舞い込んで死骸の山を踏み分けて翔子を探す。どこかに埋れてるんだ。早く治療しないと!
「樹! 樹!」
何時の間にかヒナタがこちらに来ていた。ということは向こうも全滅させたんだろう。相変わらず強い……そうだ翔子も強い……やられたりなんかしない……はず、なんだ。そんな、はずはないんだ。
「翔子が……探さないと………」
「樹、人が戻ってくる。翔子を探すのはその人達に任せよう。樹も休まないと」
「俺はどこも怪我してない!」
「気づいてないの? 背中も腕も肋骨もこんなにズタボロなのに?」
「え?」
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