こっち来ないでください! 2

「だ、旦那様が外に! やったぁ!」


「こらぁ! アタシから逃げんじゃねえわよ!」


 それでも構わず、ハーデスは走る。ケルベロスも一緒だ。

 ハーデスは自分の足できちんと走っている。愛犬の背中に乗ることも選択肢の一つだろうに、何故かその方法は選ばなかった。


「……俺に乗らないんスか?」


「い、いや、それは動物虐待かと思って」


「珍しくハーデス様からまともな台詞が出たッスね」


「そ、そう? って、仲良く話してるじゃ場合じゃないよ!」


 後方。怒号を上げて、猛烈なスピードで追いかけてくる影がある。

 ヘラだ。


「ごるああぁぁああ! 逃げてんじゃねえわよ! あとそこの犬! 捕まってアタシのペットになりなさい!」


「い、嫌ッスよ!」


 ケルベロスはハーデスを咥えると、無理やり自分の背中に乗せる。

 風を切るように走る、三つ頭の犬。趨勢すうせいは一気にハーデスへと傾いて――


「待てっつーの!」


「ちょ、ちょっと!? どうしてケルベロスより速いのさ!?」


「母の力よ!」


 わけ分からん。

 しかし本気を出したヘラは、徐々にハーデス達との距離を詰めていく。


「け、ケルベロス、もっと速く! ハイヨー、ハイヨ―!」


「俺は馬じゃねえッスよ! 犬ッスから!」


「じゃ、じゃあ……ゆけっ、ケルベロス!」


「ポケ○ンにも出てないっすよ!」


「いや、頭三つのモンスター出てるじゃないか!」


 でもそれはドラゴンです。

 あーだこーだと口論を繰り広げながら、ハーデス達による必死の逃亡は続いた。足を止めて謝罪する、なんて意見は出てこない。即デットな予感がするし。


「待てコラー!」


「もう女神から転職してよー!」


「アンタは今、ギリシャ中の女神を敵に回したわよ……!? こんな情熱的な女を否定するなんて!」


「えええ!?」


 訳も分からないまま、あと数分で追いつきそうなところまで女神は迫っていた。

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