第18話 相談事



 佐座目は資料室からもってきた地図を広げて、稲穂と話を始める。

 思いついた事があたのだが、それを作戦に組み込めるかどうかの判断材料が欲しかったのだ。


「……という事で、この作戦が実行可能なのか、意見を聞きたくて」

「可能か不可能かで言ったら可能だ。ただ、時間はかかるぞ」

「それば、整備的な意味でですか、それとも……」

「どちらもだ。修理に使う機材が足らん、こんな時代であんな動く的を地下道以外で使おうと考えるとはな。後者の方はそっちでなんとかしろ」

「もっともですね」


 整備班班長とのやりとりを切り上げて、そこでいったん理沙に頼み事。


「と、言うわけで美玲さんを呼んできてくれませんか」

「いいけど、あんたがそんな事思いつくなんて、牙の考えが移ったんじゃないの? よしてよね、あんな馬鹿は一人で十分なんだから」

「大丈夫ですよ。真似したくても並みの努力じゃ兄さんになれそうにない」


 理沙を送り出して、さらに細部について話を進めていると、休憩時間になったのか、それまでの真剣な空気がやわらいだ。

 整備班の人たちがそれぞれの作業をやめて、思い思いの時間を過ごしている。


「小僧、何で急に作戦に乗り気になった」


 手を休めて目を閉じていた稲穂が佐座目に尋ねるのはもっともな内容だろう。

 だが、乗り気になっていない状態の佐座目と稲穂とは、出会ったことも話した事もないはずだが、どこかで会ったのだろうか。


「美玲から話を聞いた。柄にもなく、少し浮ついているようだったからな」

「美玲さんの武器の整備は貴方がやってるんですか?」

「あいつは何の用事がなくとも、たまにこういう場所にも現れる」

「なるほど、面倒見がいいんですね」


 記憶喪失だと話した佐座目の世話を焼いたりと、クールな言動と見た目に反して意外におせっかいな人のかもしれない。


 しかし、菖蒲の口からに美玲の口からと、佐座目の個人情報が流出しているのだが。そこの所どうなのだろうか。

 別にそれに関して、佐座目は迷惑だという意識はないのだが二人の性格ならもうちょっと口が堅くてもいいのではないだろうかと思う。


 ともあれ、先の稲穂の疑問に答える。


「別に大層なことはきっかけなんてありませんよ。大事な人が困っていたら助けてやりたいと思うのが人として当然の事じゃないですか?」

「さっきの小娘か。だが、その話が本当なら、大事な人とやらはつい最近まで、いなかったという事になるが」


 佐座目の言う大事な人が、理沙を示していることはもうばれているらしい。

 分かりやすかっただろうか?

 水菜さんに鼻の下を伸ばす兄さんじゃあるまいし、そんなはずはない。


 しかし……、この世界で生きているはずの佐座目だとしてさっきの発言を考えると、なるほど確かに妙な事だ。


 大事な人が死んでいたと思っていたか、または急に心境の変化があって大事だと思うようになったか……。

 普通に考えられるのはその二点だが、目の前の人はそうは思っていないようだ。


 この人、班長をやってるだけあって、勘が良いかも知れない。


 佐座目がそれについて何かを言おうとした時、整備室の一画で、ヒステリックな声が上がった。


「貴様等! もう作戦まで幾分も時間がないというのに、よく平気な顔をして油をうっていられるな!」


 その男は、リンカ・コア作戦の説明をしていた五十嵐というあの男だった。


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