ようこそタルタロスへ 10

 宴会は進んでいく。いや、いい方向に歯止めが効かなくなっていく。

 隣りにいたクロノスは、大勢のティターン神族と共に飲み比べをしていた。いずれもとんでもない酒豪っぷり。オリュンポスの神々に敗北したとは思えない、風格のある連中だ。

 ハーデス一行は完全に傍観者である。まあ無力で食事にありついている以上、文句は言うまい。


「……しかし、どのタイミングで帰ろうか。我、そろそろゲームがしたくなってきたよ」


「ていうか、ペルセポネ様も地上に返さないとまずいッスよね」


「うん……」


 やっぱりハーデスは意気消沈。想定外の再会は、彼も手放したくないらしい。

 主人のため、ケルベロスは思案する。なにか良い方法はないだろうか? ペルセポネの母であるデメテルが、きちんと仕事をしてくれればいいのだが……。

 しかし、そこには神々の取り決めが関わってくる。変更するにはオリュンポスへ赴き、ゼウスへ直談判するべきなんだろう。


「旦那様、ここは私たちから行動を起こしましょう!」


 ケルベロスの考えを代弁するように、ペルセポネが握りこぶしを作って言う。


「こ、行動って?」


「つまり、地上を永遠の冬にするんです! そして人間を全滅寸前に追い込めば、ゼウス様も焦るに違いありません。そして冥界は人口が増えて豊かに! めでたしめでたしです!」


「いや、それは駄目でしょ!?」


 まっとう過ぎる意見だった。

 しかしペルセポネは不服のようで、えー、と皺を作っている。


「むむぅ、他に方法はありませんよ? 大丈夫ですっ、人間なんてそのうち増えますから!」


「ひどい発言だなあ……」


「ひ、ひどくないですっ! もし私を批難するなら、旦那様の意見をお聞かせくださいっ!」


「そ、それは……」


 オロオロするだけで、何も言えないハーデス。

 そんな時だった。


「伯父貴ィ!」


「伯父上ェ!!」


 などと。

 面倒な甥たちが――軍神アレスと鍛冶神ヘパイストスが、宴会の席を駆け抜けていた。

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