妖怪の蘊蓄

今作品では日本全国に出没する妖怪が多数登場します。その中から抜粋して、特に主人公たちと関わりの深い存在についてまとめています。


●八岐大蛇

 日本神話を象徴するともいえる八首を持つ竜。「ヒュドラ」とも呼ばれ、現代では数多くのゲームや漫画等に登場しています。作品のタイトルにある「八百万」は「数多くの」を意味する言葉ではありますが、この言葉を使ったのも、やはり大蛇の存在も少なからずあったといえます。

 大蛇に関する神話は『古事記』といった歴史書にあるように、高天原から追放された素戔嗚命が酒で泥酔させて退治するという話が有名。資料では山陰地方に出没する妖怪として載っていましたが、今作品における大蛇は、“神”としての意味合いが強いです。

某少年漫画作品で“八岐大蛇は川の化身”という解釈があるように、大蛇が象徴する属性は“水”です。実際、神話に出てくるクシナダ姫も稲といった作物を司ります。“水”であり“川”である大蛇は自然そのもので、素戔嗚がそれを退治する事で「自然を制する」意味合いがある―――――そういう解釈を何かの資料で読んだ事があります。そういった解釈から、皆麻は「神に退治されても世界中にあふれる水のため、どこかしらに存在はしている無限の存在」として、“水神”という解釈で執筆させて戴いています。

 八那や父親の酒呑童子が身をもって味わう大蛇による“血の記憶”ですが、神とはいえ、神話時代は竜の形をとって人の世界にいた。神とて心を持っているだろうし、(神話の具体的内容を読めばわかりますが)刃物でやられるのは実際だとかなりひどい所業。それであれば、恨みが記憶されるのも道理かなと考え、フィクションとして設定しております。実際、素戔嗚は正面から打ち倒したのではなく、正直汚い手段を使って大蛇に勝っていますしね。


●酒呑童子

 八那の父であり、鬼の総大将。資料でいわれているその鬼は、背丈6メートルに角が5本。目が15個もあったという伝承が残っているそうです。

そんな酒呑童子は平安時代に源頼光によって退治されてしまいますが、それだけ驚異的な妖怪だったのでしょう。今作品での酒呑童子は、“神と人間の血を引く鬼の始祖”的な捉え方で執筆しております。

実父である八岐大蛇ですが、神話ではあまり多くは語られていませんが、素戔嗚に退治された大蛇が命からがら逃げだして、逃げ込んだ伊吹山にて玉姫御前との間に生まれたのが酒呑童子といわれています。また、彼の出生説には諸説あり、他にも越後・大江山・大和国でも彼に関する出生伝説が存在しています。言うまでもなく、皆麻は伊吹山での出生説を元に彼を執筆しております。いずれにせよ、どの説話でも“最初は人間として生きて、後に鬼と化した”ようです。また、“鬼”という存在も元は人間だったという事から、“鬼の始祖”という解釈を致しました。

今作品での酒呑童子――――八尋(やしろ)という名前で登場させた彼。大蛇の血を引き強い妖力を持っていたが、実は争いを好まないのではないかという考えから、迦楼羅による過去話編を執筆しております。大蛇だって、もしかしたら狂暴化しなかったのかもしれない。そんな想いもこめて、争いを好まない性格にした次第です。因みに、彼。源頼光に退治されたと資料にはありましたが、その方法も汚くて、(酒をよく呑むため)お酒に毒酒を混ぜて体を動けなくした所を押さえ、寝首を掻いて首を討ちとったということから、今作品でも(本編には出てきませんでしたが)むごい仕打ちによって退治されるという構想が頭にあった次第です。迦楼羅が人間の事をあまり好きではないのはおそらく、この八尋の一件があると思われます。



●茨木童子

 酒呑童子の部下として唯一名前があがっているのが、この鬼。今作品では八那の母で八尋の妻と位置づけになっているため、性別としては女としています。ただし、彼女?も旦那と一緒で諸説あり、一つ目は酒呑童子の妻ないし恋人。二つ目は、そのままで部下。もうひとつは、酒呑童子の息子(もしくは娘)という説があり、どちらが有力なのは正直わかっていません。ただし、名が後世に残っているという事は、人間にとってそれだけ驚異的な鬼の一人だったのでしょう。そのため、実際のところの性別も不明。ただし、今作品では八那の母親として登場させているため、酒呑童子と恋仲という設定に致しました。


●天狗と迦楼羅天

 天狗は本来、長い鼻に赤い顔といった一般的な天狗の外見を持つ”大天狗”。もうひとつは、鼻は長くないがとがっている"烏天狗”の2種類あります。異なるのは外見だけであり、どちらも強い神通力を持っています。天狗は”山の神”とも云われているため、山に出没する事が多い。そのため、今作を書くに当たってでてきた山は、実際に天狗伝説が残っている有名な山を使用してます。性格は皆バラバラですが、今作に出てきた女性の天狗というのも実際はいるそうですよ、尼天狗という形で。でもやはり、男の方が多いかなと考えて普通の男の天狗の方がたくさん出てきています。本来の天狗は、中国における凶事を報せる流星を意味する者らしく、日本にやってきたのは日本書紀だと云われる。その生き物の鳴き声が雷に似ているという。また、今作に出てきた天狗は“神”として信仰されている天狗だが、日本国内全部の天狗を登場させる事ができなかったため、下記に棲んでいる山と天狗の名前をあげておきます。


●愛宕山の「太郎坊 」

●秋葉山の「三尺坊 」

☆鞍馬山の「僧正坊」(鞍馬天狗)

☆比良山の「次郎坊 」

●比叡山の「法性坊」

●英彦山の「豊前坊 」

☆筑波山の「法印坊」

☆大山の「伯耆坊 」

●葛城山の「高間坊 」

●高雄山の「内供坊 」

●富士山の「太郎坊」

☆白峰山の「相模坊 」


☆は今作で登場した天狗を指します。また、現在の地名でいうと上から順に京都・静岡・滋賀・福岡・茨城・神奈川・奈良・京都・香川に当たります。一通り見る限り、やはり京都に棲む天狗が一番多いのがよくわかります。何故かはわかりませんが、平安時代を舞台とする作品で「京都に妖怪が現れやすい」というのと、似たようなものなのでしょうか。

 一方で天狗は、仏法を守る八部衆の一人・迦楼羅天が変化したものとも云われている。迦楼羅は元々、インド神話に出てくる巨鳥で、金色の翼に翼を持つ。そして、つねに火焔を吐き、龍を常食としているとされる。奈良の興福寺の八部衆像では、迦楼羅天には翼が無いが、京都の三十三間堂の二十八部衆の迦楼羅天は一般的な烏天狗のイメージそのものであるといわれています。私は実物を見たことはありませんがね。

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