第24話 連絡通路



 角から顔をのぞかせて理沙が様子を見る。


「ちょっと、これ大丈夫なの?」


 不安そうな顔をひっこめて美玲の方へ視線を向けるが、僕も同じ気持ちだ。


 一号棟へと渡る連絡通路へとたどり着いたとき、多少の事では動じないと自負している佐座目も少し顔をひきつらせた。


「ひょっとして、ここを渡るんですか?」

「ひょっとしなくてもここしかないだろう」


 美玲が当然のように返す。


 そうですよね。


 連絡通路は錆びついていて、しかも所々底が抜けているし、ヒビも大分入っている。

 見上げれば、連絡通路の天井には無数の機銃がしかけられていて、動くものを自動的に射撃するようになっていた。

 さらに前方には、今までのフロアで出会ったバケツ型のものよりも、一回り大きくした防衛機械が、通せんぼするように居並んでいる。


 それらを目前にしながら佐座目達はつかの間の休息時間で息を整える。

 ほどなくして遅れていた仲間たちが到着した。

 彼らとはここでお別れだ。


 物量で攻めてくる機械に今まで文字通り雨嵐を降り注ぐように能力を使ったのだ。

 消耗しているだろうし、彼らを連れて行っても(悪く言う事になるが)足手まといになるだけだ。


 幸いな事に一号棟は重要な研究結果がいくつも残されている建物なので、物量で押してくることはないというのが救いだが。

 追いついてきた彼らには、これから一仕事してもらった後、残りの敵を可能な限り排除してもらって脱出の為の退路確保をしてもらう予定だ。


 前衛組の数人と最後の確認を済ませた美玲は、追いついてきた後の仲間達に声を掛ける。


「いいな、打ち合わせ通りにやるぞ! ここでいったん別れる事になるが、それぞれ自分のできる事をしてほしい、目的を達成してもお前たちの力添えがなければ私達は無事に日常へ戻る事はできない、当てにしているぞ!」


 よく通る声でそんな事を言えば、その中から五十嵐が歩み出てきた。


「ふん、そこまでやればもう十分だ。今までよくやってくれた、後は私が引き継ぐ」

「何?」


 そして、連絡通路へ向きなおろうとしていた美玲にそんな言葉をかけたのだ。

 美玲も周囲にいた人間達も、あっけにとられたような表情でその男を見つめる。


 きっとみんなこう思っているはずだ。

 この男は一体何を言っているのだろう。


「聞こえていなかったのか? 後は私がやると言ったのだ」

「何を言っている。五十嵐隊長、部隊の指揮は私に任せると……」

「ええい、ごちゃごちゃとうるさい! 部隊の隊長はこの私だろうが、時間を無駄に使わせるな。さっさと行くぞ!!」


 有無を言わせぬ口調で押し切り、五十嵐が通路を飛び出していく。


「待て! 仕方ない、やるぞ」


 見捨てることもできず、何より時間がない事は確か。美玲達は仕方なしに五十嵐の動きに合わせるように、連絡通路へと身を躍らせた。


 走りながら美玲は無線機を使って、離れた所で待機しているだろう整備班たちへ指示を出した。


「作戦だ、頼む!」

「ご武運を!」「やってきてくれよ」「行ってくれ!」

 

 エージェント達が声援を送りながら二号棟と連絡通路の境界に立ち並ぶ。

 彼らは最後の支援をまっとうし、天井にある機銃を異能で吹き飛ばし、押しつぶした。


「どうかご無事で」


 最後のは菖蒲の声だった。

 後で言葉をかけておこうとそう思いながら、佐座目達は粉々になった機械が降り注ぐ中を走り抜けていく。


 前方にいる防衛機械たちが、近づいてきた佐座目達を確認し、レンズを光らせこちらへ向かって攻撃をしようとするが……、


 その頭上から天井もろとも、何かが落ちてきた。


 それは整備班の乗った改造された戦車のような威容をした車だった。


 ボロボロになったボディで、元はついていただろう必要な部品などはかけている様に見えるが、新たに別の部品で改造の施されたそれは、機械たちを押しつぶし、道を鳴らして一号棟へと侵入していった。


 改造車の突入での連絡通路の攻略時間の短縮。

 それが、周囲のビルとの高低差を考え、連絡通路の状況を調べた末に、佐々目が思いつい作戦だった。


「ったく、よくあんな作戦思いついたわよね。あいつらも。いくら計算上大丈夫だからって、アレで空飛んだりなんかしないわよ」


 隣で走る理沙が呆れたような声を漏らせば美玲も同意の声を上げる。


「まったくだ、サザメには驚かされてばかりだな」


 そんなにとんでもない事をしたような気はしてないんですけどね。


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