第6頁目 

「おまえだけだよ、オレのストレスを癒してくれるのは・・・」

 裕史は頬につたわる仔犬の温もり(ぬくもり)で、しばらく抱擁(ほうよう)をしていた・・・


「なに、ブツブツと独り言 言っているのよ!」

 裕史は瑞穂の声を耳にすると振り返った。と同時に、瑞穂の姿にア然とする。

 裕史は何度も目を擦り、自分の目を疑う。

「み、瑞穂・・・そ、その格好は・・・?」

「どう、似合うでしょう?。わたしの為に創られたような衣装のようだわ^^。

 裕史には、初めて見せるけど、

 このスタイルは、わたしのお気に入りの競走用(ロード用)スタイルなのよ。

 競走(ロード)は、別にしてないけど、

 ただ、このスタイルが一番走りやすかっただけのことよ。 

 で?、とても似合うでしょう?」

 瑞穂は言葉を強調し裕史に強請すると、腰に手をあて裕史に見せびらかす。

 淡い紫色(パウダー・パープル)のハーフ・キャミソールと、

 ナイロン&ポリウレタン製の

 黒色の三寸丈スパッツを華麗に(?)着こなす瑞穂の姿に、

 裕史は顔を引きつらせながら、微妙に呆(あき)れ顔も覗かせている。

「み、瑞穂。と、とても似合うよ。ハッハッハッハッ・・・」

「・・・当たり前でしょう。わたしの競走用(ロード用)スタイルに文句つけたら、

 自転車(バイク)が宙を舞って、裕史の脳天を直撃・強打するわよ^^」

 ドガッ

「・・・み、瑞穂。も、もう直撃強打(ぶつかっ)てる・・・」

 言葉と同時に手が行動を起こす瑞穂は、すでに自転車(バイク)を裕史に向かって投げつけていた。

 自転車(バイク)の下敷きになっている裕史は、身体(からだ)に乗っかる自転車(バイク)を退(ど)けると、顔いっぱいにタイヤの跡をつけながら起き上がる。 

「・・・ったく、もう。もう少しで仔犬にぶつかるところだったじゃね~かぁ!」

 裕史は腕に抱き抱えていた仔犬を優しく笑顔で逃がすと、

 自転車(バイク)を起こしてから瑞穂をキッと睨みつける。

「オレは、何も文句なんて言ってね~じゃね~かよお~!」

「何言ってるのよ!裕史の顔が十分に文句を言っていたじゃない!」

「顔で判断すんじゃね~よ!」

「なによ!このわたしに喧嘩でも売ってるの?」

「・・・・・・」

 裕史は瑞穂に言い返せず半分イジケた表情を見せると、タイヤの跡のついた顔を触る。

「・・・ったく、すぐ喧嘩に持ちこもうとしやがる。

 オレが勝てないのを知ってて暴力振るうからお手上げだよ。

 ・・・オレが悪かったよ。

 顔に出したオレが悪かったから暴力はよしてくれ・・・」

「よ~し、判れば良い。そうやって素直になってくれれば、わたしの方もやりがいがあるわ^^。

 でも、抵抗しないと、もっといじめたくなるのよね~」

「このイジメっこ。サド!オニ!アクマ!」

「な、なによ~。わたしに文句あるなら、後ろ向かないで言いなさいよ!」

 裕史は瑞穂に面と向かって文句を言わずに、後ろを向いて呟(つぶや)くように言っていた。

 顔を触ってから、ニッカリとした笑顔で振り向く。

「痛くない・・・

 まったく痛くない・・・

 自転車(バイク)ぶつけられても痛くないや・・・

 最近、身体(からだ)が瑞穂の攻撃に慣れてきたのかなあ?。

 顔も身体(からだ)も全然痛くね~や^^」

「なあ~んだぁ、つまんな~い。裕史が強化してきてるなんて」

「瑞穂、残念でした。オレも自分自身が強化しているとは思わなかったぜ。

 ・・・で? さっき言ってた、ラ、ラボ・・・って、なんだ?」

 瑞穂はガードレールに座り。カバンから競争用(ロード用)専用のシューズを出し、履き替え始める。

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