兄に勝る弟などいないっ! 3

「あ、ああ、パンドラちゃんのことだね」


 見かねて助け船を出したのは、ハーデスだった。


「そうです、パンドラ。あんな美少女を作れるのは僕ぐらいなもんだろうね」


「そりゃあ兄貴、土から女を作れるのはアンタぐらいだぜ」


 ここは素直にアレスも褒めた。

 パンドラのことは、箱、といえば分かる人も多いだろう。あらゆる悪が詰まってしまった箱を開けた、ギリシャ神話における地上初の女性である。


「でもよお兄貴。あらゆる悪の根源、って言われる人間の女を作っても自慢にならねえだろ?」


「な、何を言ってるんだ!? アレは作者が勝手に書いたんだぞ!?」


「ヘシオドスさんですね」


 同じ女として黙ってられなかったのか、静観気味だったペルセポネが声を上げる。

 ヘシオドスとは、古典・神統記でお馴染みの詩人だ。パンドラが箱を開けるというエピソードやら、その他にも様々なエピソードを語ったことで知名度は高い。


「まったく、どうしてパンドラちゃんを悪者にするんですかね。名前からして、旦那さんの方がやらかすでしょ」


「ああ、エピメテウス君ね。プロメテウス君の弟の」


 後知恵の弟、先見の兄。

 エピメテウスは何事も、後から考える男だった。パンドラが彼の元に送られた時もそう。兄から、ゼウスの送り物にか警戒しろ、と言われていたにも関わらず、彼女を迎え入れてしまうのだ。


「彼女が持ってた箱、絶対にエピメテウスが開けたんですよ。だって下種の後知恵君ですよ? 開けるな、って言われてた箱を、パンドラちゃんが好奇心だけで開けるとは思えません」


「まあヘシオドス君、大の女嫌いだからねえ……」


「酷くありません!? そんな個人的な感情で、後世までパンドラちゃんが悪い子あつかいされてるじゃないですか!」


「……呼ぶ?」


「え? 呼べるんです?」


「まあ転生してなければ、いると思うけど……」


 言っておきながら、ハーデスはさっそく面倒そうな顔になる。

 転生待ちの魂なんて、ハーデスの元には大勢いるわけで。そこから一人、ひょっとしたら転生済みの魂を探すのは、ちょっとどころかかなり苦労だろう。


「――やっぱ止めよう」


「すっごく無責任ですね、旦那様!」


「だ、だって、どうせ我が探すんでしょ? 疲れるし、面倒くさい……」


「控え目に言って仕事辞めたらどうですか!?」


 まったくだ。

 でもさすがにショックだったようで、ハーデスは項垂れている。

 傍から見るとペルセポネが母、ハーデスが息子みたいな構図だった。

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