第4話 斬りつける者 (5)

 急いで行ってドアを開ける。

「あら、泉君。いらっしゃい」

 知り合いの中では珍しい優しい系の女性、綾乃が向かってくれる。でも、それより先に向こうのカウンターに座っている凜の下に向かった。

「凛、ちょっと話だ。来てくれ」

「え、ちょっと、泉!?」

 驚く凜の手を掴んで直ぐに店を出ようとする。

「ああ、待って待って。それより新作食べていかない? ミートスパゲッティどんぶり、マヨネーズ和えなんだけど」

「……結構です」

「え? あ、あらそう……、残念」


 残念がる綾乃をよそに凜を引っ張って外に出る。

「泉、いきなりどうしたのだ!? はっ!? まさか、遂にあたしを襲おうとし」

「しないからな。赤くなる暇があったらシラトラを返してくれ!」

「……、あいかわらず直球だな。少しは他の芸も考えてみたらどうだ?」

「そういう問題じゃないんだ。今すぐシラトラをボーダーラックの手に戻さなければ、こっちに被害が出ることは間違いない。なんとしてもシラトラが必要なんだ!」


 出来る限り必死に凜に当たってみたが凜はやはり話には乗ってくれない。そのまま向こうに向かって歩き始めた。それに慌てて付いて行く。

「じゃあ、じゃあ、俺たちの仲間になってくれよ。ボーダーラックの一員になってくれたそれで一件落着」

「それはないな。言っただろう。あたしは味方にも敵にもなる気はない。それに戦争を止めるためには第三視点に立つ必要がある。あたしがボーダーラックに入ったらすべての意味が無くなる事になる」

「いや……、そこをさ……、何とかしてくれないか?」

 すたすた歩いていく凜をひたすら追いかけていると凜はふと亮人の方に振り返った。


「どうした、泉? 何かあったのか? 魔物にまた部隊がやられたのか?」

 急に心配そうに見てくる凜。その質問に亮人は唸った。

「魔物にじゃないんだけどな……」

 そんなあやふやな返答をしてみた。けれども凜はそれだけで察したらしくよりその小柄な顔を亮人に近づけてきた。

「まさか!? 別の組織のシステムか!?」

 そうかなりの剣幕でそう声を荒げてくる凜に圧倒され思わず後ろに一歩下がったが、何とか気持ちを保つ。そしてその返答に「そうだ」と返そうとした。


 だが、それよりも先に街中に警報が鳴りだしたのだ。近くにシェルターに避難しろと言う放送が流れ始める。それに伴い、周りにいる少ない人々は避難を始めた。同時に亮人のスマホには緊急招集がかかる。その場所は……、まさにここだった。


 亮人と凜の後ろから魔物の群れが大量に到着。やっぱり今回も混合の群れか……、しかも種族で固まっておらず完璧に様々な種族が一つの群れと化している。最早、指揮官がいなければできない芸当に間違いはない。恐らく、亮人と凜を狙っている。

『サモン・デバイス』

「悪いが話は後にしてもらうぞ」

「……、ああ、そうだな」

『プリーズ・セットゥ・ア・デバイス』

 情けなくも今の自分一人にこの群れと対峙するだけの実力はない。部隊のアーマーに装着はするが第一部隊が到着するまで黙って凜の後ろに下がるしかない。

『アーマーシステム・スタンバイ』

 凜は右手を横に伸ばして亮人をより後ろに下がらせる合図。

「泉は下がっていろ。あたし一人で問題は無い」

 女の子に言われるセリフじゃないよな。そんな自分に状況に思わず苦笑してしまうが、確かに凜にとっては多分問題ないのは確かだ。


『システム・オールグリーン・プットオン・スタート』

 その音声と共に群れに向かって走り出す。

『モデルタイガー・シラトラ・ミッションスタート』

 凜は右手首に添えると『サモン・タイガバスター』の音と共に剣を召喚。次々と魔物を薙ぎ払い始める。瞬く間に次々と消滅していく魔物。こりゃあ、部隊が到着する前にすべて倒されるわけだ。


 そして魔物も残り数体となった時だった、最期の一撃がシラトラの剣によって振られようとしたが、その魔物は横から飛んできた弾丸の雨によって先に倒されたのだ。剣が振られたときは既に消滅していく魔物のいた空間を空ぶるだけ。

 亮人と凜は咄嗟に弾丸が飛んできた方向に目を向けた。そこにいたのは黒い部隊、MOAT社だった。その部隊の中から、前回派手に魔物を切りつけた男が出てくる。


「なんだ、こいつら?」

 凜が亮人に耳打ちしてくる。

「あれが別の対魔物組織、MOATだ」

 それを言うと凜は一気に目つきを変えて一人飛び出している男ににらみを利かせた。

「殲滅の支援、感謝する。では、これで……、と言う形でもうお別れを望みたいところではあるが?」

「無理だな。お前ボーダーラックの対魔物システムだろ? だったらそれは優先的に潰せと上から命令を受けているからな」

 すると男は体に比べて異様に小さく見えてしまうスマホを取り出した。と、思ったのだけれどもよく見たらスマホじゃない。MOAT社のマークがあり、何か雰囲気も違う。


『クラッシュシステム・起動・システム良好・武装に移行します』

 男はスマホをササッといじるとそんな音声が鳴り出した。やがて黒い防具が男の体周りに出現。さらに左右の腰に鞘に入った刀が武装されていく。

『武装完了・スラッシャー』

 男は左の腰から一本刀を取り出し構える。

「佐久間魁(さくまかい)。そしてこれはMOAT社、対魔物武装システム。スラッシャー」


 と、発言した次の瞬間には大きな踏み出しと共に太刀が凜に入り込んできた。凜は咄嗟に剣を盾にして防御。耳をふさぎたくなるような金属音が響く。

「貴様、本当にこんな無駄な戦いをするつもりか?」

「俺には関係ないな。上からの命令に従うまでだ」

 それと同時に激しい弾き合い。互いに距離を取る。

『ショットガンモード』

 その隙にタイガバスターをショットガンに変えた凜は男、佐久間に向かって発砲。その瞬間だった。やはり確かに目が光った。その途端に体が歪み、今度は連続的な電気音。その後に再び元に戻った。


 まさか、エナジー弾のショットガンすら切り落としたのか? バカげている。ショットガンは一度の発砲で数個もの弾丸をまき散らす。それを体に当たる部分だけとはいえ切り落とすなど、ましてやエナジーの弾だと言うのに。

 その隙に接近戦に持ち込もうとしているのか急加速を掛ける佐久間。それに対し再び距離を取ろうと並行的に後ろに下がる凛だったが、どうも向こうの方が早い。追いつかれそうだ。


 それを直ぐに感づいたのか凜は腰からナイフピストルをドロウ。エナジー弾を発砲。相手の移動するベクトルと弾丸のベクトルがちょうど逆向き。プラスしたスピードで佐久間を襲うはずだったが、また目が光るとそれすらいとも簡単に刀で叩き落す。

『ソードモード』

 突如凜はブレーキをかけ振りかぶる。剣となったタイガバスターが振り切られ佐久間を襲う。が、また目が発光すると共に体が歪む。まるですり抜けるように凜の背後へと回った。


 でも、流石凜と言った所か、背中を剣でカバーし背後からの攻撃をしのいだ。反動に任せて空を飛ぶと、体を敵の方に向けて着地。後ろから向けられる黒い部隊の銃口をちらりと見たが佐久間が目の前にいるため発砲する気はないようで凜も動じてはいなかった。むしろ、


「なるほど、そのスラッシャーだっけか。そのシステムの事、少しは理解できたな。恐らく、目から入る情報を高速演算させ時間を緩やかにさせるのと、肉体に人外な反発力を強制的に付け加えるパワーアシストシステムが合わさっているな」

 ……、あの子、高校生ですよね? なんで、そう色々と完璧なのだろう。

「ふ~ん、よく分かったな」

「そっちのシステムは随分と肉体的負担が大きそうだな。で、まだ戦うつもりか? はっきり言ってあたしはそちらに勝ち目はないと思ったが」

「は?」

 へ? 勝ち目がない……? 流石にそうは思わなかった。少なくとも何か恐ろしい戦いが繰り広げられているなぁとしか思えなかった。凜の眼には本当に何が映っているのだろうか……?


「勝ち目がない……か。そう思った理由を形で示してもらおうか!」

 佐久間はまた一気に突進。と、体が一気に歪んでいき一瞬の間に凜の背後を取る。そしてそこから斬撃が来る。と思ったのだが、先に後ろに向かって凜の斬撃が入り込み始めていた。佐久間は目を光らせガードしたらしいが、衝撃によりかなり後退すると、同時に左からもう一本刀を取り出し、二刀流になった。


 目にも映らないスピードで切りかかる佐久間。だけれども凜はそれを簡単に見切ると無駄など一切ない動作ではじく。ベクトルが変えられた佐久間の剣先が明後日の方向へと流れていく。

『ショットガンモード』

 リロードと共にエナジー弾を間髪入れずまき散らす。佐久間は一度目の発砲を剣で叩き落す。凜はリロード、もう一発。それを佐久間は横に跳躍してかわした。

 さらに、急に高速フットワークに入りだす佐久間。恐らく相手に捉えさせないための動きだ。


 その間に凜はさらにリロード。佐久間はまるで凜の死角を見つけたとでもいうように凛の懐に潜り込んだ。と思ったのだが、どうやら凜はそれすら分かっていたようだ。というよりもしかしたらあえて隙を作らせたのかもしれない。そう思わせるほど的確に銃口をもぐりこもうとした佐久間に当てたのだ。

 超至近距離からの発砲。物凄い衝撃音と共にさくまは弾き飛ばされた。『ソードモード』と鳴り響き、更に追う凛。佐久間は直ぐに態勢を引き戻し、目を光らせたのだが、その時すでに佐久間の首元にタイガバスターの先端部分が当てられていた。


 見事決着が着いた。それは傍から見ていた亮人すら確かにそう思えた。凜はゆっくりと剣をおろし、『ショットガンモード』と、再び散弾銃形態に戻す。そして後ろを向くとゆっくり歩き出した。

「強さはシステムの性能じゃない。使用する者のテクニックが全てだ。そしてあたしは最強と言う事だな。どっかの有名アニメキャラも似たような事を言っていただろう。性能の違いが戦力の決定的差ではない、とな」


 また凜がやたらと挑発している? 時々見える凜の隠れたその性格が亮人にはよく分からない。でも、それが佐久間を刺激したことに変わりはなく、両手の刀に力を込め、後姿の凜に切りかかり始めた。

『エナジーチャージ・OK』

「浅はかだな」

『タイガーショット』

 冷たい音声と共に後ろを向いたまま放たれる巨大なエナジー砲。いつの間にかブレイクファンクションを発動していたのだ。恐らく、さっきの挑発時に。亮人も気が付かなかった。

 不意を突かれ、近距離から攻撃を受けた佐久間は完全に沈黙。チャージされたエナジー弾をまともに受けた佐久間は動けそうになかった。相手は防具があったから良かった者の、もし、相手が亮人たちのような部隊防具であったならひとたまりもなかったはずだ。


 凜はちらりと佐久間の方を見ると冷たいトーンで語りかけた。

「あたしは君と戦うためにシステムを使っている訳でも、人間と敵対するために使っている訳でもない。あたしの目的は魔物の殲滅。人間と戦う訳にはいかないからな。この言葉が通じる、届くとは思わないが言っておこう。二度とあたしに戦いを挑もうとするな。せっかくのシステム、対魔物に全力を注ぐのだな」

 そう言うと堂々と佐久間の前を通り亮人の方に近づいてきた。その姿に亮人はひたすら驚きを隠せない。まるで全てがシナリオのような結果。挑発のような態度も圧倒的に叩きのめしたのも、相手の戦意をそぐためだと考えていい。凜は本当にしっかり自分の意思の元動いている。誰の意思に影響されることもなく。


 で、結局その後、凜は姿をけし、部隊が到着したころにはMOATの部隊は撤退。既にすべて解決していた。

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